SSブログ

アメリカの悲劇3 [20世紀アメリカ文学]

 「アメリカの悲劇 下巻」 シオドア・ドライザー作 大久保康雄訳 (新潮文庫)


 シャツ会社で働くクライドが、上流階級の社交界に憧れて、破滅へ向かう物語です。
 1925年に出た、ドライサーの代表作です。名作映画「陽のあたる場所」の原作です。


アメリカの悲劇〈上・下〉 (1978年) (新潮文庫)

アメリカの悲劇〈上・下〉 (1978年) (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 文庫



 クライドが怖れたのはロバータ自身ではなく、彼女がもたらすみじめな境遇です。
 社交界に招かれ、ソンドラに恋した今、なぜすべてを諦めなければならないのか?

 「もし急いでうまく彼女と縁を切ってしまわなかったら、彼の見かけた輝かしい夢は
 消えて、彼の生まれてきたあの世界が、陰気な貧乏たらしい腕をさしのべて、ふたた
 び彼をとらえ、彼の家族の貧しさが彼らをみじめな人間にしたように、彼もまたその
 ために半ば絞め殺されてしまうだろう。」(P11)

 しかしロバータはクライドに結婚を迫り、クライドは窮地に追い込まれてしまいます。
 そんな折クライドは、ある新聞でボートの転覆事故の記事を、偶然目に留めました。

 彼の弱い心に悪魔が侵入して、ささやいた言葉は・・・
 どうにもならなくなったクライドは、悪魔の誘惑に抵抗できずに・・・

 下巻の最初の方は第二部の続きです。
 この100ページほどの間に、唖然とするような展開がありました。

 クライドとロバータが深い仲となったきっかけもまた、湖でのボート遊びでした。
 ロバータは一瞬ためらって、「ボートなんて、あぶないんですもの」と言いました。

 ロバータの悪い予感は、彼女の不安定な将来を暗示していただけでは無かったのです。
 ロバータは、なんと自身の結末まで予感していたのです。

 クライドは堕ちるところまで堕ちたものです。もうただのクズ野郎ではありません。
 彼はすでに立派な犯罪者です。けなす気にもなれません。むしろ同情します。

 そして、二人にとって決定的な瞬間が・・・悪魔の仕業としか思えない・・・
 その場面では、ワイアワイアの鳥の声を使って、非常にうまく描いています。

 「あるものはただ、かすかなさざ波と、この驚くべき一幕の平和な荘厳な余韻だけだ
 った。すると、またしても、あのいまわしい不吉なもの悲しい鳥のけたたましい叫び
 声が、ひっそりとした空気をつんざいた。
  ケッ、ケッ、ケッ、カー!
  ケッ、ケッ、ケッ、カー!
  ケッ、ケッ、ケッ、カー!」(P116)

 今ようやく第三部に入り、物語は新たな展開を迎え、ますます目が離せません。
 クライドは罪を逃れられるのか? ソンドラとの関係はどうなるのか?

 さて、女を捨てる物語はいろいろありますが、クライドはその中でもヒドイです。
 しかし、ちょっとした間違いで、誰でもクライドの立場になるような気もします。

 女を捨てる物語で、他にまっさきに思いつくのが、「林檎の木」と「舞姫」です。
 いずれも階級の違う女を捨てざるをえなくなった、身勝手な男たちの物語です。

 「林檎の木」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-06-22
 「舞姫」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-03-13

 さいごに。(ワクチン接種券来ました)

 ワクチン接種の予約券が来ました。わが区では、現在50歳以上に送付しています。
 しかし予約は、8/4から。まだまだ先になります。早く済ませたいです。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。