ミス・リグビーの幸福 [日本の現代文学]
「ミス・リグビーの幸福」片岡義男(ハヤカワ文庫)
21歳の私立探偵マッケルウェイが、様々な孤独な人々と出会う、連作短編集です。
1985年に出ました。片岡が最も活発に活動していた時期の、11編の作品群です。
この本は、片岡の作品の中で、現在でも手に入る貴重な文庫本なので購入しました。
いずれも主人公は21歳の私立探偵アーロン・マッケルウェイ。舞台はアメリカです。
冒頭の「ハンバーガーの土曜日」は、とても切ない物語で、印象に残る名作です。
マイケルを探して、自殺した姉の代わりに、さよならを伝えるという依頼です。
マイケルのものらしい電話番号にかけると、パメラという女性が出ました。
パメラの案内でサマータイムという町の銀行まで来て、そこで見た光景は・・・
マイケルたちは何をしたのか? なぜそんなことをしたのか?
彼らの極限状況が、淡々とした会話の中で明かされて、かえって涙を誘います。
「皮肉だね」
「なにが」
「ちょうど決行の日に、ぼくがきみをさがす羽目になるとは」
「皮肉ではないよ」とマイケルは薄く笑った。「めぐり合わせというものだろう」
タイトル作の「ミス・リグビーの幸福」は、謎が謎のまま残る不思議な作品です。
自分と同じ境遇で自殺した女性の、自殺の理由を調査してほしいという依頼です。
死んだ女性は会社の秘書として非常に優秀で、仕事上のトラブルはありません。
金銭的にも恵まれ、男性とのトラブルもなく、自殺の予兆などありませんでした。
アスレチック・クラブに行っても、まったく収穫はありませんでした。
ところがそこの指導者は、依頼者のミス・リグビーにすぐに電話しろと言い・・・
終盤の展開がすごいです。まったく意外な方向に物語が進んでいきます。
謎はまったく解明されないまま終わりますが、そこがこの物語の肝となっています。
「ビングのいないクリスマス」もまた、謎が解明されないまま終わります。
しかし、読者には種明かしがあります。ちょっと変わった作品で、面白かったです。
弟から絵はがきが送られてから33年後に、違和感を覚えた姉からの調査の依頼です。
その絵はがきは、弟が消息を絶った2年後に、旅先から送られてきたのですが・・・
ある男に行き当たって、謎の解明の一歩手前にいながら、何も分からなかった徒労。
探偵という稼業のむなしさを感じさせるところが、作品の主眼だったのでしょうか。
「いつか聴いた歌」は、ラストを飾るにふさわしい、余韻の残る物語です。
自分しか知らないはずの曲を歌っている人がいるので、調査してほしいとのことです。
そのミュージシャンはその曲を、どのように手に入れたのか?
その女ミュージシャンと、依頼人の女との、意外なつながり・・・
全11篇、探偵小説ですが、謎解きよりも人間模様に、作品の重心が置かれています。
あえて普通の探偵小説にしなかったことが、次のような文句からも分かります。
「大不況のまえにできた建物のドアが人間に化けて歩いているような中年の私立探
偵たちは、どこへいっちまったんだい。」(P323)
全体を通して、登場するのは孤独な人物ばかりで、なかなか味わい深かったです。
物語全体から喪失感による哀愁が漂っていて、私は村上春樹をイメージしました。
ところで読書仲間は、「彼のオートバイ、彼女の島」を勧めますが、現在絶版です。
そういえば、最近「スローなブギにしてくれ」の新版が、文庫で出ていました。
「スローなブギにしてくれ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2018-09-01
さいごに。(今年も冗談のように忙しい)
年度初めはいつもそうですが、冗談のように忙しいです。あまりに忙しくて笑えます。
ブログは書き溜めた文章を使っています。これで、ストックが尽きました。あーあ。
21歳の私立探偵マッケルウェイが、様々な孤独な人々と出会う、連作短編集です。
1985年に出ました。片岡が最も活発に活動していた時期の、11編の作品群です。
ミス・リグビーの幸福―蒼空と孤独の短篇 (ハヤカワ文庫 JA カ) (ハヤカワ文庫JA―片岡義男コレクション)
- 作者: 片岡 義男
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 文庫
この本は、片岡の作品の中で、現在でも手に入る貴重な文庫本なので購入しました。
いずれも主人公は21歳の私立探偵アーロン・マッケルウェイ。舞台はアメリカです。
冒頭の「ハンバーガーの土曜日」は、とても切ない物語で、印象に残る名作です。
マイケルを探して、自殺した姉の代わりに、さよならを伝えるという依頼です。
マイケルのものらしい電話番号にかけると、パメラという女性が出ました。
パメラの案内でサマータイムという町の銀行まで来て、そこで見た光景は・・・
マイケルたちは何をしたのか? なぜそんなことをしたのか?
