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ジャン・クリストフ 第1巻 [20世紀フランス文学]

 「ジャン・クリストフ(一)」 ロマン・ロラン作 豊島与志雄訳 (岩波文庫)


 天才作曲家クリストフの苦悩に満ちた生涯を、壮大なスケールで描いた大河小説です。
 1904年から1912年にかけて発表され、ロランはこの作品でノーベル賞を取りました。

 原作は全10巻で刊行されましたが、岩波文庫では四分冊で出ています(1986年改版)。
 初訳はなんと1921年! 活字が小さくて少し読みにくいものの、味わい深い名訳です。


ジャン・クリストフ 1 (岩波文庫 赤 555-1)

ジャン・クリストフ 1 (岩波文庫 赤 555-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1986/06/16
  • メディア: 文庫



 クリストフの家は父子二代にわたる音楽家で、ライン河畔では名声を得ていました。
 彼の祖父は、かつては大公に仕える楽長で、70を過ぎた今でも尊敬されていました。

 父のメルキオルは、幼少の頃ヴァイオリンの才能を発揮し、時代の寵児となりました。
 ところがのちに酒に溺れ、女中のルイザと結婚してからますます身を持ち崩しました。

 だからクリストフが生まれたときには、一家はすでに貧困にあえいでいました。
 そのため母のルイザは、料理女としてたびたび働きに出なければなりませんでした。

 あるとき幼いクリストフがピアノと戯れているのを、父メルキオルが目撃しました。
 そして父は、クリストフを天才音楽家にしようと思い、ピアノの特訓を始めました。

 父の卑しい策略を知って失望し、一時は父に反抗しますが・・・
 とうとう大公の前で演奏して大成功し、宮廷の音楽員に任命されて・・・

 第一巻「曙」には、ジャン・クリストフの誕生から幼少期までが描かれています。
 活字が小さくて訳が古いためだと思いますが、最初はとても読みにくかったです。

 ところが途中から、まるでスイッチが入ったように楽しく読めるようになりました。
 それは、幼いクリストフが初めて世の「不正」を目の当たりにする場面からです。

 金持ちの子供たちが先に手を出したのに、なぜ自分が謝らなければならないのか?
 この意地悪で軽蔑すべき人々に対して、なぜ自分の母は頭が上がらないのか?

 さて、クリストフを守ってくれるのは母、音楽を教えてくれるのは祖父と父です。
 しかし、芸術についての大事な点を教えるのは、叔父のゴットフリートなのです。

 ゴットフリートは母の兄で、行商を生業としていて、音楽のことなどは知りません。
 しかし、飾らない叔父のまごころからの言葉は、クリストフの心に沁み込みます。

 「お前は書くために書いたんだ。偉い音楽家になるために、人からほめられたいため
 に、書いたんだ。お前は高慢だった、お前は嘘をついた、それで罰を受けたんだ・・・
 (中略)音楽は謙遜で誠実であることを望む。もしそうでなかったら、音楽とはなん
 だろう? 神様にたいする不信だ、冒瀆だ、正直な真実なことをいうために美しい歌
 をわれわれに贈ってくだすった神様にたいしてね。」(P154)

 音楽は「謙遜と誠実」を望むという言葉に、作者の芸術観も込められているようです。
 ところが父と祖父によって、クリストフは宮廷で成功することを目的とされ・・・

 幼いクリストフとゴットフリートとの交流は、たいへん印象に残りました。
 もうひとつ、印象に残っているのが、クリストフのライン川に対する思いです。

 「彼(=ライン川)はどこへ行こうとしているのか? 彼は何を望んでいるのか? 
 彼は自分の道を信じきっているような様子である。・・・何物も彼を止めることはできな
 い。昼も夜もいかなる時でも、雨が降ろうと日が照ろうと、家の中に喜びがあろうと
 悲しみがあろうと、彼は流れつづけている。すべて何事も彼にとってはどうでもいい
 ことらしい。彼はかつて苦しんだことがなく、常に自分の力を楽しんでいるらしい。
 彼のようだったら、どんなに愉快だろう!」(P115)

 ここに、クリストフが目指そうとする人生が、現れているようにも思います。
 芸術の道に邁進して、苦しみも悲しみも乗り越えていくような人生が・・・

 現在、まだ「第一巻」の部分を読み終えただけです。文庫の一冊目の三分の一です。
 クリストフはようやくまだ7歳。早く青年時代を読みたいです。

 さいごに。(岩盤浴)

 久しぶりに土曜日が休みになったので、初めて岩盤浴なるものを体験しました。
 中ではさまざまな人が、思い思いの場所でのんびり横になってくつろいでいました。

 しかし、貧乏性の私には、だらだら過ごすことがもったいなく感じてしまって・・・
 結局、休憩室で本を読んでいる時間の方が、はるかに長かったです。

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