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獣の奏者Ⅱ王獣編 [日本の現代文学]

 「獣の奏者Ⅱ王獣編」 上橋菜穂子 (講談社文庫)


 霧の民の血を引く天涯孤独の少女エリンと、闘蛇や王獣などの獣たちとの物語です。
 2006年に「闘蛇編」「王獣編」が出て、2009年に「探求編」「完結編」が出ました。


獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 文庫



 あるときエリンは、傷ついた王獣リオンの鳴き声に、竪琴の音でこたえてみました。
 すると、リオンは餌を食べ始めました。初めてエリンとリオンの心が通ったのです。

 そしてこの瞬間、エリンは図らずも、運命の決定的な曲がり角を曲がったのでした。
 このことはカザルムで秘密にされました。政治で利用されることを恐れたからです。

 やがてエリンはリオンと言葉を交わし、その背に乗って飛べるようにもなりました。
 保護区で飼われている王獣では考えられないことです。ではなぜそれができたのか?

 それはエリンが、王獣規範を逸脱してエリンを育てたからであるようなのです。
 そこで疑問が浮かびます。王獣規範は、王獣と会話させないために作られたのでは?

 エリンはリオンと一緒にいるとき、霧の民の男から警告を受けました。
 そしてエリンは、「精霊鳥」のことや「操者の技」のことを知りました。

 「神々の山脈の向こう、はるかな故地で、大いなる罪を犯して死んだ我らの祖先たち
 は、自分たちの罪を激しく悔い、子孫たちに自分たちの轍を踏ませぬように、自らに
 呪いをかけた。——魂となっても、神々の安らぐ世へは行かず、(操者の技〉を使う
 者が現れたとき、それを警告する精霊鳥となるようにと。」(P131)

 「わたしたちは、二度と再び、〈操者の技〉が使われることのないよう——一族の者
 たちが過去を忘れ去って、再び〈操者の技〉を編みだすことがないように、幼いころ
 から戒律とともに、〈操者の技〉を教えこまれる。だが、きみは、己の才覚だけで、
 〈操者の技〉を編みだしてしまった」(P132)

 真王がカザルム王獣保護区に行幸した帰り、大公軍と思しき闘蛇軍に襲われました。
 エリンはリオンの背に乗って真王を助け、いやおうなく戦乱の中に巻き込まれ・・・

 というように、真王が闘蛇軍の急襲に遭う所から、物語は一気に白熱していきます。
 一方、エリンは闘蛇からあることに気付いて・・・本当にこれは大公の仕業なのか?

 汚い陰謀に取り込まれるエリン。そして、真王の護衛イアルもまた同じように・・・
 緊迫した状況で、エリンとイアルの運命が交差する場面もまた一つの見どころです。

 そして、エリンが語る霧の民の言い伝え・・・
 真王の祖先は何か? 霧の民の祖先は何か? はるか昔にいったい何があったのか?

 「人というものが、こんなふうに物事を考えて、進んでいく生き物であるのなら、そ
 のまま行ってしまえばいい。(中略)そうやって滅びるなら、滅びてしまえばいい」
 (P382)

 エリンはいかに決意し、いかに行動するか?
 そして、新真王セィミヤは、どんな選択をするか?・・・

 終盤は手に汗を握る展開です。結末もすばらしいです。いつまでも余韻が残ります。
 そして、続きを読みたいという読者が続出し、とうとう2009年に続刊が出ました。

 続く「探求編」と「完結編」は、まだ購入していません。
 しかし、いずれ読みたいと思っています。

 さいごに。(うんち君、見ーつけた)

 私の部屋の片隅に「うんち君」が隠れていました。娘が隠しておいたようです。
 見つけた人は隠してよいことになっているので、私は娘の筆入れに入れました。

 うんち君は1時間で見つかることもあれば、3か月間現れないこともあります。
 妻はうんち君を捨てようとするので、妻には見つからないよう心掛けています。

IMG_0691-2.jpg

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獣の奏者Ⅰ闘蛇編 [日本の現代文学]

 「獣の奏者Ⅰ闘蛇編」 上橋菜穂子 (講談社文庫)


 霧の民の血を引く天涯孤独の少女エリンと、闘蛇や王獣などの獣たちとの物語です。
 2006年に「闘蛇編」「王獣編」が出て、2009年に「探求編」「完結編」が出ました。


獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 文庫



 ソヨンは、霧の民の掟に背いて大公領の男と結婚し、10年前にエリンを生みました。
 今、世話していた最強の「闘蛇」全てが死んだ罪で、処刑されることとなりました。

 娘のエリンは、闘蛇に食い殺される母を助けるため、闘蛇の群れの中に入りました。
 しかし、母は掟破りの「操者の技」を使って、エリンを闘蛇に乗せて逃がしました。

 真王領に流れ着いたエリンは、心優しい老人ジョウンに助けられ、育てられました。
 元教導師長のジョウンから、さまざまな知識や竪琴を学び、幸せに過ごしました。

 ある日、崖から落ちたジョウンを助けたとき、エリンは「王獣」の親子を見ました。
 それは、オオカミのような顔を持つ巨大な鳥で、「闘蛇」を餌食とする聖獣でした。

 エリンは、14歳のときにカザルム王獣保護場に入舎し、獣の医術師を目指しました。
 そこで、傷ついた王獣リオンと出会い、心を込めて世話しているうちに・・・

 この物語のテーマは、「闘蛇」「王獣」など獣と人間との関わり方にあるようです。
 特に、入舎試験のエリンの作文に、そのことがよく表れています。

 「生き物であれ、命なきものであれ、この世に在るものが、なぜ、そのように在るの
 か、自分は不思議でならない。(中略)自分も含め、生き物は、なぜ、このように在
 るのかを知りたい。」(P277)

 また、エリンが養蜂を通して抱いた、生物の世界のイメージも、印象に残りました。
 すべての生き物の命はどれも等しく、暗闇に浮かぶ一つの光の点のようなもの・・・

 「エリンはときおり、自分が小さな光の点になって、広大な星空の中に、ぽつんと浮
 かんでいるような心地になることがあった。——人も獣も虫も、あらゆるものが小さ
 な光の点となって、等しく闇の中に輝いているような、そんなものとして、この世を
 感じることが。」(P253)

 ところで、舞台となっている国はリョザ神王国で、真王という女王が治めています。
 真王の王祖は、はるか昔に神々の山脈の向こうから、王獣を従えて降臨したのです。

 しかし、四代目の王が隣国から攻められた際、「闘蛇の笛」を臣下に与えました。
 闘蛇で敵国を倒した臣下は、大公の称を得て、他の土地を治めるようになりました。

 これ以後、行政を司る真王の真王領と、軍事を司る大公の大公領に分かれました。
 そして、大公領の中には、真王の命を狙う「血と穢れ」のような集団も現れて・・・

 というように、途中から人間の権力闘争も絡まり、物語を面白くしています。
 そして、人間の最大の武器が王獣や闘蛇などの生物である点が、実に興味深いです。

 さらに、主人公エリンの背後には「霧の民」(戒めを守る者)という謎があります。
 このあと、エリンの運命はいかに? 「Ⅱ王獣編」も楽しみです。

 さいごに。(不毛な喧嘩)

 米大統領選で、私はトランプさんを応援しています。
 理由は、前の治世で戦争がなかったから。バイデンさんになって世は乱れました。

 しかし、妻はトランプ嫌いなので、米大統領選の話になると喧嘩になるのです。
 実にバカバカしい。投票権もない他の国のことで、わが家が戦争になるなんて。

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新世界より [日本の現代文学]

 「新世界より(上・中・下)」 貴志祐介 (講談社文庫)


 1000年後の日本を舞台に、呪力を持った人々の世界を描いた、長編SF小説です。
 2008年に刊行され、日本SF大賞を受賞し、2012年にはアニメが放映されました。


新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)

