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自転しながら公転する1 [日本の現代文学]

 「自転しながら公転する」 山本文緒 (新潮文庫)


 母の面倒を見ながら契約社員として働き、恋に悩む32歳の都の日々を描いた物語です。
 2020年に刊行し、翌年山本は病死しました。2021年本屋大賞第5位の最高傑作です。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 32歳で独身の与野都は、アウトレットモールの店で派遣社員として働いています。
 重い更年期障害の母の面倒を見るため、東京の会社を辞め実家から通っています。

 都は前の職場で店長の経験があるため、今の職場の店長から頼りにされています。
 しかし、マーチャンダイザーが変わってから、何かとトラブルが多くなりました。
 
 そのころ都は、同じモール内の回転寿司店で働く羽島貫一と付き合い始めました。
 貫一は30歳です。生活は不安定ですが気が合うため、やがて深い仲になりました。

 貫一は読書家で「貫一お宮」に掛けて、「金色夜叉」を貸してくれたりしました。
 また、貫一は時々含蓄に富んだ言葉を吐くのでした。

 「なんで私がここまでやんなきゃならないのとか、不平不満が爆発しそうでさー。
 家事をやりつつ、家族の体調も見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そんな器用
 なこと私にはできそうもない。」
 「そうか、自転しながら公転してるんだな(中略)地球は秒速465メートルで自転
 して、その勢いのまま秒速30キロで公転している」(P102)

 4月にふたりは温泉旅行に行き、そこで都は貫一の半生の苦労を知りました。
 腕のいい寿司職人だが大酒飲みで認知症になった父。出て行って行方が知れぬ母。

 貫一自身は中卒で無職。そのことを知った都の父は、貫一の前でぶちまけ・・・
 都と貫一の関係は続くのでしょうか? そして、都が結婚する相手は?・・・

 650ページほどある大作です。現在その半分ほどを読み、違和感を覚えています。
 いつまで貫一の話が続くのか? どこでベトナム人の恋人の話が出るのか?

 というのもプロローグでは、ベトナム人と結婚する場面が描かれているからです。
 読者は、都とベトナム人との結婚という結末を知った状態で、読み進めるのです。

 確かに、ニャン君というベトナム人が出てきて、一度だけ都はデートをしました。
 ニャン君の家は大金持ちなので、「金色夜叉」の伏線がうまく生かされています。

 つまり、都がニャン君の富に惹かれて貫一を捨てる、という結末が見えています。
 しかし、それにしてもニャン君の登場する場面は少なくて、存在感がないのです。

 一方、貫一は良いところもダメなところも、はっきりと印象的に描かれています。
 そのため私は、読んでいて「貫一と結婚してほしい」と、心から願っていました。

 実際、都と最も仲の良いそよかも、そして都の母も、貫一のことを認めています。
 それなのに、貫一と別れてしまうとは! でも、いったいどのように?

 「おれたちはすごいスピードで回りながらどっか宇宙の果てに向かってるんだよ」
 貫一の言ったこの言葉が、ふたりの行く末を象徴しているような・・・(P103)

 さて、都の父についても触れておきたいです。貫一に比べて実に格好悪いのです。
 妻の桃枝も呆れています。しかし、最も苦しんでいたのは父だったのではないか?

 「お前たちは気楽でいいよな、適当に責任なく働いたり、ずっと家にいたりでよく
 て。俺は大変なんだよ。休職して会社に戻って、微妙なポジションで肩身が狭くて
 も、頑張って家族のために働いてるよ。更年期障害とかで家事が全然できない女房
 のパンツまで洗ってるよ。なあ、貫一君、結婚ってそういうことだ。」(P297)

 寛一と都の結婚は前途多難です。
 このあとの展開が気になります。いったいどうなるのやら・・・

 さいごに。(ジョッグ中に見た風景)

 先日の日曜日はとてもよく晴れて、ジョギング中に富士山がきれいに見えました。
 スマホを持っていたので、思わず立ち止まってカシャリ。贅沢なコースです。

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プラナリア [日本の現代文学]

 「プラナリア」 山本文緒 (文春文庫)


 表題作は、乳がんの手術を受けた後、何もかも面倒臭くなった25歳の女子の話です。
 2000年刊行。表題作を含む全5編の短編を収録していて、直木賞受賞の作品集です。


プラナリア (文春文庫)

プラナリア (文春文庫)

  • 作者: 山本 文緒
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/09/02
  • メディア: 文庫



