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わたしを離さないで [20世紀イギリス文学]

 「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ作 土屋政雄訳 (ハヤカワepi文庫)


 介護人キャシーが、ヘールシャムという閉鎖的な施設について語った物語です。
 日系の作者が2017年度ノーベル文学賞に輝いたことによって、注目されました。

 ハヤカワepi文庫から出ています。訳は読みやすいです。
 前年2016年にドラマ化されたため、多くの書店で見かけるようになりました。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ・イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: 文庫



 語り手のキャシーは、31歳の優秀な介護人で、「ヘールシャム」の出身です。
 彼女は、子供時代に過ごしたヘールシャムという施設について、語り始めます。

 そこはただの孤児院ではなく、なぜか展覧会用の作品作りばかりしていました。
 やがて彼らに、少しずつ残酷な事実が明かされていき・・・

 ヘールシャムの子供たちは、なぜ外の世界から隔離されているのか?
 ヘールシャムの子どもたちに、与えられた特殊な使命とは?

 ヘールシャムとは、いったい何のための施設なのか?
 「提供者」とは? 「介護人」とは? 「回復センター」とは?

 そして、血も凍るような終盤の展開!(特に第22章から)
 エミリー先生やマダムや、社会の人々の身勝手さに、吐き気を催しました。

 「それじゃチェスの駒と同じだと思っているでしょう。(中略)でも、考えてみ
 て。あなた方は、駒だとしても幸運な駒ですよ。」(P406)それはないだろう!

 私はこのタイトルを見て、この作品は切ない恋愛小説だと思いました。
 ところが、命(?)をテーマにした、非常に重たい物語でした。

 こういう社会的な作品を書いたからこそ、ノーベル賞になったのかもしれません。
 しかし、こういう内容だと知っていたら、私はこの作品を絶対に読まなかった。

 この作品を、感動作として紹介する人もいます。しかし、それは違うでしょう。
 確かに衝撃的な作品ですが、感動よりも後味の悪さがいつまでも残ります。

 さて、カズオ・イシグロの代表作は、1989年に出た「日の名残り」です。
 「わたしを離さないで」の口直しとして、近いうちに読みたい名作です。


日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2001/05/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ゴミ箱の中を見るな)

 娘がゴミ箱の中を覗いて、「パパ、ひとりでお菓子を食べたでしょ」と言う。
 お菓子の包み紙で分かるのだ。「ゴミ箱を覗くな!」と怒ったけど効果なし。

 そういえば、まだ4歳のときから、娘は同じようなことを言っていました。
 2011年のブログ → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-02-19

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コメント 6

サンフランシスコ人

「2016年にドラマ化されたため、多くの書店で見かけるようになりました.....」

サンフランシスコの書店では、十年以上も前に見かけるようになりました...

by サンフランシスコ人 (2017-11-07 07:47) 

ike-pyon

サンフランシスコ人さん、コメントをありがとうございます。
国による違いを感じます。
ノーベル賞受賞後は、どこの本屋でも身かけるようになりました。
by ike-pyon (2017-11-07 20:53) 

サンフランシスコ人

2005年にサンフランシスコのKQED(ラジオ・テレビ放送局)で紹介されました..

http://ww2.kqed.org/arts/2005/09/21/never_let_me_go_by_kazuo_ishiguro/

1995年にカズオ・イシグロがPBS(アメリカのテレビ放送ネットワーク)に出演した....

http://www.youtube.com/watch?v=Tx6An0vHJ6E
by サンフランシスコ人 (2017-11-08 08:13) 

ike-pyon

サンフランシスコ人さん、貴重な情報をありがとうございました。
カズオ・イシグロさん、若かったですね。

by ike-pyon (2017-11-09 21:22) 

サンフランシスコ人

「サンフランシスコの書店では、十年以上も前に見かけるようになりました........」

1860年、福沢諭吉は、サンフランシスコに滞在中、書店に立ち寄ってウェブスターの英語辞書を購入しました...



by サンフランシスコ人 (2017-11-10 07:46) 

ike-pyon

サンフランシスコ人さん、興味深い情報をありがとうございます。
歴史における二国のつながりを感じます。
by ike-pyon (2017-11-11 04:40) 

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