新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫



 舞台は今から1000年後の日本のある町で、人々は生まれながら呪力を持っています。
 ミノシロという巨大な芋虫や、化けネズミという人型ネズミなどが生息しています。

 また、町はしめ縄で囲われていて、子どもはその外へ出ることを禁じられています。
 しめ縄の中は呪力で守られていますが、外には悪鬼などがいて危害を加えられます。

 渡辺早季は、12歳で呪力を授かると、儀式を受けて「全人学級」に進級しました。
 儀式では、自分の呪力を封印して、新たに真言(マントラ)を与えられました。

 全人学級では、小学校時代の友人秋月真理亜、朝比奈覚、青沼瞬と再会しました。
 この3人のほか、伊東守、天野麗子を合わせて6人が第一班を形成していました。

 学校では班ごと行動しますが、呪力で劣る麗子はいつのまにかいなくなりました。
 また、競技会で規則を破った片山学もまた、いつのまにかいなくなっていました。

 どうやらこの社会に適応しない子供たちは、どんどん排除されるらしいのです。
 そして、そういった残酷なシステムは、子どもたちの目から巧みに隠されています。

 夏季キャンプでは、各班がカヌーで利根川を進み、野営することになっていました。
 5人は禁じられていた区域に立ち入り、そこで「悪魔のミノシロ」に遭遇しました。

 しかし、それはミノシロに偽装していた国立国会図書館つくば館だったのです。
 彼らは「悪魔のミノシロ」に問いかけ、大人たちが禁じていた知識を得ました。

 サイコキネシス(PK)の発展、PKによる無差別テロ、PK能力者に対する弾圧、
 PK能力者の逆襲と政府の瓦解、人口の激減、PK能力者による支配と腐敗・・・

 5人の少年たちは、この1000年の血なまぐさい歴史を初めて知り、驚愕しました。
 そこで離塵師に出会ったことで、化けネズミの戦闘に巻き込まれることになり・・・

 ひとりの強力な呪力者が、核兵器にも匹敵する力を持つ、という事実。
 人類は強力な呪力を持つと、その使用を抑制できなくなる、という現実。

 そのためにあみ出された「愧死機構」と、不適応者を排除する異常な教育制度。
 読みだしたら止まりません。どっぷりとこの異様な世界に入り込みます。

 ただし、この世界観は読む人を選びます。私にとっては、少し気持ち悪かったです。
 SFファンタジーのつもりで読み始めたのに・・・これはホラー小説ですよ。

 もうひとつ人を選ぶ理由があります。それは、物語があまりにも長すぎることです。
 講談社文庫では三分冊で1500ページ近く。その半分だったら全部読めたのですが。

 私は第二章「夏闇」(中巻の途中)で諦めました。全6章なので、約3分の1です。
 しかし、そのあとの展開と結末は気になります。では、どうしたか?

 実は、Uネクストでアニメ(全25話)を見たのです。(それなら原作を読めよ!)
 アニメは割と原作に忠実でした。ちなみに、1.6倍で見たので時短にはなりました。

 ところで、彼らが14歳になると、話がさらに暗く気味悪くなって・・・
 悪鬼とは何か? 業魔とは何か? 彼らが26歳になったときに大惨事が・・・



 さいごに。(ドヴォルザークの「新世界より」)

 「『新世界より』と言ったら、ドヴォルザークだろ」、と言う人も多いでしょう。
 この小説の題名も、ドヴォルザーク「新世界より」の第2楽章から付けられました。

 ドヴォルザークの交響曲では、第2楽章と第4楽章がとても有名です。
 しかし、私は第1楽章が好きです。特に50秒ぐらいのところからが超カッコいい!



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幽霊列車 [日本の現代文学]

 「幽霊列車」 赤川次郎 (文春文庫)


 列車の乗客が消えた表題作など、中年警部と女子大生が事件を解決する短編集です。
 1976年刊行の「幽霊列車」は赤川のデビュー作で、「幽霊シリーズ」の第一作です。


新装版 幽霊列車 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-39)

新装版 幽霊列車 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-39)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: 文庫



 岩湯谷駅で乗車した8人が、次の大湯谷駅に着いたときには全員消えていました。
 この幽霊列車事件の謎を解くため、40歳の宇野警部は客を装い、調査を始めました。

 推理オタクの21歳の女子大生永井夕子と出会い、一緒に事件を追いかけますが・・・
 走る列車から、どのようにして乗客はいなくなったのか? なぜいなくなったのか?

 以上の表題作「幽霊列車」は、赤川次郎の記念すべきデビュー作です。
 そして本書は、宇野警部と夕子が初めて出会う作品です。のちにシリーズ化します。

 デビュー作の割には完成度が高く、文章のテンポもよくて、とても面白かったです。
 トリックもなかなか凝っていました。また、謎が解明されていく場面もうまいです。

 内容にはたいへん満足しました。しかし、その一方で違和感を覚えたのも確かです。
 冴えない中年警部が、美人女子大生に気に入られ、関係まで持ってしまうのはなぜ?
 
 さて、この短編集には、「幽霊列車」を含めて全5作が収録されています。
 どの作品も、良い意味でも悪い意味でも娯楽小説です。とても上質な娯楽小説です。

 もっとも面白かったのは「善人村の村祭」です。推理小説というより冒険小説です。
 宇野警部と永井夕子が偶然訪れた「善人村」では、元日に年に一度の祭があります。

 村人たちはとても親切で、ふたりは至れり尽くせりの歓迎を受けました。
 村長の屋敷に泊まると、その妖艶な妻が裸になって、宇野の床に入ってきて・・・

 ふたりは危機に陥って、初めて行き過ぎた歓迎ぶりの意味に気付きました。
 「正月のお祭のために私たちが必要だったのね。〇〇〇〇として」(P354)

 「善人村」ではるか昔から続けられてきた祭とは、どのようなものだったのか?
 宇野警部と夕子は、その祭においていったいどのような役割を担っていたのか?

 特に村長の妻の絢路夫人が、良い味を出していました。この人をぜひ映像で見たい。
 また、善人ばかりの村の秘密が明かされていくところが、とてもスリリングでした。

 ところで、私は先ほど収録されている作品を、良くも悪くも娯楽小説と評しました。
 というのも「幽霊列車」以外の作品は、推理小説としては物足りなかったからです。

 しかし、赤川作品にはほかに「マリオネットの罠」という高評価の作品があります。
 機会があったらぜひ読んでみたいです。


マリオネットの罠 (文春文庫)

マリオネットの罠 (文春文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(エンドレスエイト)

