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パルプ [20世紀アメリカ文学]

 「パルプ」 チャールズ・ブコウスキー作 柴田元幸訳 (新潮文庫)


 怠惰で無能な探偵が、荒唐無稽な事件に巻き込まれるドタバタ劇的な物語です。
 作者の遺作で、最高傑作です。この作品を完成した1994年に亡くなりました。

 現在ちくま文庫から出ていますが、私は現在絶版の新潮文庫版で読みました。
 新潮文庫版の安っぽい挿し絵は、B級小説の雰囲気が良く出ていて良いです。


パルプ (新潮文庫)

パルプ (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/01
  • メディア: 文庫



パルプ (ちくま文庫)

パルプ (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/06/08
  • メディア: 文庫



 三流探偵ビレーンのもとに、なぜか次々とヘンテコな仕事の依頼がやって来ました。
 久しぶりの仕事に張り切るビレーンですが、奇妙な事件に巻き込まれていき・・・

 ということで、内容は、「ダメ探偵のバカバカしい物語」と言えば充分でしょう。
 死んだはずの作家、死に神、宇宙人などが、続々と登場します。

 最初はあまりの無茶苦茶さにただ呆れましたが、いつのまにかハマっていました。
 主人公ニック・ビレーンのダメさ加減が、しだいに心になじんでくるからです。

 この最低な探偵は、しょっちゅう仕事を放り出して、競馬場や酒場に出かけます。
 そしてお金をすったり、たらふく飲んだり、ケンカを売ったり買ったりしています。

 そして時々心でつぶやくのですが、この心のつぶやきがサイコーなのです!
 物語が奇妙な分、つぶやきが妙にリアルで心を打ちます。人間の悲哀を感じます。

 「やれやれ。人間なんて地面一センチ一センチを確保しようと苦労するために生まれ
 てくる。苦労するために生まれ、死ぬために生まれる。」(P33)

 「あの世へ行くときはみんな一文なしだし、たいていは生きてるときからそうだ。じ
 わじわ弱っていくしかないゲーム。朝、靴をはけるだけでも勝利だ。」(P111)

 「誰もがいつかはやられちまう。勝者なんていない。勝者みたいに見える奴がいるだ
 けだ。俺たちはみんな、なんにもならないものをあくせく追いかけまわしてる。」
 (P173)

 「俺たちみんな、ぶらぶらしながら死ぬのを待ってるだけだ。それまでのすきまを埋
 めようと、あれこれしょうもないことをやってる。」(P237)

 ダメダメ探偵ニック・ビレーンですが、しかし彼から学ぶことは多いです。
 ビレーンの諦観が、このバカバカしい物語をギリギリのところで支えています。

 さて、のらりくらりとしながらも、難問を解決してきたビレーン。
 最後に赤い雀を、いかにして見つけたか?

 ところでこの物語には、20世紀フランス人作家のセリーヌが登場しました。
 作者ブコウスキーは、セリーヌをたいへん敬愛していたのだそうです。

 ルイ=フェルディナン・セリーヌの代表作は、処女作「夜の果てへの旅」です。
 「夜の果てへの旅」は現在中公文庫から出ています。読んでみたくなりました。


夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2003/12/01
  • メディア: 文庫



夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2003/12/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(老後は仲良くね)

 娘に、「パパ、ママ、老後は仲良くしてね。」と言われました。
 老後、二人だけになったとき、仲良くしていないと大変だから、とのことです。

 仲良くしてるつもりなのだけどなあ。
 それにしても、むすめにそんなことを心配されているとは!

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