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失われた足跡 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「失われた足跡」 カルペンティエル作 牛島信明訳 (岩波文庫)


 音楽家の男が、幻の楽器を求めてジャングルを旅した、6週間の冒険の物語です。
 1953年に刊行された代表作。オリノコ川上流を旅した経験をもとに書かれました。


失われた足跡 (岩波文庫)

失われた足跡 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/05/17
  • メディア: 文庫



 音楽家の「わたし」は、恩師である器官楽博物館の館長に、2年ぶりに会いました。
 わたしは館長から、ある原始的な楽器をジャングルで探求するよう頼まれました。

 わたしは、女優の妻とすれ違いの生活で、ムーシュという恋人を持っていました。
 ムーシュを連れて南米に飛んだわたしは、目的を果たすためバスで川を目指します。

 途中、ロサリオという混血女や、「先行者」という男などが、一向に加わりました。
 川を遡行する旅は、時間を遡行する旅であり、彼らの前に驚異の世界が広がります。

 奥へ進めば進むほど、ムーシュには嫌気がさし、ロサリオは輝き出して・・・
 楽器を手に入れたわたしは、さらに「先行者」と共に大高地の秘密の集落へ・・・

 もう戻らないと決心したあちらの世界に、戻ることになったのはなぜか?!
 もう一度戻ろうとしたこちらの世界に、戻ることができなかったのはなぜか?!

 冒険小説と神話的な要素が盛り込まれているため、ワクワクしながら読めました。
 語り手の「わたし」に導かれ、ジャングルのめくるめき世界が体験できました。

 作者は、ジャングルにおける原始的な自然や生活を、随所で賛美しています。
 インディオの集落において、語り手の「わたし」の見方も180度変わりました。

 「わたしのまわりにいた人々はすべて、それぞれの仕事にいそしんでおり、のどか
 な調和のうちに、自然のリズムにしたがった生活がいとなまれていた。インディオ
 を現実的な人間生活の周辺的な存在とみなす、思い上がった、多かれ少なかれ空想
 的な報告を通して、わたしは彼らに対するイメージを形成していた。ところが実際
 には、彼らは自分たちの領域において、独自の文化の完璧な所有者だったのだ。」
 (P280)

 インディオの営む世界と、「わたし」が属する世界は、時間の流れ方が違います。
 わずか距離に、永遠の隔たりがあります。だから、「足跡」は「失われた」・・・

 「例外的な道、新しい道を歩くことは無意識的な行為であり、それが現実におこな
 われているときには、その驚異に気付くことはない。その道ははるかな地点、日常
 性を遠く越えた、復帰不可能な地点にまで達しているのである・・・」(P435)

 結末は皮肉でした。しかしそこにこそ、作者の言いたかったことがあるようです。
 「失われた足跡」は、とても興味深い物語でした。いつかまた再読したいです。

 岩波文庫版のカバーは、私の好きなアンリ・ルソーの「蛇使いの女」です。
 ロサリオやジャングルのイメージが、よく表されています。まさに、絶妙です。

 さて、カルペンティエルには、もう一つの代表作「この世の王国」があります。
 ハイチを舞台にした驚異の世界が描かれています。サンリオ文庫版は絶版です。


この世の王国 (サンリオ文庫)

この世の王国 (サンリオ文庫)

  • 出版社/メーカー: サンリオ
  • 発売日: 2020/04/11
  • メディア: 文庫



 さいごに。(レザークラフト作品完成)

 4年前に取り掛かった後、転勤で多忙となり、放置していた作品を完成しました。
 コロナウィルスの影響で、GW中の仕事が無くなり、時間ができたので。

 「どうせ作るのなら、絶対に店で売ってないようなものを」と思い、作りました。
 三つのホックで、包みをひらくように開ける、唯一無二のシステム手帳です。

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