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ブロディ―の報告書 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「ブロディ―の報告書」 J・L・ボルヘス作 鼓直訳 (岩波文庫)


 タイトル作ほか「マルコ福音書」など、七十歳のボルヘスの晩年を飾る短編集です。
 バロック的なスタイルを捨てて、新しい境地を開いた作品集です。


ブロディーの報告書 (岩波文庫)

ブロディーの報告書 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/05/17
  • メディア: 文庫



 冒頭の「じゃま者」はひどい話です。無法者であるニルセン兄弟の絆の物語です。
 自分の女が「じゃま」になると、兄のクリスチャンはいったいどうしたか?

 「ロセンド・フアレスの物語」は、中で最も気に入った作品です。
 人一倍度胸のあるロセンドが、怖くもない相手との決闘に、なぜ応じなかったのか?

 「人間、その身に何かが起こっても、長い年月がたってからでないとその意味がわか
 らない。あの晩わたしが経験したことも、原因は、遠いむかしにあった。」(P44)

 「めぐりあい」は印象的な作品です。この物語の主役は、ナイフです。
 「闘ったのは人間ではなく、ナイフだった。」 めぐりあったのもまた・・・

 「フアン・ムラーニャ」も、私のお気に入りの作品です。 
 債権者を殺し、自分たちを助けてくれたのは誰だったのか? 故人のフアンなのか?

 「マルコ福音書」は、作者がこの本の中で、最高の出来ばえと言っている作品です。
 ただし、私にはよく分かりませんでした。結末は、どういうこと?

 「グアヤキル」も、よく分からない作品でした。
 どうして最後、「わたし」はツィマーマンに栄誉を譲らなければならなかったのか?

 大臣の秘書から連絡があった時点で、もうこの結末は決まっていたのでしょうか?
 「マルコ福音書」と「グアヤキル」は、読後にもやもやが残りました。

 タイトル作である「ブロディーの報告書」は、この中で最も面白い作品でした。
 宣教師ブロディ―が、退化した種族ヤフー族について報告した文章です。

 「詩人の言葉がみんなの心を捕らえた場合は、みんなははなはだしい畏怖に駆ら
 れて、黙って詩人のそばをはなれる。詩人に精霊がのり移ったと感じるのだ。(
 中略)彼はもはや人間ではなくて、神であり、誰でも彼を殺すことが許される。
 ・・・」(P159)

 さて、「老夫人」という作品の中に、印象的でちょっと面白い文章がありました。
 ボルヘスの、「夢」についての考え方が分かる文章です。

 「周知のとおり、睡眠はわれわれの行動のなかでももっとも神秘的なものだ。われ
 われはそれに人生の三分の一を捧げ、しかもそれを理解できないでいる。ある者た
 ちにとっては、それは意識の消滅にすぎないが、別の者たちにとっては、同時に過
 去と現在と未来とが見渡される、より複雑な状態であり、さらに別の者たちにとっ
 ては、中断することのない一連の夢である。」(P89)

 さいごに。(父の得意技)

 私が小さいとき、父が「いいものあげるよ」と言っても、近寄ってはいけなかった。
 近づこうものなら、父はくるりとお尻を向けて、ブッとおならをくれたものです。

 その後15年ほどしたとき、父はまったく同じことを私の甥っ子たちにしていました。
 さらにその15年後、今度は私が自分の娘に同じことをして、顰蹙を買っていました。

 もう少したつと、今度は甥っ子たちが・・・?
 こうやって、わが家の得意技は受け継がれていくのでしょうか。

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