 「プラナリア」は、「プラナリアになりたい」と言う女性春香が主人公です。
 「そういうもんに生まれてたら、取った乳も勝手に盛り上がってきて・・・」

 プラナリアというのは、切っても切っても再生してしまう、不思議な生き物です。 
 そして25歳の春香は、2年前に乳がんの手術をして、左の胸を切除していたのです。

 定期的に病院でホルモン剤を打たれますが、疲労感でなにもやる気が無くなります。
 会社をやめて、5歳年下の大学生の恋人豹介と一緒に、だらだらと過ごしています。

 ある日春香はデパートで、入院仲間の永瀬と再会して、甘納豆屋で働くことに・・・
 「乳がんが持ちネタ」と言った春香に、永瀬が贈ったものとは・・・

 結末がいいです。春香の気持ちは、分かる気もしますが、私は豹介に同情しました。
 はっきり言って、めんどくせー女です。うちの奥さんがとても可愛く思えてきます。

 「ネイキッド」は、「36歳無職」の女性泉水(いずみ)が主人公です。
 2年前に離婚し、会社を辞め「さもしい生き方」もやめ、だらだら暮らしています。

 「自分の立っていた固いはずの地面が、こんなにも簡単に割れてしまう薄い氷だとは
 知らなかった。氷が割れて沈んだ水の底で凍え死ぬのかと思っていたら、意外にもそ
 こは暇という名のぬるま湯で満ちていた。」(P71)

 夜中の漫画喫茶で、以前の部下のチビケンに再会し、深い仲になってしまいました。
 泉水は、自分とチビケンは負け組同士でお似合いだと思い、付き合いは続きました。

 かつての同業者の兵藤(ひょうどう)が、泉を自分の会社に雇いたいと言いました。
 チビケンは泉水の復帰に賛成します。しかし泉水は迷っていて・・・

 「疑問を持ちつつもまた前へ前へと進んでいくのだ。それが何故だか分からないがと
 ても悔しかったのだ。転んで怪我をしても、やがてその傷が治ったなら立ち上がらな
 くてはならないのが人間だ。それが嫌だった。」(P106)

 「ネイキッド」はマイ・ベストです。チビケンが、とても良い味を出していました。
 終盤の泉水とチビケンの展開は、実に惜しい。ハッピーエンドを期待していたのに!

 私は、チビケンは得がたい男だと思います。善良で、泉を幸せにしてくれる男です。
 しかし・・・結末はちょっと切なくなりました。静かで悲しい余韻が残りました。

 「どこかではないここ」は、夫がリストラされたため奮闘する妻加藤が主人公です。
 深夜のパートを始め、不良娘と軽薄な息子と我儘な母と病気の義父を抱えて・・・

 ひとりで頑張りながらも、娘には「お母さんの生き方が嫌いなの」と言われます。
 読んでいて切なくなりますが、ラストは良いです。これをきっかけに変われるか?

 「囚われ人のジレンマ」は、大手通信機器メーカーの美都(みと)が主人公です。
 美都には、付き合って7年になる恋人の浅丘がいますが、彼はまだ大学院生です。

 美都は25歳の誕生日の日、浅丘から「結婚してもいいよ」と言われ、迷いました。
 後日、浅丘から指輪まで渡されましたが、美都はなかなか結婚に踏み切れません。

 そして、デザイナーの大石と浮気をしたり、合コンで会った男と浮気をしたり・・・
 浅丘とは喧嘩をしたり仲直りをしたり・・・そしてあるとき突然、彼の母が・・・

 浅丘は、頭でっかちの子供です。そしてそれは美都も同じです。ふたりは同類です。
 面白い物語ですが、浅丘に対しても美都に対しても、読んでいてイライラします。

 「あいあるあした」は、居酒屋をやっている36歳の男、真島が主人公です。
 7年前に離婚して、現在はすみ江という手相観の女と同棲しています。

 11歳になるひとり娘が、久しぶりに真島に髪を切ってもらうためにやって来て・・・
 その後、すみ江は部屋からいなくなり・・・元妻は再婚して渡米することに・・・

 「あいあるあした」だけが、男を主人公にしていたため、共感しやすかったです。
 「髪はパパに切ってもらう」という娘が、とてもいじらしくて、泣けてきます。

 すみ江も、太久郎も、とても情があって良い人たちです。
 この後、真島とすみ江はどうなるか?・・・この作品は、マイ・ベスト2です。

 さて、山本文緒の最高傑作は、死の直前に書いた「自転しながら公転する」です。
 帯には、「恋愛、仕事、家族のこと。ぜんぶがんばるなんて、無理。」とあります。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(家電店の親切な対応)

 母が初売りで買ったCDラジカセが、数日で故障し、CDを再生しなくなりました。
 ところが、母はそのレシートをうっかり捨ててしまい、購入した証拠がありません。

 ダメもとで店舗に相談すると、店の販売履歴から伝票の控えを見つけてくれました。
 おかげで交換してもらえました。忙しい中、丁寧な対応をしてくれた店員さんに感謝!

