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王道 [20世紀フランス文学]

 「王道」 アンドレ・マルロー作 渡辺淳訳 (講談社文芸文庫)


 古代クメール王国の古寺院を探して、密林を彷徨うふたりの白人の冒険の物語です。
 1930年刊。マルロー自身が、以前カンボジアで体験したことをもとに描いています。


王道 (講談社文芸文庫)

王道 (講談社文芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/04/10
  • メディア: 文庫



 カンボジアの密林の中、アンコールに続く王道に沿い、多くの寺院が残っています。
 26歳のクロードは、寺院の浮彫などを盗掘して、巨万の富を得ようと考えています。

 クロードが船の中で知り合ったペルケンという男は、ある人物を追っていました。
 クロードは、密林の事情に明るいペルケンを、仲間に引き入れようと持ちかけます。

 「ラオスから海岸にかけて、密林にはヨーロッパ人がまだ知らない寺院がかなりたく
 さんありますよ・・・」
 「ああ、金の仏像のことだろう? おれはけっこうだよ!・・・」
 「浅浮彫りや彫像は金じゃありませんが、莫大な値打ちです・・・」

 結局クロードはペルケンを引き入れ、現地人たちを雇って、密林に分け入りました。
 苦しい探索ののち、ようやく廃墟に残った浮彫を発見し、苦労して切り出しました。

 ところが、雇っていた者たちは逃亡し、戦闘的な部族からの龍来を受けて・・・
 クロードとペルケンは危機を乗り越えられるか? 彼らは浮彫を持ち帰れるか?

 私は前半の、仏像のレリーフを発見するまでを、ワクワクしながらよみました。
 しかし、読みどころはそのあとの展開。レリーフを手に入れた後、彼らは・・・

 冒険小説と言っても娯楽小説ではありません。どんどん絶望的な状況に向かいます。
 結末には救いがありません。あるのは、人間存在とは何かという問いかけだけです。

 この小説は、若いころ盗掘をしてプノンペンで逮捕された体験をもとにしています。
 当時のヨーロッパの人々は、この小説によってインドシナ事情を知ったのです。

 考古学や芸術に関心を持つマルローは、1960年から1969年に文化相を務めました。
 人生は分かりません。かつてレリーフを盗んだ男が、文化相にまで上り詰めるとは。

 マルローが政治家になったきっかけは、ド・ゴール将軍と意気投合したことでした。
 「解説」でこのふたりは、「王道」のクロードとペルケンのようだと述べています。

 さて、訳は2000年と古くはないのですが、正直に言って分かりにくかったです。
 しかしその一方で、名文と言いたくなるようなフレーズが、いくつもありました。

 「冒険家というものは虚構癖の産物ですよ」(P20)

 「青春とは、いつかは改宗しなくちゃいけない宗教のようなもんだ」(P83)

 「死はそこにある、そうだろう、まるで・・・まるで人生の不条理の否定できない
 証拠みたいにね・・・」(P146)

 ところで、アンドレ・マルローの作品は、今ではあまり読まれていないようです。
 マルローが読まれなくなってしまったのは、彼が政権に加わったからだそうです。

 マルローが体制側の人間と認識されると、作品の魅力は失われました。皮肉ですね。
 かつて文庫で出ていた「人間の条件」も「希望」も、現在は絶版で手に入りません。

 1933年刊行の「人間の条件」は、彼の代表作として広く知られているのですが・・・
 新潮文庫さんはぜひ復刊してほしいです。または、新訳版の出版を心より望みます。


人間の条件 (新潮文庫)

人間の条件 (新潮文庫)

  • 作者: アンドレ・マルロー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/09/17
  • メディア: 文庫



 9月28日現在、新潮文庫の「人間の条件」は中古で3000円の高値がついています。
 これでは人に勧められませんし、買って読む気にもなれません。残念な作品です。

 さいごに。(日本保守党に期待)

 日本保守党のX(旧ツイッター)のフォロワー数が、あっさり自民党を抜きました。
 まだ政策がはっきりしていませんが、ぜひとも保守の「王道」を行ってほしいです。

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