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「失われた時を求めて」への招待 [20世紀フランス文学]

 「『失われた時を求めて』への招待」 吉川一義 (岩波新書)


 「失われた時を求めて」の核心部分を、多方面から易しく解き明かした入門書です。
 著者はプルースト研究の第一人者で、岩波文庫「失われた時を求めて」の訳者です。


『失われた時を求めて』への招待 (岩波新書 新赤版 1884)

『失われた時を求めて』への招待 (岩波新書 新赤版 1884)

  • 作者: 吉川 一義
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2021/06/22
  • メディア: 新書



 第1章 プルーストの生涯と作品
 第2章 作中の「私」とプルースト ——一人称小説の狙い
 第3章 精神を描くプルースト ——回想、印象、比喩
 第4章 スワンと「私」の恋愛心理
 第5章 無数の自我、記憶、時間
 第6章 「私」が遍歴する社交界
 第7章 「私」とドレフュス事件および第一次世界大戦
 第8章 「私」とユダヤ・同性愛
 第9章 サドマゾヒズムから文学創造へ
 第10章 「私」の文学創造への道

 以上の10章で構成されています。第1章、第2章、第3章、第5章が良かったです。
 中でも私にとって特に面白かったのは、第2章における「語り手の私」の考察です。

 「語り手の『私』は、最晩年の老人といった具体的肉体をもつ存在ではなく、むしろ
 あらゆる言説が生じるところに発生する語る声として、抽象的な発話の現在として、
 『失われた時を求めて』の至るところに偏在すると考えるべきだろう。」(P44)

 つまり「語り手の私」は、その場面その場面で時間を超越して現れると言います。
 これは、私の頭の中にある、「時間を越えて浮遊する魂」のイメージと重なります。

 物語の冒頭で語られる朦朧とした意識は、死の前に体から抜け出る魂を暗示します。
 そのことについて私は、「失われた時を求めて1」で以下のように考察しました。

 ・・・私はこの朦朧状態は、時空をさ迷う「魂」を暗示していると思っています。
 永遠の眠りに就く直前に、体から抜け出た「魂」が、人生を回想しているのだ・・・

 そして、この「魂=語り手の私」は、最後の最後に小説を書こうと覚悟を決めます。
 ところが、おそらくその直後に、寿命が来てしまうのではないのでしょうか。

 「失われた時を求めて」という小説の終りは、「浮遊する魂」の消滅を意味します。
 ということで、私は「失われた時を求めて」は、書かれなかったと思っています。

 繰り返します。「失われた時を求めて」は書かれなかった。これが物語のオチです。
 いけませんね、著書の紹介よりも、私の勝手な夢想ばかりを書いてしまいました。

 ところで、巻末の「失われた時を求めて」年表と、プルースト略年譜はすばらしい。
 前者が左のページ、後者が右のページにあり、簡単に対照することができます。

 特に前者は、ぐじゃぐじゃになっていた頭の中を整理するのに大変役立ちました。
 たとえば、ジルベルトと会ったのが12歳頃、アルベルチーヌと会ったのは18歳頃。

 と、これまであやふやだった年齢が、だいたいイメージできるようになりました。
 右ページのプルースト略年譜を対照しながら読むと、さらに興味深かったです。

 余談ですが、本書でもっとも印象に残っていた部分は、ジッドの日記の引用です。
 ジッドは、前日のプルーストとの対話について、次のように記したのだそうです。

 「プルーストは自分のユラニスム(少年愛・男色)を否定したり隠したりするどころ
 か、それを表に出した。いや、それを鼻にかけていた、と言いたいほどだ。女は精神
 的にしか愛したことはなく、セックスは男としかしたことはないと言う」(P175)

 さて吉川一義には、ほかにも「絵画で読む『失われた時を求めて』」もあります。
 こちらは中公新書で、物語に登場する主要な絵画の多くをカラーで載せています。

 たとえば、カルパッチョの「聖女ウルスラ伝」など、見慣れない絵画があって良い。
 そこで語られる「祖母=母」という仮説(?)も、実に面白かったです。


カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』 (中公新書 2716)

カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』 (中公新書 2716)

  • 作者: 吉川 一義
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/09/20
  • メディア: 新書



 さいごに。(リレーラン、雨天中止)

 日曜日に、出場予定だったリレーラン大会が、天候大荒れのため中止になりました。
 それでも我々は駅前に集まって、「お疲れさん会」をやりました。久々に飲んだ!

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