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卵の緒 [日本の現代文学]

 「卵の緒」 瀬尾まいこ (新潮文庫)


 血のつながらない母と息子(小学5年)を描き、親子とは何かを追求した物語です。
 2002年に出た、瀬尾まいこのデビュー作です。「7's blood」も収録されています。


卵の緒 (新潮文庫)

卵の緒 (新潮文庫)

  • 作者: まいこ, 瀬尾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/06/28
  • メディア: 文庫



 母と二人で暮らしている小学5年生の鈴江育生は、自分を捨て子だと思っています。
 あるとき「へその緒」を見せてと言うと、母は「卵の殻」を見せてくれたのです。

 母は言います。自分は育生を卵で産んだのだ、だから卵の殻を置いているのだと。
 そして、本当の親子の証だと言って、思いっきり強く育生を抱きしめるのでした。

 「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛してるの。
 今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ、他に何がいる?」(P21)

 やがて母が再婚して名字が朝井に変わり、子供ができたとき母が話したことは・・・
 女子大生時代の母が、どんなふうに恋愛して、どんなふうに結婚したのか?・・・

 血のつながらない親子を描いている点で、「そして、バトンは渡された」と同じです。
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2023-12-12

 しかし、この物語の魅力はなんと言っても、エネルギッシュで愛情深い母でしょう。
 へその緒なんてスーパーで100円ぐらいで売っている、と言い切ってしまえる母!

 この母が育生に一度だけ語る、「母と育生の物語」も、非常に味わいがありました。
 ただし、なぜ父親が死んでしまったのか(自殺?)、もう少し知りたかったです。

 さて、この文庫にはもう一作「7's blood」も収録されています。
 こちらは半分血が違う異母姉弟の物語です。いずれも心がほっこりする物語です。

 高校3年の七子は母と二人暮らしです。その家に小学5年の七生がやってきました。
 七生は父の愛人の子で、母が事件を起こしたため、一緒に暮らすことになりました。

 七生が来て5日目に、七子の母が倒れて入院し、姉弟2人の生活が始まりました。
 七生はとても素直で明るい子でしたが、なぜか七子にはかわいいと思えなくて・・・

 しだいにふたりの気持ちが接近し、かけがえのない存在になっていくところが良い。
 そして七子は、母が七生を引き取った理由に気付く! やがて訪れる切ない別れ!

 瀬尾まいこには、「あと少し、もう少し」という陸上小説もあります。
 中学生の駅伝大会を描いています。箱根駅伝を見ていたら、読みたくなりました。


あと少し、もう少し (新潮文庫)

あと少し、もう少し (新潮文庫)

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/28
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年は補足の年)

 以前は絶版で読めなかった本で、最近読めるようになったものがいくつかあります。
 たとえば、「ノートルダム・ド・パリ」「ミドルマーチ」「牡猫ムルの人生観」・・・

 ほか、「死せる魂」「アンクル・トム」「ジェルミナール」「告白」(ルソー)・・・
 今年は国にこだわらず、これらの作品を読んでいきます。もちろん、プルーストも。

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涼宮ハルヒの憂鬱 [日本の現代文学]

 「涼宮ハルヒの憂鬱」 谷川流 (角川文庫)


 涼宮ハルヒとSOS団を作ったキョンが、世界を破滅から救う荒唐無稽な物語です。
 2003年に角川スニーカー文庫で刊行。のちにシリーズ化。ラノベの金字塔です。

 「涼宮ハルヒの消失」の純文学的要素が買われて(?)、角川文庫にも入りました。
 ただしカバーは、スニーカー文庫版のイラストの方が良い。買うのは恥ずかしいが。


涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2003/06/07
  • メディア: 文庫



涼宮ハルヒの憂鬱 (角川文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川文庫)

  • 作者: 谷川 流
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: 文庫



 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が
 いたら、あたしのところに来なさい。以上」(P11)

 この自己紹介はギャグなのか? 後ろの席を見てみると、それは大変な美女でした。
 こうして、高校一年の「俺」ことキョンは、涼宮ハルヒと出会ってしまったのです。

 涼宮は、「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」(SOS団)を結成し、
 キョンのほか、文学少女の長門有希と、美少女の朝比奈みくるを仲間に入れました。

 文芸部の部室を占領し、コンピュータ部からパソコンを奪い、活動の準備をします。
 転校生の古泉一樹が加わった後、キョンは突然長門から意味不明の話を聞きました。

 「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒ
 ューマノイド・インターフェース。それが、わたし」(P114)

 長門は言います。3年前に地球で異常な情報フレアがあり、その中心に涼宮が・・・
 この3年間、あらゆる角度から涼宮を調査してきたが、その正体は不明であり・・・

 それから、「あなたは涼宮ハルヒに選ばれた。それには必ず理由があるはず」と・・・
 さらに、「あなたと涼宮ハルヒがすべての鍵を握っている」と・・・

 P100ぐらいまで、つまり長門のこの説明まで、実に残念な作品だと思っていました。
 ロリ巨乳の朝比奈にバニーガールのコスプレをさせるとか、あまりにもくだらない!

