人間の絆 [20世紀イギリス文学]
「人間の絆」 モーム作 中野好夫訳 (新潮文庫)
イギリスの自伝的小説の中で、最も印象的な作品の一つです。
1915年に、サマセット・モームによって、発表されました。
現在、新潮文庫と岩波文庫から出ています。
私が読んだのは、新潮文庫版(上下二巻)の、中野好夫訳です。
中野氏の訳には、心地よいリズムがあります。名訳です。
ただし、最近出た改版は、新訳ではありません。
しかし、活字が読みやすくなり、表紙もかわいらしくなりました。
2001年に出た岩波文庫版(三分冊)の行方訳は、新訳です。
行方氏の訳はまだ読んでいませんが、とても評判が良いです。
主人公フィリップは、「コパフィールド」と、境遇が似ています。
彼もまた、両親に死なれ、孤児となり、叔父に育てられます。
両親のいないフィリップにとって、人と人との絆は重要です。
多くの人との関わりながら、彼は成長していきます。
中でもいい味を出しているのが、老詩人のクロンショー。
フィリップが、人生の意味を尋ねると、彼はこう答えます。
「行って、あのペルシャ絨毯(じゅうたん)を見てき給え、
そのうち、自然に、答えが分かってくる時がある。」(上巻P454)
謎めいた言葉ですが、真実をついています。
断片的には無意味に見える人間関係が、複雑に織りなされると…
フィリップに、この言葉の謎が解ける部分は、圧巻です。
下巻の106章ですが、最初から読まないと、実感できません。
ところで、最も存在感があるのは、なんといっても、ミルドレッド。
彼女は、今まで私が読んだ本の中で、最低の女性です!
薄情で高慢で卑劣。
ミルドレッドの人間性をひとことで表せば、「下劣」に尽きます。
しかし皮肉にも、彼女の登場から、物語は面白くなるのです。
最低だ最低だ、そう思いながらも、どこかで、
もっと最低なことをしてほしいと、期待してしまいます。
この最低な女に惚れてしまうフィリップの、情けなさもまた見もの。
情けない情けない、そう思いながらも、どこかで、
その情けなさを、楽しんでしまいます。
「人間の絆」というタイトルは、ミルドレッドとの切れないつながりを、
暗示したものだという解釈もあるようです。
さて、この作品は、122章からできています。
各章が短いため、とても読みやすいです。
中でも、私のお気に入りの章は、第25章です。
フランス語のデュクロ老先生のエピソードです。
わずか5ページに、人生の哀愁がめいっぱい盛りこまれています。
第25章だけを独立させても、珠玉の短篇として味わえます。
さいごに。
少し前のことですが、職場のトイレでの話。
大便コーナーから、「ウーンウーン」と聞こえることは、よくあります。
しかしその日は、「よしっ、よしっ」という、声がしました。
私も便秘気味になることがあるので、その気持ちがよく分かります。
イギリスの自伝的小説の中で、最も印象的な作品の一つです。
1915年に、サマセット・モームによって、発表されました。
現在、新潮文庫と岩波文庫から出ています。
私が読んだのは、新潮文庫版(上下二巻)の、中野好夫訳です。
中野氏の訳には、心地よいリズムがあります。名訳です。
ただし、最近出た改版は、新訳ではありません。
しかし、活字が読みやすくなり、表紙もかわいらしくなりました。
2001年に出た岩波文庫版(三分冊)の行方訳は、新訳です。
行方氏の訳はまだ読んでいませんが、とても評判が良いです。
主人公フィリップは、「コパフィールド」と、境遇が似ています。
彼もまた、両親に死なれ、孤児となり、叔父に育てられます。
両親のいないフィリップにとって、人と人との絆は重要です。
多くの人との関わりながら、彼は成長していきます。
中でもいい味を出しているのが、老詩人のクロンショー。
フィリップが、人生の意味を尋ねると、彼はこう答えます。
「行って、あのペルシャ絨毯(じゅうたん)を見てき給え、
そのうち、自然に、答えが分かってくる時がある。」(上巻P454)
謎めいた言葉ですが、真実をついています。
断片的には無意味に見える人間関係が、複雑に織りなされると…
フィリップに、この言葉の謎が解ける部分は、圧巻です。
下巻の106章ですが、最初から読まないと、実感できません。
ところで、最も存在感があるのは、なんといっても、ミルドレッド。
彼女は、今まで私が読んだ本の中で、最低の女性です!
薄情で高慢で卑劣。
ミルドレッドの人間性をひとことで表せば、「下劣」に尽きます。
しかし皮肉にも、彼女の登場から、物語は面白くなるのです。
最低だ最低だ、そう思いながらも、どこかで、
もっと最低なことをしてほしいと、期待してしまいます。
この最低な女に惚れてしまうフィリップの、情けなさもまた見もの。
情けない情けない、そう思いながらも、どこかで、
その情けなさを、楽しんでしまいます。
「人間の絆」というタイトルは、ミルドレッドとの切れないつながりを、
暗示したものだという解釈もあるようです。
さて、この作品は、122章からできています。
各章が短いため、とても読みやすいです。
中でも、私のお気に入りの章は、第25章です。
フランス語のデュクロ老先生のエピソードです。
わずか5ページに、人生の哀愁がめいっぱい盛りこまれています。
第25章だけを独立させても、珠玉の短篇として味わえます。
さいごに。
少し前のことですが、職場のトイレでの話。
大便コーナーから、「ウーンウーン」と聞こえることは、よくあります。
しかしその日は、「よしっ、よしっ」という、声がしました。
私も便秘気味になることがあるので、その気持ちがよく分かります。
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