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人間の絆 [20世紀イギリス文学]

 「人間の絆」 モーム作 中野好夫訳 (新潮文庫)


 イギリスの自伝的小説の中で、最も印象的な作品の一つです。
 1915年に、サマセット・モームによって、発表されました。

 現在、新潮文庫と岩波文庫から出ています。
 私が読んだのは、新潮文庫版(上下二巻)の、中野好夫訳です。
 中野氏の訳には、心地よいリズムがあります。名訳です。

 ただし、最近出た改版は、新訳ではありません。
 しかし、活字が読みやすくなり、表紙もかわいらしくなりました。


人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)

人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)

  • 作者: モーム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫



 2001年に出た岩波文庫版(三分冊)の行方訳は、新訳です。
 行方氏の訳はまだ読んでいませんが、とても評判が良いです。


人間の絆〈上〉 (岩波文庫)

人間の絆〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: モーム
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/10/16
  • メディア: 文庫



 主人公フィリップは、「コパフィールド」と、境遇が似ています。
 彼もまた、両親に死なれ、孤児となり、叔父に育てられます。

 両親のいないフィリップにとって、人と人との絆は重要です。
 多くの人との関わりながら、彼は成長していきます。

 中でもいい味を出しているのが、老詩人のクロンショー。
 フィリップが、人生の意味を尋ねると、彼はこう答えます。

 「行って、あのペルシャ絨毯(じゅうたん)を見てき給え、
 そのうち、自然に、答えが分かってくる時がある。」(上巻P454)

 謎めいた言葉ですが、真実をついています。
 断片的には無意味に見える人間関係が、複雑に織りなされると…

 フィリップに、この言葉の謎が解ける部分は、圧巻です。
 下巻の106章ですが、最初から読まないと、実感できません。

 ところで、最も存在感があるのは、なんといっても、ミルドレッド。
 彼女は、今まで私が読んだ本の中で、最低の女性です!

 薄情で高慢で卑劣。
 ミルドレッドの人間性をひとことで表せば、「下劣」に尽きます。

 しかし皮肉にも、彼女の登場から、物語は面白くなるのです。
 最低だ最低だ、そう思いながらも、どこかで、
 もっと最低なことをしてほしいと、期待してしまいます。

 この最低な女に惚れてしまうフィリップの、情けなさもまた見もの。
 情けない情けない、そう思いながらも、どこかで、
 その情けなさを、楽しんでしまいます。

 「人間の絆」というタイトルは、ミルドレッドとの切れないつながりを、
 暗示したものだという解釈もあるようです。

 さて、この作品は、122章からできています。
 各章が短いため、とても読みやすいです。

 中でも、私のお気に入りの章は、第25章です。
 フランス語のデュクロ老先生のエピソードです。

 わずか5ページに、人生の哀愁がめいっぱい盛りこまれています。
 第25章だけを独立させても、珠玉の短篇として味わえます。

 さいごに。
 少し前のことですが、職場のトイレでの話。

 大便コーナーから、「ウーンウーン」と聞こえることは、よくあります。
 しかしその日は、「よしっ、よしっ」という、声がしました。
 私も便秘気味になることがあるので、その気持ちがよく分かります。

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