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プラナリア [日本の現代文学]

 「プラナリア」 山本文緒 (文春文庫)


 表題作は、乳がんの手術を受けた後、何もかも面倒臭くなった25歳の女子の話です。
 2000年刊行。表題作を含む全5編の短編を収録していて、直木賞受賞の作品集です。


プラナリア (文春文庫)

プラナリア (文春文庫)

  • 作者: 山本 文緒
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/09/02
  • メディア: 文庫



 「プラナリア」は、「プラナリアになりたい」と言う女性春香が主人公です。
 「そういうもんに生まれてたら、取った乳も勝手に盛り上がってきて・・・」

 プラナリアというのは、切っても切っても再生してしまう、不思議な生き物です。 
 そして25歳の春香は、2年前に乳がんの手術をして、左の胸を切除していたのです。

 定期的に病院でホルモン剤を打たれますが、疲労感でなにもやる気が無くなります。
 会社をやめて、5歳年下の大学生の恋人豹介と一緒に、だらだらと過ごしています。

 ある日春香はデパートで、入院仲間の永瀬と再会して、甘納豆屋で働くことに・・・
 「乳がんが持ちネタ」と言った春香に、永瀬が贈ったものとは・・・

 結末がいいです。春香の気持ちは、分かる気もしますが、私は豹介に同情しました。
 はっきり言って、めんどくせー女です。うちの奥さんがとても可愛く思えてきます。

 「ネイキッド」は、「36歳無職」の女性泉水(いずみ)が主人公です。
 2年前に離婚し、会社を辞め「さもしい生き方」もやめ、だらだら暮らしています。

 「自分の立っていた固いはずの地面が、こんなにも簡単に割れてしまう薄い氷だとは
 知らなかった。氷が割れて沈んだ水の底で凍え死ぬのかと思っていたら、意外にもそ
 こは暇という名のぬるま湯で満ちていた。」(P71)

 夜中の漫画喫茶で、以前の部下のチビケンに再会し、深い仲になってしまいました。
 泉水は、自分とチビケンは負け組同士でお似合いだと思い、付き合いは続きました。

 かつての同業者の兵藤(ひょうどう)が、泉を自分の会社に雇いたいと言いました。
 チビケンは泉水の復帰に賛成します。しかし泉水は迷っていて・・・

 「疑問を持ちつつもまた前へ前へと進んでいくのだ。それが何故だか分からないがと
 ても悔しかったのだ。転んで怪我をしても、やがてその傷が治ったなら立ち上がらな
 くてはならないのが人間だ。それが嫌だった。」(P106)

 「ネイキッド」はマイ・ベストです。チビケンが、とても良い味を出していました。
 終盤の泉水とチビケンの展開は、実に惜しい。ハッピーエンドを期待していたのに!

 私は、チビケンは得がたい男だと思います。善良で、泉を幸せにしてくれる男です。
 しかし・・・結末はちょっと切なくなりました。静かで悲しい余韻が残りました。

 「どこかではないここ」は、夫がリストラされたため奮闘する妻加藤が主人公です。
 深夜のパートを始め、不良娘と軽薄な息子と我儘な母と病気の義父を抱えて・・・

 ひとりで頑張りながらも、娘には「お母さんの生き方が嫌いなの」と言われます。
 読んでいて切なくなりますが、ラストは良いです。これをきっかけに変われるか?

 「囚われ人のジレンマ」は、大手通信機器メーカーの美都(みと)が主人公です。
 美都には、付き合って7年になる恋人の浅丘がいますが、彼はまだ大学院生です。

 美都は25歳の誕生日の日、浅丘から「結婚してもいいよ」と言われ、迷いました。
 後日、浅丘から指輪まで渡されましたが、美都はなかなか結婚に踏み切れません。

 そして、デザイナーの大石と浮気をしたり、合コンで会った男と浮気をしたり・・・
 浅丘とは喧嘩をしたり仲直りをしたり・・・そしてあるとき突然、彼の母が・・・

 浅丘は、頭でっかちの子供です。そしてそれは美都も同じです。ふたりは同類です。
 面白い物語ですが、浅丘に対しても美都に対しても、読んでいてイライラします。

 「あいあるあした」は、居酒屋をやっている36歳の男、真島が主人公です。
 7年前に離婚して、現在はすみ江という手相観の女と同棲しています。

 11歳になるひとり娘が、久しぶりに真島に髪を切ってもらうためにやって来て・・・
 その後、すみ江は部屋からいなくなり・・・元妻は再婚して渡米することに・・・

 「あいあるあした」だけが、男を主人公にしていたため、共感しやすかったです。
 「髪はパパに切ってもらう」という娘が、とてもいじらしくて、泣けてきます。

 すみ江も、太久郎も、とても情があって良い人たちです。
 この後、真島とすみ江はどうなるか?・・・この作品は、マイ・ベスト2です。

 さて、山本文緒の最高傑作は、死の直前に書いた「自転しながら公転する」です。
 帯には、「恋愛、仕事、家族のこと。ぜんぶがんばるなんて、無理。」とあります。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(家電店の親切な対応)

 母が初売りで買ったCDラジカセが、数日で故障し、CDを再生しなくなりました。
 ところが、母はそのレシートをうっかり捨ててしまい、購入した証拠がありません。

 ダメもとで店舗に相談すると、店の販売履歴から伝票の控えを見つけてくれました。
 おかげで交換してもらえました。忙しい中、丁寧な対応をしてくれた店員さんに感謝!

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