 Uネクストに31日間お試しで入り、「涼宮ハルヒの憂鬱」(全24話)を見ています。
 その中の「エンドレスエイト」というエピソードは、同じ話を8回繰り返すのです。

 2回目から7回目の6回は見る意味がありません。ファンは怒ったのではないか?
 もしお金を払って見ていたのなら、私も怒ったと思います。無料で良かった。

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ブルーもしくはブルー [日本の現代文学]

 「ブルーもしくはブルー」 山本文緖 (角川文庫)


 自分とまったく違う生活をしている自分の分身と、1ヶ月だけ入れ替わる物語です。
 1992年刊行。初期の頃のファンタジー&ホラー作品で、NHKドラマになりました。


ブルーもしくはブルー (角川文庫)

ブルーもしくはブルー (角川文庫)

  • 作者: 山本 文緒
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/05/21
  • メディア: Kindle版



 佐々木蒼子は、偶然訪れた福岡の街で、かつて恋人だった河見を見かけました。
 追いかけると、河見が自分とそっくりな女性と一緒だったので、興味を持ちました。

 彼女の名前は、河見蒼子。佐々木蒼子と、名前も生年月日も、記憶も同じなのです。
 河見蒼子(蒼子B)は、佐々木蒼子(蒼子A)の分身なのではないでしょうか。

 いわゆるドッペルゲンガーです。では、蒼子はいつ自分から分離したのでしょう?
 それは以前、佐々木と河見のどちらと結婚するか、死ぬほど悩んだときではないか。

 のちに、けんか別れしていた父と再会したとき、父には蒼子Bが見えませんでした。
 どうやら蒼子Aが本体であり、蒼子Bが影のようです。蒼子Bは落ち込みました。 

 ところで、蒼子Aは6年前に佐々木と結婚し、東京でぜいたくに暮らしています。
 しかし現在、佐々木には恋人がいて、蒼子Aは満たされない毎日を過ごしています。

 蒼子Bは、河見と結婚して、福岡で質素に暮らしながらも、河見に愛されています。
 しかし、河見は酔っぱらうと乱暴になり、蒼子Bはたびたび殴られているのです。

 蒼子Aは、河見と結婚した蒼子Bを羨み、1か月間入れ替わることを提案しました。
 蒼子Bは、河見との結婚を後悔していたので、すんなりその提案を受け入れました。

 「余るほどの自由があれば心の拠り所が欲しくなり、強く愛されればそれは束縛に感
 じる。」(P129)

 蒼子Aと蒼子Bは、周到な準備の末、入れ替わって生活を始め・・・
 蒼子Aは、まさかこの試みで窮地に追い込まれるとは、考えもせず・・・

 「彼女は私のドッペルゲンガーなのだ。影が本体に勝てるわけがない。」(P178 )
 蒼子Aは高をくくっていましたが・・・思いもよらぬ展開で、立場が逆転し・・・

 私は最初、本体と影が力を合わせて、クズ男をやっつける物語かと思いました。
 ところが、物語は意外な展開をします。これは、想定外でした。

 物語は軽快で、読み始めたら止まりません。終盤のどんでん返しもすばらしい。
 ただ、結末は少し寂しすぎます。ふたりとも、もっと変わってほしかったです。

 タイトルは、「ブルー(蒼)もしくはブルー(蒼)」です。
 「結局は同じ」というニュアンスが込められていることに、最後に気づきました。

 さて、この作品は作者が一般の作品に転向してから2作目にあたります。
 だから、これまで書いてきたジュニア作品っぽさが、ちらほら見え隠れします。

 ちなみに、もっともジュニア作品っぽい部分は、文庫のカバーイラストでしょう。
 でも、私はこのイラストが、案外好きだったりします。

 これで、山本文緒の代表作をだいたい制覇しました。
 「ブルーもしくはブルー」を入れて全五作、すべて面白かったです。

 「自転しながら公転する」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-01-11
               https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-01-14
 「恋愛中毒」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2023-06-30
 「絶対泣かない」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-05-05
 「プラナリア」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-01-08

 さいごに。(それは、誰?)

 私は先日仕事の仲間に、「あなたにそっくりな人を見たよ」と言われました。
 もちろん、それは私ではありません。しかし、名字も私と同じだったそうです!

 近くの場所なので、確かめることはたやすいのですが、どうしてもできません。
 ちょっと怖いですね。もし、私がドッペルゲンガーだったら、と思うと・・・

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宵山万華鏡 新釈走れメロス [日本の現代文学]

 「宵山万華鏡」 森見登美彦 (集英社文庫)


 祇園祭宵山におけるさまざまな非日常的出来事を描いた、幻想的な連作短編集です。
 2009年の刊行です。6編から成り、「きつねのはなし」に通じるものがあります。


宵山万華鏡 (集英社文庫)

