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忘却の河 [日本の現代文学]

 「忘却の河」 福永武彦 (新潮文庫)


 愛する女を死に追いやった過去を持つ男と、家族それぞれの思いを描いた物語です。
 人間の深層心理を描いた名作で、「草の花」と並ぶ代表作です。


忘却の河 (新潮文庫)

忘却の河 (新潮文庫)

  • 作者: 武彦, 福永
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/05
  • メディア: 文庫



 男は、ある看護師と結婚を約束しながら、家柄の違いによって果たせませんでした。
 絶望した女は、男の知らぬ間に、お腹の中の子供と一緒に自ら命を絶ったのでした。

 男は、その記憶を長い間引きずって生きていました。家族の誰にも打ち明けずに。
 彼はほかにも秘密を抱えています。時々会っている若い女、自分の出生のこと・・・

 長女の美佐子にも秘密があります。美術評論家で、妻子ある三木という男と・・・
 また美佐子は、ある疑念にとらわれています。自分は本当はうちの子ではなく・・・

 次女の香代子は、大学の演劇の先輩である、下山という男との関係が進んで・・・
 香代子もまた、ある疑念にとらわれています。自分こそ本当は父の子ではなく・・・

 病気で寝たきりとなっている妻は、死を前にして、秘密を抱えたままでいました。
 習字のお師匠さんの家で会った、ある青年とのことを・・・

 七章から成る物語は、独立した形式をとりながら、しだいに接点を持ち始めます。
 家族それぞれの思いが、しだいに寄り添っていくところが、すがすがしいです。

 「己たちはみんな寂しいのに、どうして心を通わせることが出来ないのだろうか」
 「己の心が硝子を隔てて見ているだけで、その向こうに出て行こうとしないから」

 これは、脇役的な存在である三木の言葉ですが、とても重要なことだと思います。
 そのガラスをぶち破って、相手に生で接したときに、初めて通じることがある!

 さて、この物語にはミステリーっぽい要素もあり、最後まで飽きずに読めました。
 美佐子が幼いころ聞いた子守歌は、誰が歌っていたのか? どこの歌だったのか?

 非常によく練られた小説で、無駄な部分はなく、完璧な構成を持っています。
 また、所々で印象的なフレーズが現れ、作品を印象深くしています。

 「ひとは愛する時に、くるしむことさえも心のよりどころになっているのだ。」
 「ただこの行為が一切の忘却につながるが故にこの女を愛していた。」・・・

 ところで、新潮文庫版の巻末には、池澤夏樹による解説が付けられていました。
 恥ずかしながら、福永武彦が池澤の父であることを知ったのは、最近のことです。

 さいごに。(今年はGWあり)

 明日から5日間休みとなります。久々にGWが休みとなりました。
 年間計画では、5日間のうち4日間が、一日中(12時間)の仕事でした。
 (昨年のGWの10連休では、9日間が仕事だった!)

 大きな仕事ができなくなり、残念だと思う反面、ちょっぴり嬉しい気もします。
 娘と一緒に、たまっていたテレビ録画を見る時間もできそうで、楽しみです。

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