SSブログ

すらすら読める方丈記 [日本の古典文学]

 「すらすら読める方丈記」 鴨長明著 中野孝次訳 (講談社文庫)


 出家遁世した長明が、体験してきた災厄と自身の思想を記した随筆文学です。
 「徒然草」「枕草子」と並び、日本三大随筆のひとつです。鎌倉時代に成立。


すらすら読める方丈記 (講談社文庫)

すらすら読める方丈記 (講談社文庫)

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/10/16
  • メディア: 文庫



 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。・・・」
 冒頭のこの名文を、高校の国語の授業で学習した人は、きっと多いことでしょう。

 私もその一人。しかし高校時代には、この作品の魅力が全く分かりませんでした。
 そりゃ、そうですよ。若さ爆発の時代に、「無常観」を味わえって言ってもねえ。

 ところが今、51歳になって読み返してみると、意外なほどに面白いのです。
 年を重ねたためか、長明の放つちょっとした言葉に、しびれてしまうのです。

 「世にしたがへば、身、くるし。したがはねば、狂せるに似たり。」

 「事を知り、世を知れれば、願はず、走らず。
 ただ、静かなるを望みとし、愁へ無きを楽しみとす。」

 「おほかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし。
 命は天運にまかせて、惜まず、いとはず。身は浮雲になずらへて、頼まず」

 そういえば高校時代に、「隠者になりたい」と言っていた友人がいました。
 鴨長明のように、田舎に方丈の庵を結んで、自由に生きたいと言うのです。

 10年ほど前に陸上部の集まりで再会した時、彼はIT企業で働いていました。
 いわく「残業ばかりで自由な時間など無い」 思うようにいかないものです。

 さて、本書は中野の訳と補足説明が、「方丈記」の魅力を増幅させています。
 訳は分かりやすく「すらすら読め」て、補足説明には長明への愛があります。

 特に、第三部と第四部の補足説明は、鴨長明の生涯を愛おし気に語っています。
 長明のことがが好きで好きでたまらない人が、書いたんだなあと思いました。

 実は私は最初、角川ソフィア文庫のビギナーズ・クラシックスで読みました。
 ところが、解説における言い回しに引っかかって、途中でやめてしまいました。

 著者は随所で、長明をちくちく批判しています。たとえば、次のような言葉で。
 「いかにも苛烈な政権抗争の圏外で、ぬるま湯に浸かって育った長明らしい。」

 角川ソフィア文庫版は、図版が多く充実していますが、私には合わなかった。
 気になって、アマゾンのレビューを見たら、同じような意見が多かったです。

 なお、中野孝次による「すらすら読める」の姉妹編に、「徒然草」もあります。
 中野がどのようなコメントをしているか、少し気になります。


すらすら読める徒然草 (講談社文庫)

すらすら読める徒然草 (講談社文庫)

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/15
  • メディア: 文庫



 また、中野孝次といえば、世捨て人の暮らしを論じた「清貧の思想」でしょう。
 バブル崩壊後の1992年に出て、大きな反響を呼び起こしました。再読したい。


清貧の思想 (文春文庫)

清貧の思想 (文春文庫)

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/11/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(走れるようになりました)

 昨年の秋に、左ひざの後十字靭帯を損傷し、ずっとリハビリを続けてきました。
 ようやく違和感が無くなり、少しずつ走れるようになってきました。

 100mは15秒、200mは30秒かかりましたが、走れるようになっただけで有難い。
 本を読むことと走ることが、人生における私の大きな楽しみなので。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。