宵山万華鏡 (集英社文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: 文庫



 「宵山姉妹」「宵山金魚」「宵山劇場」「宵山回廊」「宵山迷宮」「宵山万華鏡」
 「姉妹」と「万華鏡」、「金魚」と「劇場」、「回廊」と「迷宮」がセットです。

 もっとも面白かったのは、「宵山金魚」でした。これは、ドタバタ劇でした。
 祇園祭のしきたりを守らなかった青年が、宵山様のもとに連れ出される話です。

 藤田は、高校時代の同級生の乙川に、宵山を案内してもらうことになりました。
 ところが藤田は乙川とはぐれてしまい、立ち入り禁止区域に入ってしまいました。

 たちまちやってきた祇園祭司令部。「くそたわけ! 宵山様に申し訳ないと思え!」
 御輿でかつがれ、宵山様のもとにしょっぴかれます。その、宵山様とは・・・

 「意味はない。意味のないところに意義がある。」(P98)
 無意味でバカバカしい展開です。そういう点で、もっとも森見らしさを感じました。

 続く「宵山劇場」は、その舞台裏を明かした作品で、ワンセットで味わいたいです。
 小長井と山田川がナイスコンビです。ほのぼのとした味わいがあってオススメです。

 「宵山回廊」と「宵山迷宮」は、一転してちょっと怖い感じのする物語です。
 千鶴が会いに行くと、叔父は言いました。「明日からはもう、会えなくなる」と。

 叔父は15年前の宵山で娘の京子を失いました。京子はその日から行方不明なのです。
 ところが、露店で買った万華鏡で宵山をのぞくと、そこに娘の京子が映って・・・

 「あの子はずっと宵山にいたんだ。だから俺もずっと宵山にいる」(P161)
 「おれはこの一日から出ることはない」という叔父の言葉は、どういうことなのか?

 続く「宵山迷宮」は、画廊の柳さんの話です。彼もまた宵山を繰り返していて・・・
 骨董屋の乙川が言う「水晶玉」とは何か? なぜ彼らはみな宵山を繰り返すのか?

 最後に、さまざまなエピソードが、種明かし的に語られるのが「宵山万華鏡」です。
 しかしすべての謎が解けるわけではありません。いったい宵山様とは何だったのか?

 もう一度全6編を読み直したくなりました。そういう意味で、魅力的な短編集です。
 また、京都の祇園祭宵山を、実際に見に行きたくなります。

 「祇園祭というからには八坂神社が本拠地なのだと理屈では分かっても、縦横無尽に
 祭りが蔓延して、どちらの方角に八坂神社があるのかさえあやふやである。祭りがぼ
 んやりと輝く液体のようにひたひたと広がって、街を吞みこんでしまっている。」
 (P64)

 さて、森見の連作短編集にはほかに「新釈 走れメロス」(角川文庫)があります。
 「走れメロス」「山月記」「藪の中」など名作が、森見流にアレンジされています。


新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)

新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/08/22
  • メディア: 文庫



 「走れメロス」は、自分を信じる友のため命をかけて走り続ける男の物語です。
 太宰治の傑作ですが、森見流にアレンジされるとこんなふうになってしまう!

 大学の詭弁論部所属の芽野と芹名は親友で、「阿呆の双璧」と言われています。
 ふたりは「パンツ番長戦」で引き分けとなって以来、お互いを認め合う仲です。

 あるとき芽野が、悪名高き図書館警察長官に談判に行って捕まりました。
 長官に、ブリーフ一丁で踊って学園祭のフィナーレを飾れ、と命令されました。

 芽野は、姉の結婚式に出るため猶予を請い、身代わりに芹名を差し出しました。
 しかし、芹名には分かっていたのです。芽野には戻る気がないということが。

 「これは信頼しないという形をとった信頼、友情に見えない友情だ」(P135)
 そして、フィナーレのブリーフ一丁踊りは・・・

 タイトル作は面白いです。あまりにもくだらなくて涙が出そうになります。
 ただし、ほかの4編はぱっとしません。原作を読んだ方が良いと思います。

 さいごに。(バウンドケーキ?)

 「パウンドケーキ」のことを、これまで「バウンドケーキ」だと思っていました。
 うちではそれをネタにして、妻も娘もわざと「バウンドケーキ」と言っています。

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四畳半タイムマシンブルース [日本の現代文学]

 「四畳半タイムマシンブルース」 森見登美彦 (角川文庫)


 タイムマシンを使って壊れたリモコンを取り戻そうとするSF青春ドタバタ劇です。
 2020年刊行。上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」とのコラボ作品です。


四畳半タイムマシンブルース (角川文庫)

四畳半タイムマシンブルース (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/06/10
  • メディア: 文庫



 「ここに断言する。いまだかつて有意義な夏を過ごしたことがない、と。」(P5)
 8月12日の昼下がり、「私」と小津は四畳半の部屋の炎熱地獄に苦しんでいました。

 というのも昨日、部屋でドタバタするうちにクーラーのリモコンを壊したからです。
 昨日は明石さんが多くの仲間たちを集めて、ここでポンコツ映画を撮ったのでした。

 明石さんは「私」の憧れの女子学生で、五山送り火見物に誘いたいと思っています。
 しかし彼女は、すでに誰かと約束しているようなのです。でも、いったい誰と?