 ところが長門の話の場面から、急激に物語は壮大で、荒唐無稽で、面白くなるのです。
 世界は3年前から始まった? 世界は涼宮ハルヒによって造られた?・・・

 この作品は、ラノベをバカにしている私に、読書仲間の若者が紹介してくれました。
 「ラノベに対する考え方が変わる」とのことです。その通りです。恐れ入りました。

 特に、世界観のスケールがすごい。日本SF大賞を取ってもいい作品だと思います。
 比べるのも悪いが、森目の「ペンギン・ハイウェイ」よりはるかに優れていないか?

 また、涼宮が憂鬱である理由を語っている言葉(P216~)は、けっこう文学的です。
 自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在か自覚してから、世界は色あせて・・・

 物語は、最後の最後まで展開が読めませんでした。
 そして、あのラスト。いい感じで終わるところもすばらしい。

 ただし、キョンがなぜ涼宮や朝比奈に気に入られたのかが、まったく分かりません。
 そこがラノベっぽい点ですが、もしかしたらのちほど種明かしがあるのでしょうか。

 「涼宮ハルヒの憂鬱」は、「このライトノベルがすごい」の2005年版で堂々第一位。
 人気作となり続編が出て、シリーズ化されました。現在12巻まで出ているようです。

 中でも傑作とされるのは、本作と、第4作の「涼宮ハルヒの消失」です。
 こちらは、アニメ映画となって2010年に上映されました。ちょっと見てみたいです。



 さいごに。(リゾートだったら)

 昨年は、年末の12/27~12/29の3日間、出張が入ってしまいました。
 仕事の始まる前の朝と、終わってからの夕方、近くの海岸に足を運びました。

 きれいな写真が撮れたので、友人にLineで送ると、「リゾートか?」との返信。
 ああ、私もいつか、年末年始をリゾートで過ごしてみたいです。

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そして、バトンは渡された [日本の現代文学]

 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ (文春文庫)


 これまで7回も家族の形態を変えている、高校2年生の森宮優子の成長の物語です。
 2018年刊行。2019年に本屋大賞を受賞し、映画にもなった、瀬尾の代表作です。


そして、バトンは渡された (文春文庫)

そして、バトンは渡された (文春文庫)

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/09/02
  • メディア: Kindle版



 「困った。全然不幸ではないのだ。(中略)いつものことながら、この状況に申し訳
 なくなってしまう。」(P8)

 高校2年の森宮優子は、これまで家族形態が7回変わり、苗字は4回変わりました。
 3人の父親と2人の母親をリレーされたものの、とても大切に育てられてきました。

 優子が3歳のとき母は亡くなり、小学2年のとき父の水戸は梨花と再婚しました。
 小学5年で父が仕事でブラジルに赴任した時、優子は梨花と日本に留まりました。

 優子が中学1年のとき、梨花は金持ちの泉ヶ原と再婚し、すぐに出て行きました。
 高校1年のとき、梨花は同級生で一流企業の森宮と再婚し、優子を引き取りました。

 やがて梨花は出て行き、森宮と2人暮らしですが、優子は愛情を注がれています。
 高校2年の優子に悩みは無く、不幸な境遇なのに不幸でないことが唯一の悩みで・・・

 私は最初この小説を、勝手な大人の事情に振り回される少女の悲劇だと思いました。
 ところが、この小説は優子を主人公にした恋愛小説であり、青春小説だったのです。

 なんといっても、この作品の魅力は主人公の優子です。
 前向きというか、諦観というか、優子は何事も受け入れ、けなげに生きていきます。

 クラスの女子全員から避けられていたときも、「時間が解決する」と考えました。
 「だいたいのことは、どう動こうと関係なく、ただぼんやりと収束していくのだ。」
 (P170)

 優子がもてるのは、きれいなだけでなく、人と違う何かを感じさせるからでしょう。
 少し大人びたところは、少年たちにとってミステリアスな魅力なのだと思います。

 そして、不器用ながら懸命に父親を務める森宮、優子を愛してやまない梨花・・・
 中でも、森宮が語る梨花の言葉は、親の気持ちを代弁していて忘れられません。

 「自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだ
 って。親になるって、未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなん
 て、すごいと思わない? 未来が倍になるなら、絶対にしたいだろう。」(P315)