彼らの極限状況が、淡々とした会話の中で明かされて、かえって涙を誘います。
「皮肉だね」
「なにが」
「ちょうど決行の日に、ぼくがきみをさがす羽目になるとは」
「皮肉ではないよ」とマイケルは薄く笑った。「めぐり合わせというものだろう」
タイトル作の「ミス・リグビーの幸福」は、謎が謎のまま残る不思議な作品です。
自分と同じ境遇で自殺した女性の、自殺の理由を調査してほしいという依頼です。
死んだ女性は会社の秘書として非常に優秀で、仕事上のトラブルはありません。
金銭的にも恵まれ、男性とのトラブルもなく、自殺の予兆などありませんでした。
アスレチック・クラブに行っても、まったく収穫はありませんでした。
ところがそこの指導者は、依頼者のミス・リグビーにすぐに電話しろと言い・・・
終盤の展開がすごいです。まったく意外な方向に物語が進んでいきます。
謎はまったく解明されないまま終わりますが、そこがこの物語の肝となっています。
「ビングのいないクリスマス」もまた、謎が解明されないまま終わります。
しかし、読者には種明かしがあります。ちょっと変わった作品で、面白かったです。
弟から絵はがきが送られてから33年後に、違和感を覚えた姉からの調査の依頼です。
その絵はがきは、弟が消息を絶った2年後に、旅先から送られてきたのですが・・・
ある男に行き当たって、謎の解明の一歩手前にいながら、何も分からなかった徒労。
探偵という稼業のむなしさを感じさせるところが、作品の主眼だったのでしょうか。
「いつか聴いた歌」は、ラストを飾るにふさわしい、余韻の残る物語です。
自分しか知らないはずの曲を歌っている人がいるので、調査してほしいとのことです。
そのミュージシャンはその曲を、どのように手に入れたのか?
その女ミュージシャンと、依頼人の女との、意外なつながり・・・
全11篇、探偵小説ですが、謎解きよりも人間模様に、作品の重心が置かれています。
あえて普通の探偵小説にしなかったことが、次のような文句からも分かります。
「大不況のまえにできた建物のドアが人間に化けて歩いているような中年の私立探
偵たちは、どこへいっちまったんだい。」(P323)
全体を通して、登場するのは孤独な人物ばかりで、なかなか味わい深かったです。
物語全体から喪失感による哀愁が漂っていて、私は村上春樹をイメージしました。
ところで読書仲間は、「彼のオートバイ、彼女の島」を勧めますが、現在絶版です。
そういえば、最近「スローなブギにしてくれ」の新版が、文庫で出ていました。
「スローなブギにしてくれ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2018-09-01
さいごに。(今年も冗談のように忙しい)
年度初めはいつもそうですが、冗談のように忙しいです。あまりに忙しくて笑えます。
ブログは書き溜めた文章を使っています。これで、ストックが尽きました。あーあ。
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