 さて、昨日の仲間たちが再び集まったところで、ヘンテコなものが見つかりました。
 それは、黒光りする古畳で、「ドラえもん」に出て来るタイムマシンのようでした。

 このマシンを使えば、昨日壊れたリモコンを取り戻せる、と考えた一行は・・・
 しかし、過去を改変してしまった場合、全宇宙が消滅する危険性に気付き・・・

 「全宇宙消滅の危機に直面した我々の取るべき道はただひとつであった。タイムマシ
 ンに乗って『昨日』へ行き、クーラーのリモコンがきちんと壊れるように辻褄を合わ
 せた上で、小津たちをすみやかに連れ戻すことである。」(P111)

 小津という男のキャラクターと、昨日と今日の辻褄合わせが、この小説の命です。
 小津がやたら人の足を引っ張るのに、最後はパズルのピースがピタッと合うのです。

 特に、「私」と明石さんの場面がサイコーです。いかにして五山送り火に誘うのか?
 明石さんのキャラがいいですね。そして、結末もすばらしいです。

 この小説では、森見節も健在でした。たとえば、相島氏の次の言葉は印象的でした。
 作者の一番言いたいことも、この中にあるのではないか?

 「たとえばこんな四畳半アパートの一室にひとりで籠もっているとしよう。こんなと
 ころにどんな可能性がある? ここには恋も冒険もない。なーんにもない。昨日は今
 日と同じで、今日は明日と同じ。まるで味のしないハンペンのような毎日ですよ。そ
 れで生きていると言えますか?」(P168)

 この小説の原案は上田誠となっています。2001年に初演された戯曲なのだそうです。
 竹書房文庫から出ていましたが現在は品切れです。手に入ったら読んでみたいです。


サマータイムマシン・ブルース (竹書房文庫)

サマータイムマシン・ブルース (竹書房文庫)

  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2005/08/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(体育つらい?)

 寒い日が続きます。この時期の体育は長距離走なので、娘は憂鬱そうです。
 「そんなの、遊んでるようなものだろ!」と言ったら、娘に怒られました。

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自転しながら公転する2 [日本の現代文学]

 「自転しながら公転する」 山本文緒 (新潮文庫)


 母の面倒を見ながら契約社員として働き、恋に悩む32歳の都の日々を描いた物語です。
 2020年刊行、2021年本屋大賞第5位、作者の最高傑作。今回はその後半の紹介です。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 貫一は立ち食い寿司での仕事が決まり、ふたりで熱海に旅行する計画を立てました。
 都はショップでのごたごたを乗り越え、正社員に推薦してもらうことになりました。

 父の手術をきっかけに、両親は自宅を売って小さい家に引っ越すことにしました。
 家を出ることになった都は、貫一との関係を真剣に考える必要に迫られました。

 熱海の旅行で改めて貫一と結婚したいと思った都は、同棲することを提案しました。
 ところが、貫一はその問題に向き合おうとせず、ふたりは言い合いになりました。

 そこで、都は貫一の脚を後ろからローキックして倒し(逆「貫一お宮の像」)・・・
 貫一は腹を決めて、ふたりは安らかに眠ったが、想定外のことが起こって・・・

 「楽しかった。俺なんかに優しくしてくれてありがとう」・・・
 今度こそ本当に失望した都は、貫一のラインをブロックし、電話番号を削除し・・・ 

 というように、貫一と都の物語が一旦終わるのが、P535です。(あと120ページ)
 そして、ベトナム人のニャン君が再登場するのが、P558です。(あと100ページ)

 高級ホテルのラウンジでニャン君と再会したとき、「やっぱりな」と思いました。
 ところがところが予想は大きく裏切られ、感動のどんでん返しに向かって行きます。

 エピローグでは、「は?」と思いました。最初は、意味が分からず読み返しました。
 そして、「そういうことか!」と驚いたあと、プロローグを読み返しました。

 「山本文緒の最高傑作」の名に恥じない名作です。
 2024年が始まったばかりなのに、いきなりすごい作品に出会ってしまいました。

 最後になりますが、この物語には印象的な脇役がふたりいます。そよかと時子です。
 そよかは都の、時子は母桃枝の友人です。ふたりとも友達の有難さを痛感させます。

 そよかは年下でありながら、都にはっきりものを言い、時には説教さえします。
 それは都を思ってのことで、都はそよかによって何度か大事なことに気付かされます。

 時子はがさつでイライラさせられますが、しかしまごころをもって接しています。
 桃枝はそんな時子のよって知らず知らずのうちに癒され、感謝するようになります。

 そよかは都を救い、時子は桃枝を救いました。
 貫一や都の父には、こういう友達がいませんでした。だから自分を追い詰めました。

 大人になってからの友達は大事です。自分には、こういう友人がいるでしょうか?
 幸い思い当たります。来週、一緒に駅伝を走る仲間がいます。わずか4人ですが。

 さいごに。(ジョッグ中に見た風景2)

