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鉄の時代 [20世紀イギリス文学]

 「鉄の時代」 J・M・クッツェー作 くぼたのぞみ訳 (河出文庫)


 末期がんの老女が、南アフリカの混乱した状況を、娘への手紙で残した物語です。
 作者は南アフリカ出身で、英語で書いています。2003年にノーベル文学賞受賞。

 クッツェーの作品は、ブッカー賞の「マイケルK」と「恥辱」も文庫で出ています。
 しかし、池澤夏樹の世界文学全集は「鉄の時代」を収録。文庫版はカバーが秀逸。


鉄の時代 (河出文庫)

鉄の時代 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/05/07
  • メディア: 文庫



 南アフリカの白人住宅街で、末期癌の「わたし」ミセス・カレンは暮らしています。
 「わたし」は日々の出来事を綴っていますが、これがこの小説の内容となっています。

 ある日家の敷地内に、ひとりのホームレスの男が、犬と一緒に居座っていました。
 「わたし」が癌の激痛に襲われ、男に助けてもらってから、交流が始まりました。

 男の名はファーカイル。「わたし」は彼に、死後における重要な仕事を頼みました。
 それは、アメリカで暮らす娘に、自分の綴った手紙(遺書)を送るというものです。

 やがてファーカイルは、「わたし」のお金を取って、酒を飲むようになりました。
 黒人の家政婦フローレンスは言い放ちます。「この人は人間のくずです。」と。

 「人間にくずなんていないの。わたしたちはみんなおなじ人間なんだから。」
 「わたし」は弁護しますが、しかし、町では人種差別が平然と行われていて・・・

 この作品を読むに当たっては、二つの予備知識が必要となります。
 ひとつ目は「鉄の時代」。これは、ギリシア神話における時代区分のひとつです。

 神話の時代は、黄金の時代→銀の時代→銅の時代→鉄の時代と移ってきました。
 銅の時代から人心は荒れ始めて、鉄の時代から人間はあらゆる悪行を始めました。

 タイトルの「鉄の時代」とは、戦闘状態にある南アフリカの現状を表しています。
 当時、反アパルトヘイト側と、それをおさえつける権力者側が闘争していたのです。

 予備知識のふたつ目は、南アフリカの状況。特に「アパルトヘイトをめぐる闘争」。
 これが綴られた1986年は、アパルトヘイト体制が崩壊し始めた頃に当たります。

 物語中にも、警察による黒人への暴力や、人種差別が描かれています。
 特に、黒人居住区ググレトゥにおける銃撃戦で、「わたし」が見たものは・・・

 「どれほど偽装を凝らそうと、戦争は戦争。仮面を剥げばわかるわ。ひとつの例外も
 なく、美辞麗句の名のもとに、年長者が若者を死へ送り込むことよ。」(P239)

 最も印象に残っている場面は、「わたし」が少年たちに襲われる場面です。
 金歯を探して口をこじあける少年たちに、慈悲を請うことの無意味さ!

 「ばかばかしい。なぜ、この世に慈悲がなければならないの? 甲虫のことを思った。
 あの大きな黒い甲虫たちが、背中をまるめて、かすかに脚を振り動かしながら死んで
 いくところを。そのうえにたかった蟻が、甲虫のやわらかい部分をかじり、間接、眼
 球と、その肉をむしり取っていく。」(P233)

 そして「わたし」もまた、老いて病におかされた体を・・・
 その最期を看取ることになるのは・・・ラストは味わい深かったです。

 さて、クッツェーの作品中、世界で最も読まれているのが「恥辱」だそうです。
 少し興味を持って、ウィキペディアのあらすじを読んでみたら・・・

 暗澹たる気持ちになり、まったく読む気が湧きませんでした。
 いつかまた、何かの拍子に読みたくなるときまで、待とうと思います。


恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2007/07/15
  • メディア: 文庫



 さいごに。(年末に必ずやりたいこと)

 年末の休暇で、書棚の整理をしたいです。本があふれてしまっているので。
 できれば200冊ぐらい捨てたいのですが、なかなか本は捨てられなくて・・・

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