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贋金つくり [20世紀フランス文学]

 「贋金(にせがね)つくり(上・下)」 ジッド作 川口篤訳 (岩波文庫)


 作家エドゥワールの行動を主軸に、さまざまな出来事が絡み合う、複雑な物語です。
 多くの登場人物の異なる視点で描かれ、ヌーヴォー・ロマンの先駆け的な作品です。


贋金つくり (上) (岩波文庫)

贋金つくり (上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/05/05
  • メディア: 文庫



贋金つくり (下) (岩波文庫)

贋金つくり (下) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/05/05
  • メディア: 文庫



 ベルナール少年は、出生の秘密を知って家出し、オリヴィエ少年の家に泊まりました。
 翌日オリヴィエは、尊敬する叔父で作家のエドゥワールを迎えに、駅に行きました。

 実はオリヴィエの後を、ベルナールがこっそりついてきていたのです。
 ベルナールはある手段を使って、エドゥワールの秘書となり、スイスへ旅立ちました。

 一方オリヴィエは、パッサヴァン伯爵の後ろ盾で、新しい雑誌の編集長になりました。
 実はパッサヴァン伯爵も作家で、エドゥワールとは、ライバル関係にあって・・・

 上巻は読むのが大変でした。人物関係をたどるだけで、頭がくらくらしました。
 「世界文学データベース」というページの、人物関係図を見てやっと整理できました。

 多くの登場人物がいますが、主要な人物は、大きく分けて三つのチームに分かれます。
 作家エドゥワールと少年ベルナール。作家パッサヴァンと少年オリヴィエ。塾生たち。

 その中でもエドゥワールの視点は、物語の中心となっています。
 「エドゥワールの日記」が、時々挿入されて、物語を補っています。

 ところで、「贋金つくり」の犯罪集団がなかなか登場しないので、じれてきました。
 というか、犯罪小説を期待すると、「法王庁の抜け穴」同様、肩透かしをくらいます。

 ジッドがこの小説でやりたかったことは、「純粋小説」なるものの追求だそうです。
 「純粋小説」とは何か? 登場人物エドゥワールが、次のように説明しています。

 「小説から、特に小説本来のものでないあらゆる要素を除き去ること。」
 「外部の出来事、偶発事件、外傷的疾患は、映画の領分で、小説はこれらのものを映画
 に任せて置けばいい。人物の描写でさえ、本来小説に属するものとは私には思えない」
 (上巻P101)

 それはつまり、出来事を淡々とたどっていく、ということになるのではないか?
 最終的には、新聞記事みたいに、味気ないものになってしまうのではないか?

 私の正直な感想を言いましょう。
 「ジッドは余計なことをぐじゃぐじゃ考えて、作品を中途半端なものにしてしまった」

 特に上巻はひどい。本当は、もっと単純に分かりやすく、面白く書けたはずです。
 岩波文庫「贋金つくり」が絶版で、たまにしか復刊されない理由がよく分かります。

 とはいえ下巻に入ると、決闘騒ぎ、自殺未遂、ボーイズラブ、恋愛と嫉妬、贋金事件、
 天使の登場、自殺事件などなど、次々と勃発して、なかなか読ませる展開となります。

 極めつけはラスト第三部の17章と18章。この場面はどんな恐怖小説よりも怖いです。
 それにしても、破滅に向かって淡々と進んでしまうのは、どういうことなのか?

 「われわれが意志と呼んでいるものは、操り人形を動かす糸に過ぎず、その糸は神様
 が操っているのだということを、わしは覚ったよ。」(下巻P40 ペリーズの言葉)

 「贋金つくり」は、ヌーヴォー・ロマンの先駆けとして、文学史的に重要です。
 ジッドの最高傑作とする人もいるので、マニアなら一度は読んでおきたい作品です。

 さて、作品中、ある女性の言った、次の言葉が印象に残りました。
 これは小説を批判した言葉としても、理解できます。

 「理性で捉えられないものは、たくさんあります。人生を理解するために理性を用い
 ようとする人は、火挟みで焔をつかもうとする人に似ています。つかんだのは燃えさ
 しの木片で、焔はたちまち消えてしまいます。」(上巻P237)

 さいごに。(ああ、私の楽園が・・・)

 緊急事態宣言が解除されて、真っ先に行ったお店はショッピングモールの書店です。
 ところが! なんと! 文房具コーナーが、ドカーンとできていたのです。

 そして、なんと! なんと! 文庫本コーナーが、ギュッと縮小されていたのです。
 ああ、この店もまちがった方向へ行こうとしている! と心で叫んでしまいました。

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