 先日は夕方の日の沈むころ、ジョギングをしていました。
 夕焼け空を反射して、富士山が美しい色に染まっていました。眼福、眼福。

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自転しながら公転する1 [日本の現代文学]

 「自転しながら公転する」 山本文緒 (新潮文庫)


 母の面倒を見ながら契約社員として働き、恋に悩む32歳の都の日々を描いた物語です。
 2020年に刊行し、翌年山本は病死しました。2021年本屋大賞第5位の最高傑作です。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 32歳で独身の与野都は、アウトレットモールの店で派遣社員として働いています。
 重い更年期障害の母の面倒を見るため、東京の会社を辞め実家から通っています。

 都は前の職場で店長の経験があるため、今の職場の店長から頼りにされています。
 しかし、マーチャンダイザーが変わってから、何かとトラブルが多くなりました。
 
 そのころ都は、同じモール内の回転寿司店で働く羽島貫一と付き合い始めました。
 貫一は30歳です。生活は不安定ですが気が合うため、やがて深い仲になりました。

 貫一は読書家で「貫一お宮」に掛けて、「金色夜叉」を貸してくれたりしました。
 また、貫一は時々含蓄に富んだ言葉を吐くのでした。

 「なんで私がここまでやんなきゃならないのとか、不平不満が爆発しそうでさー。
 家事をやりつつ、家族の体調も見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そんな器用
 なこと私にはできそうもない。」
 「そうか、自転しながら公転してるんだな(中略)地球は秒速465メートルで自転
 して、その勢いのまま秒速30キロで公転している」(P102)

 4月にふたりは温泉旅行に行き、そこで都は貫一の半生の苦労を知りました。
 腕のいい寿司職人だが大酒飲みで認知症になった父。出て行って行方が知れぬ母。

 貫一自身は中卒で無職。そのことを知った都の父は、貫一の前でぶちまけ・・・
 都と貫一の関係は続くのでしょうか? そして、都が結婚する相手は?・・・

 650ページほどある大作です。現在その半分ほどを読み、違和感を覚えています。
 いつまで貫一の話が続くのか? どこでベトナム人の恋人の話が出るのか?

 というのもプロローグでは、ベトナム人と結婚する場面が描かれているからです。
 読者は、都とベトナム人との結婚という結末を知った状態で、読み進めるのです。

 確かに、ニャン君というベトナム人が出てきて、一度だけ都はデートをしました。
 ニャン君の家は大金持ちなので、「金色夜叉」の伏線がうまく生かされています。

 つまり、都がニャン君の富に惹かれて貫一を捨てる、という結末が見えています。
 しかし、それにしてもニャン君の登場する場面は少なくて、存在感がないのです。

 一方、貫一は良いところもダメなところも、はっきりと印象的に描かれています。
 そのため私は、読んでいて「貫一と結婚してほしい」と、心から願っていました。

 実際、都と最も仲の良いそよかも、そして都の母も、貫一のことを認めています。
 それなのに、貫一と別れてしまうとは! でも、いったいどのように?

 「おれたちはすごいスピードで回りながらどっか宇宙の果てに向かってるんだよ」
 貫一の言ったこの言葉が、ふたりの行く末を象徴しているような・・・(P103)

 さて、都の父についても触れておきたいです。貫一に比べて実に格好悪いのです。
 妻の桃枝も呆れています。しかし、最も苦しんでいたのは父だったのではないか?

 「お前たちは気楽でいいよな、適当に責任なく働いたり、ずっと家にいたりでよく
 て。俺は大変なんだよ。休職して会社に戻って、微妙なポジションで肩身が狭くて
 も、頑張って家族のために働いてるよ。更年期障害とかで家事が全然できない女房
 のパンツまで洗ってるよ。なあ、貫一君、結婚ってそういうことだ。」(P297)

 寛一と都の結婚は前途多難です。
 このあとの展開が気になります。いったいどうなるのやら・・・

 さいごに。(ジョッグ中に見た風景)

 先日の日曜日はとてもよく晴れて、ジョギング中に富士山がきれいに見えました。
 スマホを持っていたので、思わず立ち止まってカシャリ。贅沢なコースです。

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プラナリア [日本の現代文学]

 「プラナリア」 山本文緒 (文春文庫)


 表題作は、乳がんの手術を受けた後、何もかも面倒臭くなった25歳の女子の話です。
 2000年刊行。表題作を含む全5編の短編を収録していて、直木賞受賞の作品集です。


プラナリア (文春文庫)

プラナリア (文春文庫)

  • 作者: 山本 文緒
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/09/02
  • メディア: 文庫



