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秘密の武器 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「秘密の武器」 コルタサル作 木村榮一訳 (岩波文庫)


 「悪魔の涎」「追い求める男」等、作家として最も充実していた時期の短編集です。
 1959年刊。短編集の代表作です。4年後に、代表作「石蹴り遊び」が刊行されます。


秘密の武器 (岩波文庫)

秘密の武器 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/07/19
  • メディア: 文庫



 「悪魔の涎」は、アマチュア・カメラマンの身に起こった恐怖体験を描いています。
 ある日曜日ミシェルは、カメラを持ってパリのサン・ルイ島を散歩していました。

 15歳くらいの少年に、年上の女がからみつく場面を見て、シャッターを切りました。
 家に帰って写真を現像してみると・・・あの場面の恐ろしい続きが・・・

 「悪魔の涎」は、コルタサルの短編を代表する作品です。
 アントニオーニの1967年映画「欲望」のネタとなったことで、広く知られています。

 タイトル作「秘密の武器」は、しだいにじわじわと恐怖が湧きおこる心理小説です。
 語り口が曖昧で、もやもやしながら読んでいくと、突然彼らの心の闇を垣間見ます。

 ピエールの心には何かが入り込んだのか? それともただの思い込みなのか?
 ミシェルは何に怯えていたのか? すべては彼女の深層心理が作り出したのでは?

 そして、結末はどうなったのか? あの終わり方はないだろう(いい意味で)。
 読み終わった後まで、読者に闇を抱え続けさせるような、実に稀有な作品です。

 冒頭の「母の手紙」もまた、同じような味わいがありました。死んだ兄が・・・
 「女中勤め」という作品は、正直に言って、私には意味が分かりませんでした。

 さて「秘密の武器」全5作中、私が最も衝撃を受けたのは「追い求める男」です。
 伝記作家であるブルーノから見た、サックス奏者ジョニーの姿が描かれています。

 そして、作中のジョニーは、チャーリー・パーカーの晩年の姿を写しています。
 麻薬におぼれ、意識は朦朧とし、カネも失って、パトロンの元に転がり込み・・・

 しかし、そういう破滅的な生き方をしながら、なおジョニーは追い求めています。
 その追い求めているものとは何か、その点に迫った物語です。

 「これはもう明日吹いた曲だぜ、なんてこった、これはもう明日吹いた曲だ」
 「うまく言えないが、音楽はおれを時間の外へ連れ出してくれたんだ」

 「地下鉄に乗るのは時計の中に閉じ込められるようなものだ。つまりあれは、お前
 たちの時間、今の、この時間なんだ。だが、おれにはまた別の時間があるってこと
 が分かっているんだ」

 「ニューヨークで演奏した時、自分の音楽でドアを開けたような気がしたんだ。だ
 が、演奏をやめなければならなかった。とたんに、あのいまいましい神様は、おれ
 の目の前でドアをぴしゃりと閉めてしまった」

 ジョニーの言う「別の時間」とは何か? 「ドア」の向こうには何があるのか?
 ジョニーが追いかけていたものは、どのようなものだったのか?

 パーカーの現実的な生涯をなぞりながら、ある意味幻想的な作品となっています。
 おそらくパーカーもまた、演奏を通して異界を感じとっていたように思います。

 改めて、チャーリー・パーカーのCDを聴き直したくなる作品でした。
 特に、「チャーリー・パーカー・ストーリー・オン・ダイアルvol.1」を聴きたい。

 古くて音が悪いので、「マニア向け」として紹介されることが多いアルバムです。
 しかし音源の悪さに懐かしい味わいがあり、どの曲も短いので意外と聴きやすい。

 19歳のマイルスを起用して吹き込んだ「チュニジアの夜」はサイコーです。
 また、ヘロヘロ状態で吹いた「ラヴァー・マン」など、興味深い演奏もあります。

 ちなみに、このラヴァーマン・セッションのあと、ボヤ騒ぎを起こして病院へ。
 「追い求める男」でも、この辺りのことが書かれていました。

 さてJazzの魅力は、曲が今生まれたばかりの生々しさを、味わえる点にあります。
 Jazzを聴き始めてかれこれ30年。どこかで、Jazzについても書いてみたいです。

 さいごに。(お盆の仕事も中止)

 コロナのせいで(コロナのおかげで?)、GWの大きな仕事が無くなりました。
 そして、夏のお盆に予定されていた全国規模の仕事も、中止が決定しました。

 この仕事、私は役員になっていて、今年はお盆休みは無いと覚悟していたのです。
 正直、ほっとしました。それでなくても、休業分を取り戻すため忙しくなるので。

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