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若い藝術家の肖像2 [20世紀イギリス文学]

 「若い藝術家の肖像」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一訳 (集英社文庫)


 文学を志すようになる青年の成長過程を、多くの断章によって描いた自伝的作品です。
 前半では宗教との決別と芸術への意欲が、後半では自身の美学論が書かれています。


若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 文庫



 芸術への道を進む決意をしたスティーヴンは、大学で多くの仲間と出会いました。
 彼らと芸術について話すうちに、スティーヴン自身の芸術論も確立してきました。

 自我も育ち、自分が信じないことに仕えたりはしない、と思うようになりました。
 復活祭で聖体拝領するようにと言う母親と喧嘩して、友人に相談すると・・・

 「この糞だめみたいに臭い世の中では、ほかのものはみんな不確かだけれど、母親
 の愛情だけはそうじゃない。お母さんは君をこの世に連れて来た人だし、最初に自
 分の体のなかに君をかかえてきたわけだ。」(P453)

 妥協してお母さんを安心させろという、親友クランリーの意見にも納得しません。
 周囲との間に隔たりを感じたスティーヴンは、この後どのような決意をするのか?

 さて、終盤にかけての読みどころは、若者たちの芸術談話でしょう。
 タイトルからして、作者の最も書きたかったことは、この場面にあると思います。

 ところがこの場面は、若者特有の熱に駆られて、小難しい言葉を使っています。
 だから内容を理解するのがたいへんなわりに、中身が薄いようにも感じました。

 「いちばん単純な叙事的形式というのは、藝術家が叙事的事件の中心としての自分
 を延長し、そういう自分について考えるときに、抒情文学から現れて来るものだ。
 そしてこの形式が進展すると、とうとう、情緒の重力の中心が藝術家じしんからも
 他人からも同距離の所にあるようになるんだよ。」(P400)

 こういう議論は文学好きならばけっこう楽しいものです。
 しかし、読者みなが楽しめ、味わうことができるものでしょうか?

 ところで、清水義範「独断流『読書』必勝法」には、興味深い指摘がありました。
 スティーヴンは理屈をこねているうちに、なんとなく藝術家を志した、とのこと。

 なるほど。そう言われてみると、藝術を志すための大きなきっかけはありません。
 そういう意味で、スティーヴンは軟弱というか、おこちゃまというか・・・

 それを証明するように、「ユリシーズ」に登場する22歳のスティーヴンは・・・
 そう考えると、彼らの芸術論もまた浅はかなものとして描かれているのか・・・

 さあ、次はいよいよ「ユリシーズ」全四巻に挑戦です。
 その第一巻からスティーヴンが登場すると言います。ちょっと楽しみです。

 さいごに。(エンサイマーダ)

 スペイン料理で有名なマヨルカは、日本では二子玉川ライズだけにあるようです。
 菓子パンのエンサイマーダは、ザッハトルテと並んでおいしかったです。

 表面はパリッとしていて、口に含むと溶けていくような独特の食感でした。
 サングリアと一緒にひとつ食べました。あと3つくらい食べておきたかったです。

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