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北回帰線2 [20世紀アメリカ文学]

 「北回帰線」 ヘンリー・ミラー作 大久保康雄訳 (新潮文庫)


 パリで友人宅を転々としながら送った、自堕落でハチャメチャな生活を描いています。
 筋らしい筋のない自叙伝です。1969年初版の大久保康雄訳です。(そろそろ新訳を)


北回帰線 (新潮文庫)

北回帰線 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: 文庫



 「パリは売笑婦に似ている。遠くから見ると、男の魂をとろかすようであり、彼女を
 両腕に抱きしめるまで待ちきれぬほどだ。しかも、五分後には空虚感を味わい、自己
 嫌悪をおぼえる。だまされた思いだ。」(P354)

 後半、フィルモアのアトリエに寄宿するようになってから、物語の面白さが増します。
 ロシア女との同棲、フィルモアとジネットとの婚約、フィルモア救出の顛末・・・

 私は、終盤に入ってようやく、この作品の読み方のコツをつかんできました。
 それは一言で言うと、「考えが書かれた部分は、軽く読み飛ばせ」というものです。

 この作品はざっくりと言って、「ぼく」の「体験」と「考え」が書かれています。
 「体験」は具体的で面白いのですが、「考え」は抽象的でなんだかよく分からない。

 たとえばP405からの段落は、30ページにわたって、うじゃうじゃ書かれています。
 そういう段落は、適当に読み飛ばしちゃっていい(と私は思います)。

 しかし、最後はとても印象的な結末でした。私はこれを、青春小説だと思いました。
 「ぼく」は最後に、やや乱暴なやり方でしたが、まっとうなことをしたと思います。

 彼はここで大人になったのです。つまり、彼の青春は終わったのです。
 フィルモアとの別れは、青春時代との別れでもあります。だから寂しい余韻がある。

 フィルモアをアメリカに帰した「ぼく」は、そのままパリにとどまりました。
 しかし、今後の「ぼく」のパリ生活は、今までとは少し変わってくるはずです。

 ところで、作者ヘンリー・ミラーは、5回結婚して8人の妻を持ったのだそうです。
 最後の結婚は、75歳の時で、相手は50歳ほど年下でした。生涯青春だったわけです。

 興味深いのは、その最後の妻が、日本人のホキ徳田という方だということです。
 そして彼女は今、六本木で「北回帰線」というバー&カレー屋をやっていると言う。

 なお、ホキ徳田(84歳?)は、現在日本最高齢のジャズ・シンガーだそうです。
 「ヘンリー・ミラーの八人目の妻」という本を書いています。単行本です。


ヘンリー・ミラーの八人目の妻

ヘンリー・ミラーの八人目の妻

  • 作者: ホキ徳田
  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 2021/03/13
  • メディア: 単行本



 「北回帰線」については、松岡正剛の「千夜千冊」649夜で取り上げられています。
 松岡正剛による作品紹介は、いつも独特の視点があって、とても興味深いです。

 しかしここで面白かったのは、松岡氏自身の「娼婦の家に3日間幽閉された」体験。
 うらやましいような、恐ろしいような、ともかくすごい体験を松岡氏もしています。

 649夜「北回帰線」→ https://1000ya.isis.ne.jp/0649.html

 さて、ヘンリー・ミラーは、このあと自叙伝の第二弾「南回帰線」を書いています。
 「北回帰線」と同じく、大久保訳が新潮文庫から出ていましたが、現在は絶版です。


南回帰線 (1969年) (新潮文庫)

南回帰線 (1969年) (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/03/14
  • メディア: 文庫



 さいごに。(「ヒストリエ」が面白い)

 「ヒストリエ」は、紀元前のギリシアが舞台の歴史マンガです。めちゃ面白い!
 アレクサンドロス大王の書記官エウメネスの、波乱万丈の生涯を描いています。


ヒストリエ(1) (アフタヌーンコミックス)

ヒストリエ(1) (アフタヌーンコミックス)

  • 作者: 岩明均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: Kindle版



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