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この世の王国 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「この世の王国」 カルペンティエール作 木村榮一訳 (サンリオ文庫)


 ハイチにおける権力者の移り変わりを、魔術的リアリズムで描いた幻想小説です。
 黒人のブードゥー教の文化や、ハイチの驚異的世界を描き、注目を集めました。


この世の王国 (サンリオ文庫)

この世の王国 (サンリオ文庫)

  • 出版社/メーカー: サンリオ
  • 発売日: 2020/05/03
  • メディア: 文庫



 事故で片腕となった、黒人奴隷のマッカンダルは、ある日、農場から消えました。
 彼は逃亡した後、多くの農場をまわって、奴隷たちと連絡を取るようになりました。

 彼は苦行してブードゥーの祭司となり、人並み優れた能力を持つに至ったのです。
 そして白人たちを毒殺し、黒人奴隷による一大帝国を築くために行動を始めました。

 「双蹄動物、鳥、魚、あるいは昆虫に変身する能力を授けられたマッカンダルは、姿
 を変えて平原に点在する農場を訪れ、信者の動きに目を光らせ、(中略)こうして彼
 は島全体を支配下に収めていた。」(P41)

 マッカンダルが捕らえられて、火刑に処せられるとき、火刑台から飛翔して・・・
 その数十年後、ブックマンは、ブードゥーの儀式をしたのち反乱を起こして・・・

 ハイチでは、長きにわたって反乱が続き、何度も権力者が変わってきました。
 しかし、底辺にいる者たちの暮らしは、常に変わることがありませんでした。

 「さまざまな悲しみと義務に苦しめられ、貧困にあえぎながらも気高さを保ち、逆境
 にあっても人を愛することのできる人間だけが、この世の王国においてこのうえもな
 く偉大なものを、至高のものを見出すことができるのだ。」(P149)

 ところで、この小説で最も有名なのは、「序」における次のような宣言かもしれない。
 「アメリカ大陸の歴史とは一切が、現実の驚異的なものの記録ではないだろうか?」

 そして実際、ハイチの歴史物語の随所に、驚異的エピソードを盛り込んでいます。
 作者が、「魔術的リアリズムの創始者のひとり」と言われたゆえんがここにあります。

 ただし私は、エピソードがもっと有機的につながっていると良かった、と思いました。
 あるいは、マッカンダルに関わる事件だけで完結させてしまうとか・・・

 さて、この本には、「亡命者庇護権」という作品も、同時に収録されています。
 こちらは、「この世の王国」より20年以上後の、1972年に書かれています。

 マビリャン将軍が反乱を起こし、官房長官の主人公はある国の大使館に亡命し・・・
 魔術的リアリズムとは、少し違うようですが、短いながら味わい深い作品でした。

 さて、サンリオ文庫のこの本は、現在絶版で手に入りにくい状況です。
 当時380円だったこの本を、1000円+送料で手に入れました。日焼けで真っ黒でした。

 中古の文庫本を買うとき、私の場合は、1冊1000円までが許容範囲です。
 2冊4000円で出ている「石蹴り遊び」は、予算オーバーで買えません。どうしよう?

 カルペンティエールの、絶対的な代表作は、何と言っても「失われた足跡」でしょう。
 以前集英社文庫で絶版となったものの、現在は岩波文庫に入っています。ありがたい。

失われた足跡 (岩波文庫)

失われた足跡 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/05/17
  • メディア: 文庫



 さいごに。(マスク安売り合戦か)

 4月の初旬、50枚入り3800円だったマスクが、今では2000円を切っています。
 yahooショッピングでは送料込み1200円というのも。昔の金額で3箱買える!

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