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わたしたちが孤児だったころ [20世紀イギリス文学]

 「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ作 入江真佐子訳(ハヤカワ文庫)


 探偵として成功した「わたし」が、かつて上海の租界で失踪した両親を探す物語です。
 日本生まれのイギリス人で、ノーベル賞作家イシグロの、第5作の長編小説です。


わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/03/01
  • メディア: 文庫



 「わたし」ことクリストファー・バンクスは、子供のころ上海の租界で育ちました。
 しかし、両親が反アヘンの運動に関わったためか、二人とも行方不明となりました。

 伯母を頼ってロンドンに渡ったクリストファーは、探偵としての地位を築きました。
 ロンドンで、いなくなった両親の居場所の目途をつけ、いよいよ上海にわたり・・・

 両親はどこに行ったのか? まだ生きているのか? 誰による犯行だったのか?
 フィリップ叔父さんは、なぜクリストファーを置き去りにしたのか?

 ハードボイルドっぽい雰囲気で、スリリングな展開をするとても魅力的な作品です。
 特に、上海での展開が目まぐるしくて、読み始めたら、本を置くことができません。

 この作品は、上海の租界と幸せだった子供時代に対する、喪失感を描いています。
 昔の上海も子供時代も遠いところに行ってしまい、もう戻らないという喪失感を。

 上海については、子供時代にヒーローだったクン警部の言葉が象徴しています。
 落ちぶれたクン警部の言葉に、作者が最も伝えたかったことがあるように思います。

 「この街に負けました。誰もが友人を裏切ります。誰かを信じても、結局そいつは
 ギャングの手下だったってことがわかるのですよ。政府もギャングと同じです。こ
 んなところで職務を果たす刑事って何なんでしょう?」(P343)

 クン警部のおかげで、両親の幽閉場所の目星がついて、単身つき進むが・・・
 最後にイエロー・スネークが語った真実は、まったく意外で・・・

 父はどうなったのか? 母はどうなったのか? フィリップ叔父さんは?
 そして、クリストファーに与えられた遺産は、誰によるものだったのか?

 「わたしには子供時代がとても外国の地のようには思えないのですよ。いろんな意
 味で、わたしはずっとそこで生きつづけてきたのです。今になってようやく、わた
 しはそこから旅立とうとしているのです」(P467)

 両親と子供時代を取り戻そうとした彼は、その代償に、残酷な真実を知りました。
 真実をしっかり見据えて、ようやく子供時代の呪縛から解放されたと思います。

 さて、この物語の終盤で、突然アキラが登場した点が、やや不自然だと感じました。
 彼は自分の役割を果たすとあっけなく退場します。ここに御都合主義を感じました。

 とはいえ、「読ませる」作品です。
 これまでに読んだカズオ・イシグロの作品の中で、最も面白かったです。

 さいごに。(すでに過労死ライン)

 10月に大きなイベントを控えています。その責任者が私なので、連日大忙しです。
 ここ10日ほど本を1ページも読めず、ブログもまったく書けませんでした。

 まだ中旬というのに残業時間は50時間超え。今月の残業もおそらく100時間超え。
 こんな状況なので、しばらく更新できていませんでした。

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