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狭き門 [20世紀フランス文学]

 「狭き門」 ジッド作 中条省平・中条志穂訳 (古典新訳文庫)


 愛と信仰の相克の果てに、自己犠牲に至る女を描いた、悲劇的な物語です。
 ジッドの前半生の体験を反映した作品で、題名は聖書の言葉によっています。


狭き門 (光文社古典新訳文庫)

狭き門 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/02/10
  • メディア: 文庫



狭き門 (新潮文庫)

狭き門 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/10/01
  • メディア: 文庫



 ジェロームはビュコラン家を訪れるうちに、2歳上のアリサに惹かれていきました。
 ジェロームが14歳のある日、ビュコラン夫人は駆け落ちし、アリサは心を痛めます。

 日曜日の礼拝堂では、牧師が「力を尽くして狭き門より入れ」と説教していました。
 「生命にいたる門は狭く、その路は細く、之を見出す者すくなし」と。

 それを聞いてジェロームは、アリサと一緒に狭き門を入る姿を想像するのでした。
 やがて二人は愛し合い、年を重ねながら、愛はますます深まっていきますが・・・

 アリサはなぜか婚約を拒んで・・・交流は手紙のやり取りだけとなり・・・
 そして、ジェロームが兵役を終え、久しぶりにアリサに会ってみると・・・

 この作品を最初に読んだのは大学時代で、本は新潮文庫版でした。
 当時の感想はひとことで言って、「めんどくせー女!」というものでした。

 アリサの言う理屈が、当時の私にはさっぱり分かりませんでした。
 アリサは、ひとりよがりの自己犠牲によって、かえって不幸をもたらしました。

 「どういうわけかわからないけれど、あなたと一緒に、どことも知れない広大な
 神秘の国を見に行くという奇妙な確信を抱いています・・・」(P131) はあ?

 「あの満足感が真実であるはずがないわ! わたしたちは別の幸福のために生ま
 れてきたのよ・・・。」(P176) はああ?

 「神さま、あなたが教えてくれた道は狭いーーふたり一緒には歩けないほど狭い
 のです。」(P233) はあああ?

 自分たちには特別な使命があるみたいに、思い込んでるんじゃねえ!
 ぐじゃぐじゃ言わずに、幸せになればいいじゃねーか! と、当時は思いました。

 しかし、今回は「解説」まで読んで、これまでのもやもやが吹っ切れました。
 古典新訳文庫の解説は、ジッドの半生と照らし合わせていて、分かりやすいです。

 特に「アリサが自分の体に母の淫奔な血が流れることを感じ、それを過剰に恐れて
 いる」(P274)という指摘は、とても興味深かったです。

 ならば、汚れた自分と一緒では狭き門に入れない、と考えた気持ちも分かります。
 しかし、ちゃんとジェロームに伝えるべきでした。最後に日記で知らせるなんて!

 そして、ジェロームは言ってやればよかった。神の道よりアリサの方が大事だと。
 「愛の前では、親の血なんてカンケーねえ。神さまだってカンケーねえ。」と。

 さて、この物語は悲劇でしょうか? 結末は悲しいというより、アホみたいですよ。
 ジッドは、批判的に描いたらしいです。少し皮肉を感じるのは、そのためでしょう。

 さいごに。(本気で怒るなって)

 「大会には『◇◇ガンバレ!』と書いた鉢巻をして応援に行くね」と言ったら、
 本気で怒られました。この手の冗談は、なかなか通じないお年頃(14歳)です。

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みみ

キリスト教圏での、人間同士の愛も結局は神への愛(信仰)あってこそ、という精神的な背景を理解しないと「アホみたい」という読後になるかと…男女の愛と神への愛のすり替え、というのがキリスト教圏の文学の裏テーマという気もしますが、ミルトンの「失楽園」を読むとキリスト教の縛りが多少納得出来るかと思います。お節介ながら。
by みみ (2021-02-01 23:05) 

ike-pyon

コメント、ありがとうございます。
「男女の愛と神への愛のすり替え、というのがキリスト教圏の文学の裏テーマ」という指摘が、とても参考になりました。
そういう視点は、持っていませんでした。なるほど、と思いました。
by ike-pyon (2021-02-14 06:15) 

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