ミドルマーチ4 [19世紀イギリス文学]
「ミドルマーチ4」 ジョージ・エリオット作 廣野由美子訳 (古典新訳文庫)
架空の町ミドルマーチに住む数人の男女を軸に、様々な人間模様を描いた作品です。
1871年刊行です。古典新訳文庫で全4巻です。今回はその第4巻を紹介します。
リドゲイトは、ロザモンドとの新生活のため作った借金を、返済できずにいました。
屋敷を他人に譲って狭い家に移ろうという計画は、妻ロザモンドに妨げられました。
夫婦仲はすっかり冷めました。ロザモンドは不愉快のすべてを夫のせいにしました。
リドゲイトはバルストロードに援助を頼みましたが、あっけなく拒絶されました。
実はそのころバルストロードは、昔の知り合いのラッフルズにゆすられていました。
彼には、銀行家として名を成す前、誰にも言えない後ろめたい過去があったのです。
しかしバルストロードは、リドゲイトを拒絶した翌日、彼に援助を申し出ました。
喜ぶリドゲイト。しかし、これは喜ぶべきことなのか? 裏に何かあるのでは?
ラッフルズが病死し、バルストロードはもう秘密が漏れないと思いましたが・・・
ラッフルズを診察して銀行家の援助を受けたリドゲイトには、あらぬ疑いが・・・
「ミドルマーチ」の面白いところは、結婚の「その後」を描いているところです。
ドロシアにしてもリドゲイトにしても、新生活の幻滅が生々しく描かれています。
そこが、結婚で完了したオースティンの物語とは、根本的に違うところです。
どろどろした感情に目を向けた点に、「ミドルマーチ」の価値があると思います。
そのような中で、対照的に際立つのが、バルストロードの妻であるハリエットです。
ここまでほとんど目立たなかった彼女が、ここでもっとも感動的な場面を作ります。
「彼女は悲しみに沈みつつも、夫を責めようとはせず、恥辱と孤独をともに分かち合
おうとしていた。(中略)彼女の手と目は、優しく彼のうえに留まっていた。彼はわ
っと泣き出し、彼女は夫の傍らに坐って、二人はともに泣いた。」(P240~P245)
バルストロードにとって不幸中の幸いは、妻が思いやり深い女だったということです。
一方リドゲイトにとっての不幸は、妻が思いやりに欠けた女だったということです。
この巻でもっとも印象に残るのは、リドゲイト夫婦の溝がどんどん深まる場面です。
特に、甘やかされて育ったロザモンドは、自分のことしか考えられず身勝手で・・・
しかし、リドゲイトにとっての救いは、ドロシアが良き理解者であったことです。
それにしても、リドゲイトがドロシアにことの顛末を語る場面は実に痛々しいです。
「ぼくはバルストロードさんから金を受け取ったので、あの人の人格がぼくをも包み
込んでしまったわけです。ぼくはだめになってしまって、どうしようもありません。
枯れたトウモロコシの穂みたいなものです。いったんやってしまったことは、取り返
しがつきません」(P271)
リドゲイトに同情したドロシアは、彼の潔白を伝えるためロザモンドを訪問します。
ところが、ドロシアの家で見たものは・・・最後の最後まで目が離せない展開です。
この作品は第4巻に入ってもダレることなく、かえっていっそう面白くなりました。
しかも、終盤に入ってドロシアは、我々読者にとって想定外の決心をして・・・
ところで、後半に重要な役割を果たすラディスローは、あまり存在感がありません。
だから、なぜそれほどドロシアの心を惹きつけるのか、私には分かりませんでした。
ただし、彼は次のような名言を残しています。
背筋がぞっとするようなセリフですが、彼の気持ちが素直に吐露されています。
「あの人に比べられる女性なんてひとりもいない。ほかの女の生きた手に触れるよ
りも、死んだ手でもいいから、あの人に触れるほうが、ぼくにはいい」(P303)
最終章は「フィナーレ」となっていて、登場人物の「その後」が描かれています。
私としては、リドゲイトとロザモンドの「その後」が、少しだけ残念でした。
さて、ようやく最後まで読みました。本当にすばらしい作品でした。
「今年読んだ小説ベスト5」に、必ず入る作品だと今から宣言しておきます。
さいごに。(股関節の痛み)
先日、400mハードルを完走してから、右の股関節に時々激痛が走ります。
指で押さえると痛みはやわらぎますが、忘れた頃にまた痛くなるので少し不安です。
架空の町ミドルマーチに住む数人の男女を軸に、様々な人間模様を描いた作品です。
1871年刊行です。古典新訳文庫で全4巻です。今回はその第4巻を紹介します。
リドゲイトは、ロザモンドとの新生活のため作った借金を、返済できずにいました。
屋敷を他人に譲って狭い家に移ろうという計画は、妻ロザモンドに妨げられました。
夫婦仲はすっかり冷めました。ロザモンドは不愉快のすべてを夫のせいにしました。
リドゲイトはバルストロードに援助を頼みましたが、あっけなく拒絶されました。
実はそのころバルストロードは、昔の知り合いのラッフルズにゆすられていました。
彼には、銀行家として名を成す前、誰にも言えない後ろめたい過去があったのです。
しかしバルストロードは、リドゲイトを拒絶した翌日、彼に援助を申し出ました。
喜ぶリドゲイト。しかし、これは喜ぶべきことなのか? 裏に何かあるのでは?
