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ダブリナーズ1 [20世紀イギリス文学]

 「ダブリナーズ」 ジェイムズ・ジョイス作 柳瀬尚紀訳 (新潮文庫)


 アイルランドの首都ダブリンの人々の、退廃的な様子を描き出した短編集です。
 1914年に刊行された、ジョイスの初期の代表作で、15編が収録されています。


ダブリナーズ (新潮文庫)

ダブリナーズ (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/03/02
  • メディア: 文庫



 各短編は、登場人物が次々と入れ替わり、さまざまな立場の人を描いています。
 15編に出てくる主な人物は、以下のとおりです。

 故神父と親しかった少年、変質者に出会う二人の少年、友人の姉に恋した少年、
 駆け落ちを諦めた少女、賭け事で大金を擦る青年、詐欺師とその仲間のメイド、
 下宿屋を営む女将、出世した友に自分の夢を語る青年、仕事のできない公証人、
 気のいい老いたメイド、突然恋に目覚めた中年の男女、政治談義にふける人々、
 娘の報酬のことで会社と争う夫人、イエズス会の人々、そして、上流階級・・・

 いろいろな人物を描くことで、ダブリンという都市を多角的にとらえています。
 しかしどの人物も、ダブリンの中で迷子になってしまっているように見えます。

 「間違いない、成功したけりゃ出て行くしかないのだ。ダブリンにいては何もで
 きやしない。」(P117)

 この作品が書かれた頃のアイルランドは、まだ大英帝国の属国だったそうです。
 その首都であるダブリンは、「退廃と停滞の街」と言われていたのだそうです。

 そのようなダブリンを、若いジョイスは愛情をもって描き出そうとしています。
 特に印象に残ったのが、若い男女の悲しい運命を描いた「エヴリン」です。

 エヴリンは暴力的な父の元での生活にうんざりしていました。
 だからすべてを捨て、船乗りで恋人のフランクと駆け落ちの約束をしました。

 ところがその夜、死んだ母を思い出したのです。そして死んだ母との約束を。
 「行こう」というフランクに、エヴリンは・・・痛ましい物語です。

 もう一つ、忘れられない作品が、「痛ましい事故」です。
 こちらは、中年男女の恋愛と悲劇を描いています。

 ダフィー氏は偶然出会ったシニコウ夫人と、デートをするようになりました。
 しかし、深入りしすぎたと感じたとき、お互いに交際を絶つ決意をしました。

 夫人は激しく身を震わせましたが、ダフィー氏はそそくさと別れを告げました。
 4年後、駅での痛ましい事故が報じられ、ダフィー氏は当時を振り返り・・・

 「女がいなくなった今、女が毎晩毎晩、あの部屋で独りきりで過ごした人生が
 いかに孤独であったかが分る。自分の人生も孤独なものとなっていき、ついに
 は自分もまた、死んで、存在しなくなって、一つの思い出となる―もし思い出
 してくれる者がいるなら。」(P190)

 さて、笑えたのが「二人の伊達男」。私は最初この二人を男娼だと思いました。
 というのも、最後にコーリーは、女から金貨を受け取っていたからです。

 しかもその直前に、「女にやらせたのか」というレネハンの言葉もありました。
 それに応えてコーリーは、意味ありげににやりと笑ってみせているからです。

 しかしウィキペディアには、「レネハンとコーリーと言う二人の詐欺師に雇われ
 たメイドが、主人たちを相手に盗みを働こうとする。」と説明されていました。

 このぶんだと、解釈を間違えた作品がほかにもありそうです。
 正直に言って、15編のどの作品も、少しずつ分かりにくい部分がありました。

 ところで、15編中もっとも有名なのは、ラストを飾る「死せるものたち」です。
 この作品については、次回触れたいと思います。

 さいごに。(英文学講座)

 ユーチューブに「英国文学講座」というのがあるので、最近少しずつ見ています。
 ウルフやジョイスについては、次の動画で簡潔に紹介されています。おススメです。



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