 さて、私的にとても好感が持てたのは、一緒に球技大会実行委員をやった浜坂です。
 浜坂は利己的な計算をしません。ひとりでトンボを引くし、告白を諦めるし・・・

 浜坂は大胆な行動を取りますが実は繊細で、しっかり他人のことを考えられます。
 後半あっさり退場してしまい、早瀬にその座を譲ってしまったのは惜しかったです。

 私的には、実は浜坂にはピアノの才能があり、一緒に伴奏の練習をするうちに・・・
 というストーリーだったら、と思いました。だいぶ物語は変わってしまいますが。

 ところでラストで、重病の梨花がすっかり治っている点に、違和感がありました。
 しかし、映画版では結末が違うと言います。なんとなく、予想できてしまうが・・・



 さいごに。(audible退会)

 オーディブルは便利でしたが、「聴きながら読む派」の私にはお得感が希薄でした。
 そこで、退会することにしました。会費が1000円を切るくらいなら続けたのですが。

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恋文の技術 [日本の現代文学]

 「恋文の技術」 森見登美彦 (ポプラ文庫)


 人里離れた実験所にいる大学院生守田が、知人に手紙を書きまくる書簡体小説です。
 2009年刊行。ハチャメチャな手紙ばかりで、ある意味非常に森見らしい作品です。


([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2011/04/06
  • メディア: 文庫



 大学院生の守田一郎は、クラゲの研究のため能登半島の実験所に追いやられました。
 そこで守田は、文通武者修行と称して、さまざまな人たちに手紙を書き始めました。

 友人の小松崎、姉さん的存在の大塚、かつての家庭教師の教え子、森見登美彦、妹。
 それぞれの手紙が、知らず知らずつながっていき、しだいに収束されていって・・・

 この作品は特に賞などを取っていないので、最初はあまり期待していませんでした。
 ところが、手紙が実にハチャメチャで面白い。夢中になって読んでしまいました。

 特に良いのが、恋に悩む親友、小松崎とのやり取りです。
 彼女のおっぱいが頭から離れない彼に、守田は「方法的おっぱい懐疑」を教えます。

 「今そこにあるおっぱいは、いったい何か。それを飽かず見つめている己は、いった
 い何か。それを繰り返し問い続けるうちに、おっぱいは世界の中で君と対峙する一つ
 の純粋な存在として抽象化され、君を理不尽に魅了することをやめるであろう。」
 (P127) 

 しかし、この試みは失敗しました。
 おっぱいを見つめれば見つめるほど、そのかわいさに魅了されてしまったのです。

 「これは何かの呪いであろうか。おっぱいは我々の目前にデンと居座り、我々の精神
 を束縛する。我々はおっぱいに目を曇らされている。おっぱいは世の真実を覆い隠し
 ている。これは自由を求める戦いなのだ。」(P131)

 そこで守田が次に考えたのは「拡大化」です。プロジェクターでそれを拡大し・・・
 またも敗北した守田が「おっぱい万歳」とつぶやいたとき、そこに現れたのは・・・

 ふたりはおっぱいに打ち勝つことができるのでしょうか?
 また、守田は片思いの彼女・伊吹さんに、手紙を書くことができるのでしょうか?

 というように、これは恋愛小説であると同時に、おっぱい星人物語でもあります。
 おっぱい好き(ほとんどの男性)にはたまらないでしょう。では、女性にはどうか?

 それが、一部の女性には、うけているようなのです。
 たとえば、中根すあまという芸人さんは、「まさかのおっぱい推し」でした。



 ところで中根が、三島由紀夫の「レター教室」を勧めている点が、すばらしい。
 彼女は当時JKです。この作品を、ハウツーものだと思っている大人も多いのに。

 さて、森見登美彦の作品中、「恋文の技術」はマイ・ベスト2です。面白かった!
 ちなみにベストは「夜は短し歩けよ乙女」、ベスト3は「きつねのはなし」です。

 余談ですが、森見登美彦にも、つまらなくて投げ出してしまった作品があります。
 たとえば「聖なる怠け者の冒険」。100ページまで読んだところで挫折しました。


聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)

  • 作者: 森見登美彦
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/10/07
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(ハンバーグ300グラム)

 休日のランチに、家族でステーキ屋に行き、ハンバーグ300グラムを食べました。
 前々から気になっていたのです、これを完食できるかと。これも、男のロマンです。

 とてもおいしくて、ペロッと平らげました。しかも、ご飯をお替わりしました。
 自分が健在であることを、家族に示せました。ただ、夕食は食べられませんでした。

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夜行 [日本の現代文学]

 「夜行」 森見登美彦 (小学館文庫)


 10年前に鞍馬の火祭で失踪した長谷川さんと、連作銅版画「夜行」を巡る物語です。
 2016年刊行の怪談✕青春✕ファンタジー小説。「きつねのはなし」に似た不思議な話。


夜行 (小学館文庫)

夜行 (小学館文庫)