ラッフルズが病死し、バルストロードはもう秘密が漏れないと思いましたが・・・
ラッフルズを診察して銀行家の援助を受けたリドゲイトには、あらぬ疑いが・・・
「ミドルマーチ」の面白いところは、結婚の「その後」を描いているところです。
ドロシアにしてもリドゲイトにしても、新生活の幻滅が生々しく描かれています。
そこが、結婚で完了したオースティンの物語とは、根本的に違うところです。
どろどろした感情に目を向けた点に、「ミドルマーチ」の価値があると思います。
そのような中で、対照的に際立つのが、バルストロードの妻であるハリエットです。
ここまでほとんど目立たなかった彼女が、ここでもっとも感動的な場面を作ります。
「彼女は悲しみに沈みつつも、夫を責めようとはせず、恥辱と孤独をともに分かち合
おうとしていた。(中略)彼女の手と目は、優しく彼のうえに留まっていた。彼はわ
っと泣き出し、彼女は夫の傍らに坐って、二人はともに泣いた。」(P240~P245)
バルストロードにとって不幸中の幸いは、妻が思いやり深い女だったということです。
一方リドゲイトにとっての不幸は、妻が思いやりに欠けた女だったということです。
この巻でもっとも印象に残るのは、リドゲイト夫婦の溝がどんどん深まる場面です。
特に、甘やかされて育ったロザモンドは、自分のことしか考えられず身勝手で・・・
しかし、リドゲイトにとっての救いは、ドロシアが良き理解者であったことです。
それにしても、リドゲイトがドロシアにことの顛末を語る場面は実に痛々しいです。
「ぼくはバルストロードさんから金を受け取ったので、あの人の人格がぼくをも包み
込んでしまったわけです。ぼくはだめになってしまって、どうしようもありません。
枯れたトウモロコシの穂みたいなものです。いったんやってしまったことは、取り返
しがつきません」(P271)
リドゲイトに同情したドロシアは、彼の潔白を伝えるためロザモンドを訪問します。
ところが、ドロシアの家で見たものは・・・最後の最後まで目が離せない展開です。
この作品は第4巻に入ってもダレることなく、かえっていっそう面白くなりました。
しかも、終盤に入ってドロシアは、我々読者にとって想定外の決心をして・・・
ところで、後半に重要な役割を果たすラディスローは、あまり存在感がありません。
だから、なぜそれほどドロシアの心を惹きつけるのか、私には分かりませんでした。
ただし、彼は次のような名言を残しています。
背筋がぞっとするようなセリフですが、彼の気持ちが素直に吐露されています。
「あの人に比べられる女性なんてひとりもいない。ほかの女の生きた手に触れるよ
りも、死んだ手でもいいから、あの人に触れるほうが、ぼくにはいい」(P303)
最終章は「フィナーレ」となっていて、登場人物の「その後」が描かれています。
私としては、リドゲイトとロザモンドの「その後」が、少しだけ残念でした。
さて、ようやく最後まで読みました。本当にすばらしい作品でした。
「今年読んだ小説ベスト5」に、必ず入る作品だと今から宣言しておきます。
さいごに。(股関節の痛み)
先日、400mハードルを完走してから、右の股関節に時々激痛が走ります。
指で押さえると痛みはやわらぎますが、忘れた頃にまた痛くなるので少し不安です。
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