鉄の時代 [20世紀イギリス文学]
「鉄の時代」 J・M・クッツェー作 くぼたのぞみ訳 (河出文庫)
末期がんの老女が、南アフリカの混乱した状況を、娘への手紙で残した物語です。
作者は南アフリカ出身で、英語で書いています。2003年にノーベル文学賞受賞。
クッツェーの作品は、ブッカー賞の「マイケルK」と「恥辱」も文庫で出ています。
しかし、池澤夏樹の世界文学全集は「鉄の時代」を収録。文庫版はカバーが秀逸。
南アフリカの白人住宅街で、末期癌の「わたし」ミセス・カレンは暮らしています。
「わたし」は日々の出来事を綴っていますが、これがこの小説の内容となっています。
ある日家の敷地内に、ひとりのホームレスの男が、犬と一緒に居座っていました。
「わたし」が癌の激痛に襲われ、男に助けてもらってから、交流が始まりました。
男の名はファーカイル。「わたし」は彼に、死後における重要な仕事を頼みました。
それは、アメリカで暮らす娘に、自分の綴った手紙(遺書)を送るというものです。
やがてファーカイルは、「わたし」のお金を取って、酒を飲むようになりました。
黒人の家政婦フローレンスは言い放ちます。「この人は人間のくずです。」と。
「人間にくずなんていないの。わたしたちはみんなおなじ人間なんだから。」
「わたし」は弁護しますが、しかし、町では人種差別が平然と行われていて・・・
この作品を読むに当たっては、二つの予備知識が必要となります。
ひとつ目は「鉄の時代」。これは、ギリシア神話における時代区分のひとつです。
神話の時代は、黄金の時代→銀の時代→銅の時代→鉄の時代と移ってきました。
銅の時代から人心は荒れ始めて、鉄の時代から人間はあらゆる悪行を始めました。
タイトルの「鉄の時代」とは、戦闘状態にある南アフリカの現状を表しています。
当時、反アパルトヘイト側と、それをおさえつける権力者側が闘争していたのです。
予備知識のふたつ目は、南アフリカの状況。特に「アパルトヘイトをめぐる闘争」。
これが綴られた1986年は、アパルトヘイト体制が崩壊し始めた頃に当たります。
物語中にも、警察による黒人への暴力や、人種差別が描かれています。
特に、黒人居住区ググレトゥにおける銃撃戦で、「わたし」が見たものは・・・
「どれほど偽装を凝らそうと、戦争は戦争。仮面を剥げばわかるわ。ひとつの例外も
なく、美辞麗句の名のもとに、年長者が若者を死へ送り込むことよ。」(P239)
最も印象に残っている場面は、「わたし」が少年たちに襲われる場面です。
金歯を探して口をこじあける少年たちに、慈悲を請うことの無意味さ!
「ばかばかしい。なぜ、この世に慈悲がなければならないの? 甲虫のことを思った。
あの大きな黒い甲虫たちが、背中をまるめて、かすかに脚を振り動かしながら死んで
いくところを。そのうえにたかった蟻が、甲虫のやわらかい部分をかじり、間接、眼
球と、その肉をむしり取っていく。」(P233)
そして「わたし」もまた、老いて病におかされた体を・・・
その最期を看取ることになるのは・・・ラストは味わい深かったです。
さて、クッツェーの作品中、世界で最も読まれているのが「恥辱」だそうです。
少し興味を持って、ウィキペディアのあらすじを読んでみたら・・・
暗澹たる気持ちになり、まったく読む気が湧きませんでした。
いつかまた、何かの拍子に読みたくなるときまで、待とうと思います。
さいごに。(年末に必ずやりたいこと)
年末の休暇で、書棚の整理をしたいです。本があふれてしまっているので。
できれば200冊ぐらい捨てたいのですが、なかなか本は捨てられなくて・・・
末期がんの老女が、南アフリカの混乱した状況を、娘への手紙で残した物語です。
作者は南アフリカ出身で、英語で書いています。2003年にノーベル文学賞受賞。
クッツェーの作品は、ブッカー賞の「マイケルK」と「恥辱」も文庫で出ています。
しかし、池澤夏樹の世界文学全集は「鉄の時代」を収録。文庫版はカバーが秀逸。
南アフリカの白人住宅街で、末期癌の「わたし」ミセス・カレンは暮らしています。
「わたし」は日々の出来事を綴っていますが、これがこの小説の内容となっています。
ある日家の敷地内に、ひとりのホームレスの男が、犬と一緒に居座っていました。
「わたし」が癌の激痛に襲われ、男に助けてもらってから、交流が始まりました。
男の名はファーカイル。「わたし」は彼に、死後における重要な仕事を頼みました。
それは、アメリカで暮らす娘に、自分の綴った手紙(遺書)を送るというものです。
やがてファーカイルは、「わたし」のお金を取って、酒を飲むようになりました。
黒人の家政婦フローレンスは言い放ちます。「この人は人間のくずです。」と。
「人間にくずなんていないの。わたしたちはみんなおなじ人間なんだから。」
「わたし」は弁護しますが、しかし、町では人種差別が平然と行われていて・・・
この作品を読むに当たっては、二つの予備知識が必要となります。
ひとつ目は「鉄の時代」。これは、ギリシア神話における時代区分のひとつです。
神話の時代は、黄金の時代→銀の時代→銅の時代→鉄の時代と移ってきました。
銅の時代から人心は荒れ始めて、鉄の時代から人間はあらゆる悪行を始めました。
タイトルの「鉄の時代」とは、戦闘状態にある南アフリカの現状を表しています。
当時、反アパルトヘイト側と、それをおさえつける権力者側が闘争していたのです。
予備知識のふたつ目は、南アフリカの状況。特に「アパルトヘイトをめぐる闘争」。
これが綴られた1986年は、アパルトヘイト体制が崩壊し始めた頃に当たります。
物語中にも、警察による黒人への暴力や、人種差別が描かれています。
特に、黒人居住区ググレトゥにおける銃撃戦で、「わたし」が見たものは・・・
「どれほど偽装を凝らそうと、戦争は戦争。仮面を剥げばわかるわ。ひとつの例外も
なく、美辞麗句の名のもとに、年長者が若者を死へ送り込むことよ。」(P239)
最も印象に残っている場面は、「わたし」が少年たちに襲われる場面です。
金歯を探して口をこじあける少年たちに、慈悲を請うことの無意味さ!
「ばかばかしい。なぜ、この世に慈悲がなければならないの? 甲虫のことを思った。
あの大きな黒い甲虫たちが、背中をまるめて、かすかに脚を振り動かしながら死んで
いくところを。そのうえにたかった蟻が、甲虫のやわらかい部分をかじり、間接、眼
球と、その肉をむしり取っていく。」(P233)
そして「わたし」もまた、老いて病におかされた体を・・・
その最期を看取ることになるのは・・・ラストは味わい深かったです。
さて、クッツェーの作品中、世界で最も読まれているのが「恥辱」だそうです。
少し興味を持って、ウィキペディアのあらすじを読んでみたら・・・
暗澹たる気持ちになり、まったく読む気が湧きませんでした。
いつかまた、何かの拍子に読みたくなるときまで、待とうと思います。
さいごに。(年末に必ずやりたいこと)
年末の休暇で、書棚の整理をしたいです。本があふれてしまっているので。
できれば200冊ぐらい捨てたいのですが、なかなか本は捨てられなくて・・・
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