 「プラナリア」は、「プラナリアになりたい」と言う女性春香が主人公です。
 「そういうもんに生まれてたら、取った乳も勝手に盛り上がってきて・・・」

 プラナリアというのは、切っても切っても再生してしまう、不思議な生き物です。 
 そして25歳の春香は、2年前に乳がんの手術をして、左の胸を切除していたのです。

 定期的に病院でホルモン剤を打たれますが、疲労感でなにもやる気が無くなります。
 会社をやめて、5歳年下の大学生の恋人豹介と一緒に、だらだらと過ごしています。

 ある日春香はデパートで、入院仲間の永瀬と再会して、甘納豆屋で働くことに・・・
 「乳がんが持ちネタ」と言った春香に、永瀬が贈ったものとは・・・

 結末がいいです。春香の気持ちは、分かる気もしますが、私は豹介に同情しました。
 はっきり言って、めんどくせー女です。うちの奥さんがとても可愛く思えてきます。

 「ネイキッド」は、「36歳無職」の女性泉水(いずみ)が主人公です。
 2年前に離婚し、会社を辞め「さもしい生き方」もやめ、だらだら暮らしています。

 「自分の立っていた固いはずの地面が、こんなにも簡単に割れてしまう薄い氷だとは
 知らなかった。氷が割れて沈んだ水の底で凍え死ぬのかと思っていたら、意外にもそ
 こは暇という名のぬるま湯で満ちていた。」(P71)

 夜中の漫画喫茶で、以前の部下のチビケンに再会し、深い仲になってしまいました。
 泉水は、自分とチビケンは負け組同士でお似合いだと思い、付き合いは続きました。

 かつての同業者の兵藤(ひょうどう)が、泉を自分の会社に雇いたいと言いました。
 チビケンは泉水の復帰に賛成します。しかし泉水は迷っていて・・・

 「疑問を持ちつつもまた前へ前へと進んでいくのだ。それが何故だか分からないがと
 ても悔しかったのだ。転んで怪我をしても、やがてその傷が治ったなら立ち上がらな
 くてはならないのが人間だ。それが嫌だった。」(P106)

 「ネイキッド」はマイ・ベストです。チビケンが、とても良い味を出していました。
 終盤の泉水とチビケンの展開は、実に惜しい。ハッピーエンドを期待していたのに!

 私は、チビケンは得がたい男だと思います。善良で、泉を幸せにしてくれる男です。
 しかし・・・結末はちょっと切なくなりました。静かで悲しい余韻が残りました。

 「どこかではないここ」は、夫がリストラされたため奮闘する妻加藤が主人公です。
 深夜のパートを始め、不良娘と軽薄な息子と我儘な母と病気の義父を抱えて・・・

 ひとりで頑張りながらも、娘には「お母さんの生き方が嫌いなの」と言われます。
 読んでいて切なくなりますが、ラストは良いです。これをきっかけに変われるか?

 「囚われ人のジレンマ」は、大手通信機器メーカーの美都(みと)が主人公です。
 美都には、付き合って7年になる恋人の浅丘がいますが、彼はまだ大学院生です。

 美都は25歳の誕生日の日、浅丘から「結婚してもいいよ」と言われ、迷いました。
 後日、浅丘から指輪まで渡されましたが、美都はなかなか結婚に踏み切れません。

 そして、デザイナーの大石と浮気をしたり、合コンで会った男と浮気をしたり・・・
 浅丘とは喧嘩をしたり仲直りをしたり・・・そしてあるとき突然、彼の母が・・・

 浅丘は、頭でっかちの子供です。そしてそれは美都も同じです。ふたりは同類です。
 面白い物語ですが、浅丘に対しても美都に対しても、読んでいてイライラします。

 「あいあるあした」は、居酒屋をやっている36歳の男、真島が主人公です。
 7年前に離婚して、現在はすみ江という手相観の女と同棲しています。

 11歳になるひとり娘が、久しぶりに真島に髪を切ってもらうためにやって来て・・・
 その後、すみ江は部屋からいなくなり・・・元妻は再婚して渡米することに・・・

 「あいあるあした」だけが、男を主人公にしていたため、共感しやすかったです。
 「髪はパパに切ってもらう」という娘が、とてもいじらしくて、泣けてきます。

 すみ江も、太久郎も、とても情があって良い人たちです。
 この後、真島とすみ江はどうなるか?・・・この作品は、マイ・ベスト2です。

 さて、山本文緒の最高傑作は、死の直前に書いた「自転しながら公転する」です。
 帯には、「恋愛、仕事、家族のこと。ぜんぶがんばるなんて、無理。」とあります。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(家電店の親切な対応)

 母が初売りで買ったCDラジカセが、数日で故障し、CDを再生しなくなりました。
 ところが、母はそのレシートをうっかり捨ててしまい、購入した証拠がありません。

 ダメもとで店舗に相談すると、店の販売履歴から伝票の控えを見つけてくれました。
 おかげで交換してもらえました。忙しい中、丁寧な対応をしてくれた店員さんに感謝!

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