  • 作者: 登美彦, 森見
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 文庫



 学生時代に通っていた英会話スクールの仲間が、久々に鞍馬の火祭に集まりました。
 実は10年前の火祭のとき、仲間の女性の長谷川さんが、忽然と姿を消したのでした。

 「鞍馬の火祭で姿を消してから十年、彼女の行方はまったく分からない。彼女を吸い
 こんだ暗い穴は今もまた、この鞍馬のどこかで口を開いているように感じる」(P245)

 その長谷川さんらしき人を、大橋は見かけたのです。彼女はある画廊に入りました。
 大橋が続いて入ると彼女の姿はなくて、銅版画「夜行ー鞍馬」が掛かっていました。

 「夜行」は48作の連作であり、作者の岸田道生は、7年前に亡くなっていました。
 そして、その夜集まった5人が全員、これまで偶然「夜行」と出会っていたのです。

 中井さんは尾道で「夜行ー尾道」と出会い、武田君は奥飛騨で「夜行ー奥飛騨」と、
 藤村さんは津軽で「夜行ー津軽」と、田辺さんは天竜峡で「夜行ー天竜峡」と・・・

 彼らの不思議な体験と、そこに現れる銅版画「夜行」には、どんな関係があるのか?
 長谷川さんの失踪と、銅版画「夜行」には、どんな関係があるのか?

 作者の岸田道生は言います。
 「この闇はどこへでも通じているんだよ」と。「世界はつねに夜なんだよ」と。

 「世界とはとらえようもなく無限に広がり続ける魔境の総体だと思う。(中略)僕ら
 は広大な魔境の夜に取り巻かれている。」(P238)

 長谷川さんはどこへ行ってしまったのか? 魔境に取り込まれてしまったのか?
 大橋は、長谷川さんに会うことができるのか?・・・

 最後の最後まで驚くような展開をします。まったく先が読めません。
 また、どのように解釈したらいいのか分からない場面もあり、考えさせられます。

 終盤で大橋が「曙光」の世界に行ったのも、どうしてなのかさっぱり分かりません。
 この物語にとって、とても大事な場面なのですが、うまく解釈できないのです。

 大橋の物語のほか、4人の物語も挿入されているので、とても複雑になっています。
 というか、統一感がありません。そしてこのことが解釈をいっそう難しくしています。

 もしかしたら、5つの単独の短篇に「夜行」を入れて、強引にまとめたのでしようか?
 たとえば「第一夜 尾道」などは、単独の作品として読んでも充分面白いと思います。

 ところで、「第二夜 奥飛騨」では、全員無事だったのでしょうか?
 それとも2人は死んだのでしょうか? また、ミシマさんは何者だったのでしょうか?

 どなたか、分かりやすく教えていただけないでしょうか。
 しかし、解釈しようとしたら、解説本が1冊出来上がりそうですね。

 さいごに。(「夜行」は無かった)

 audibleの「聴き放題」に入っている、森見登美彦の作品はわずか4編にすぎません。
 「夜は短し」「ペンギン・ハイウェイ」「四畳半タイムマシン」「有頂天家族」です。

 人気作家のわりには少ないですね。「夜行」も入っていませんでした。
 聴き放題12万冊と言っても、まだまだ発展途上。今後、更に充実することを願います。

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三毛猫ホームズの推理 [日本の現代文学]

 「三毛猫ホームズの推理」 赤川次郎 (光文社文庫)


 青年刑事片山と、主人を亡くした猫のホームズが、数々の事件を解決する物語です。
 1978年刊行。50冊以上も続く「三毛猫ホームズシリーズ」の記念すべき第一作です。


三毛猫ホームズの推理 (光文社文庫)

三毛猫ホームズの推理 (光文社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1985/03/20
  • メディア: Kindle版



三毛猫ホームズの推理 (角川文庫)

三毛猫ホームズの推理 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1984/03/30
  • メディア: 文庫



 28歳の片山義太郎刑事は、血を見ると貧血を起こし、女性を怖がるような青年です。
 両親がいないため、7歳下でデパート店員の妹晴美と、いっしょに暮らしています。

 あるとき羽衣女子大で、女子大生惨殺事件が起こったため、片山が派遣されました。
 学部長の森崎から、女子寮に売春組織があることを聞いて、調査に乗り出しました。

 ところが森崎が食堂で殺されたのです。死因は頭蓋骨骨折ですが凶器がありません。
 しかも不思議なことに、中からかんぬきが掛けられ、食堂は密室状態だったのです。

 犯人は誰か? 密室殺人のトリックは?
 調査の過程で、片山は、学長に校舎建造における汚職があったことを知りました。

 森崎が飼っていたメス猫のホームズは、成り行きで片山が引き取ることになります。
 ホームズはまるで真相が分かっているかのように、事件解明のヒントを示唆し・・・

 とても面白いです。テンポが軽快で、すらすらと読めます。
 猫のホームズが良い味を出しています。シリーズ化されるのも、よく分かります。

 この第一弾は、シリーズ中、一二を争う傑作と言われています。
 また、私の読書仲間は、「本格推理小説の傑作だ」と絶賛していました。

 面白いのは、なんといっても密室殺人のトリックです。
 最初、森崎の弟富田の秘密を暴いたところで、謎を解明したと思いきや・・・

 なんと被疑者たちは、殺人を計画はしたが、実行していないと言うのです。
 実行しようとしたら、すでに殺人が行われていたと言うのです。そんなバカな!

 また、女子大生の殺人と森崎の殺人の2つが並行して進んでいきます。
 しかも犯人は意外な人物で・・・最後まで目が離せません。

 さて、ひとつ感想を付け加えます。
 それは、冴えない片山刑事が、ずるいぐらいにモテる、ということです。

 片山は、たいして努力もしていないのに、美人女子大生の雪子に好かれます。
 さらに、いいところまで行く展開は、納得しがたいばかりでなく、許しがたいです。

 片山は、何もしていないのに、メス猫ホームズにもなぜか気に入られます。
 そして、ホームズの不可思議な示唆によって、事件を解決に導き・・・

 「たいした努力もしないのになぜかモテる」という構図は、まさにラノベです。
 この時期にライトノベルを書いていたことが、赤川次郎の新しさだと思います。

 第二弾「三毛猫ホームズの追跡」もまた、たいへん評判が良い作品です。
 もう一人のレギュラーである石津刑事が登場します。続けて読んでみたいです。

 さいごに。(阪神日本一おめでとう!)

 うちは妻がオリックスのファンなので、ずっとオリックスを応援していました。
 しかしもう、どっちが勝っても良かった。お互い、とてもすばらしかったです。

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星々の悲しみ [日本の現代文学]

 「星々の悲しみ」 宮本輝 (文春文庫)


 「星々の悲しみ」は、喫茶店から絵画を盗んだ、3人の予備校生たちの物語です。 
 1981年刊行の初期の短編集です。表題作のほか、全7編を収録しています。


新装版 星々の悲しみ (文春文庫)

新装版 星々の悲しみ (文春文庫)

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/08/05
  • メディア: 文庫



 1965年、予備校生の志水靖高は、勉強もしないで図書館で本ばかり読んでいました。
 同じ予備校の有吉や草間と知り合った日、3人は喫茶店「じゃこう」に入りました。

 その店には、清水が以前から気になっていた絵が飾られていました。
 それは、葉の茂る大木の下で、少年が麦わら帽子を顔にのせて眠っている絵でした。

 タイトルは「星々の悲しみ」。そのようなタイトルにしたのは、なぜでしょうか?
 作者は1960年没。享年20歳。不思議と切ない感じがするのは、なぜでしょうか?

 店を出るとき、草間がその絵を盗み出し、志水の部屋に飾ることとなりました。
 それ以後、有吉と草間は志水の家を時々訪れ、志水の妹加奈子とも知り合いました。

 やがて、草間が加奈子を好きになりますが、加奈子は有吉のことが好きで・・・
 ところが志水は、有吉がこっそり加奈子に紙片を渡すところを見てしまい・・・

 その後、有吉は腰の病気で入院しましたが、しだいに病状が悪化して・・・
 有吉の死後、加奈子に渡された紙片について、意外な事実が分かって・・・

 心に沁みる名作です。私は最初この作品を、高校時代に国語の問題集で読みました。
 3人が初めて絵画を見る場面でしたが、問題を解くのを忘れて文章を味わいました。

 志水は、病床の作者が、夢見たことを絵に封じ込め、宇宙に還ったと解釈しました。
 一方加奈子は、「星々の悲しみ」に描かれた少年を、死んでいるのだと考えました。

 「自分が、いままさに死にゆかんとしていることを知らないままに死んでいく人間な
 どいないと、ぼくは思う。そうでなければ、人間が死ぬ必要などどこにもないではな
 いか。人間はそのことを思い知るために、死んでいくのだ。」(P61)

 「死んで星になる」というから、表題は死に行くことの悲しみということでしょう。
 そう考えると、この作品は非常に奥深い意味を持っています。心に残る作品です。

 「西瓜(スイカ)トラック」は、16歳の少年が夏のアルバイトをしたときの話です。
 ただ西瓜売りを手伝ったというだけなのに、なぜか切なくて涙が出そうになります。

 西瓜売りのダンプカーの男は、高校生の土屋に留守を頼み、アパートに入って・・・
 そのアパートには、若い女と小さな娘がいて・・・女は男とどういう関係なのか?

 「不良馬場」は、結核で2年間入院している会社員と、それを見舞う男の物語です。
 寺井は、見舞いに来た同僚の河野を競馬に誘い、そこで療養中の経験を語りました。

 病院で療養中の仲間は、偶然に出会ったとは思われず、深い縁を感じ始めました。
 寺井は、入院中に失った何かを、散歩中のアクシデントで取り戻したようでした。

 しかし、不良馬場における競馬は、最後の最期でまったく予想外の展開となり・・・
 ラストのおぞましい描写は何なのか? それは、寺井の将来を暗示しているのか?

 なんと言っても印象に残るのは、ラストの馬の悲惨な描写です。目に焼き付きます。
 もうひとつ、「うんこを食べる犬」の話(P236)。これだけでも読んだかいがある!

 他の4作は、あまり心に響きませんでした。「蝶」は少し面白かったけれど。
 この本は、表題作「星々の悲しみ」あっての短篇集です。これだけ傑出しています。

 さいごに。(そのあとの質問が良かっただけに、残念!)

 国会で、山本太郎が岸田首相にした質問の冒頭だけは、子供たちに聞かせたくない。
 「増税メガネから増税くそメガネに進化した政治家を、知っているか」というのだ。

 それならば、首相はこんなふうに答えても良かったのだ。
 「反日太郎から反日くそ太郎に進化した政治家のことなら、知っています」と。

 それなのに、首相は落ち着いて答えていた。ここに、首相の懐の深さを感じた。
 私だって自民の増税路線は嫌だ。でも、山本のこの質問にはまったく賛成できない。

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海賊とよばれた男2 [日本の現代文学]

 「海賊とよばれた男(下)」 百田尚樹 (講談社文庫)


 出光興産の創業者出光佐三をモデルとした、国岡鐵造の一生を描いた経済小説です。
 2013年の本屋大賞を受賞した大ベストセラーで、2016年には映画化されました。


海賊とよばれた男 文庫 (上)(下)セット

海賊とよばれた男 文庫 (上)(下)セット

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: セット買い



 本書の下巻(435ページ)には、全四章のうち、第三章と第四章が収録されています。
 いよいよこの巻では、昭和28年の日章丸事件の一部始終が描かれます。

 第三章「白秋」は、昭和22年から昭和28年の日章丸が勝利するまでを描いています。
 第四章「玄冬」は、日章丸事件以後の国岡商店と、鐵造の最期までを描いています。

 終戦後の2年間で、国岡商店は巨額の赤字を出し、多くの店員を失いました。
 それでも店主鐵造の「日本のために尽くしたい」という思いは変わりませんでした。

 「戦争で灰燼に帰したこの日本を、今一度、立ち直らせる、そして自信を失った日本
 人の心に、もう一度輝く火を灯すのだ。」(P13)

 そんな店主に共感する店員たちは必死に働き、気骨のある男たちは鐵造を助けます。
 しかし、外国企業に屈しない鐵造は同時に多くの敵を作り、様々な妨害をされます。

 外国企業を敵に回しながらも、タンクを手に入れ、元売り会社の指名を取りました。
 そして、昭和26年に、念願のタンカー「日章丸(二世)」を完成させたのです。

 そして2年後の昭和28年、国際的に孤立するイランを助けるために出発しました。
 しかし、イラン石油の権利を主張するイギリス軍の艦隊が、待ち構えていたのです。

 日章丸は、イギリス海軍の意表をついてイランに入り、石油を積み込みました。
 快挙が世界に報じられる中、またしてもイギリス海軍の裏をかいて帰還したのです。

 この事件は日本とイランの人々に希望を与え、国岡商店の名は世界にとどろきました。
 イランにおける親日感情は、この事件で醸成され、現在まで続いてゆき・・・

 「私は国岡商店のためにおこなったのではない。そんな小さなことのために、日章丸
 の五十五名の生命を賭けることはできない。このことが、必ずや日本の将来のために
 なると信じたからこそ、彼らをアバダンへ送ったのです。」(P224)

 感無量です。ごちゃごちゃした説明はいりません。とにかく皆に読んでほしいです。
 彼らの行動力にしびれます。日章丸事件の場面は、国語の教科書に載せるべきです!

 「自らの信念を持って正しいおこないを続けていけば、絶対に間違った方向にいくこ
 とはない。」(P341)

 米ソ対立の冷戦時に、ソ連から石油を輸入しようとした国岡商店! あっぱれです。
 消費者の立場で生産調整に反対し、石油連盟を脱退した国岡商店! あっぱれです。

 この本を読み終わったあと、モデルとなった出光興産の株を買いたくなりました。
 現在株価は3400円ほど。100株単位なので34万円。2000円ぐらいにならないかな。

 さいごに。(なんとかならないか)

 現在、物価高騰でたいへんです。ロシアへの経済制裁は、自らの首を絞めています。
 欧米の立場に準ずるのではなく、日本は独自にロシアから石油を輸入するべきでは?

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