ジャン・クリストフ 第1巻 [20世紀フランス文学]
「ジャン・クリストフ(一)」 ロマン・ロラン作 豊島与志雄訳 (岩波文庫)
天才作曲家クリストフの苦悩に満ちた生涯を、壮大なスケールで描いた大河小説です。
1904年から1912年にかけて発表され、ロランはこの作品でノーベル賞を取りました。
原作は全10巻で刊行されましたが、岩波文庫では四分冊で出ています(1986年改版)。
初訳はなんと1921年! 活字が小さくて少し読みにくいものの、味わい深い名訳です。
クリストフの家は父子二代にわたる音楽家で、ライン河畔では名声を得ていました。
彼の祖父は、かつては大公に仕える楽長で、70を過ぎた今でも尊敬されていました。
父のメルキオルは、幼少の頃ヴァイオリンの才能を発揮し、時代の寵児となりました。
ところがのちに酒に溺れ、女中のルイザと結婚してからますます身を持ち崩しました。
だからクリストフが生まれたときには、一家はすでに貧困にあえいでいました。
そのため母のルイザは、料理女としてたびたび働きに出なければなりませんでした。
あるとき幼いクリストフがピアノと戯れているのを、父メルキオルが目撃しました。
そして父は、クリストフを天才音楽家にしようと思い、ピアノの特訓を始めました。
父の卑しい策略を知って失望し、一時は父に反抗しますが・・・
とうとう大公の前で演奏して大成功し、宮廷の音楽員に任命されて・・・
第一巻「曙」には、ジャン・クリストフの誕生から幼少期までが描かれています。
活字が小さくて訳が古いためだと思いますが、最初はとても読みにくかったです。
ところが途中から、まるでスイッチが入ったように楽しく読めるようになりました。
それは、幼いクリストフが初めて世の「不正」を目の当たりにする場面からです。
金持ちの子供たちが先に手を出したのに、なぜ自分が謝らなければならないのか?
この意地悪で軽蔑すべき人々に対して、なぜ自分の母は頭が上がらないのか?
さて、クリストフを守ってくれるのは母、音楽を教えてくれるのは祖父と父です。
しかし、芸術についての大事な点を教えるのは、叔父のゴットフリートなのです。
ゴットフリートは母の兄で、行商を生業としていて、音楽のことなどは知りません。
しかし、飾らない叔父のまごころからの言葉は、クリストフの心に沁み込みます。
「お前は書くために書いたんだ。偉い音楽家になるために、人からほめられたいため
に、書いたんだ。お前は高慢だった、お前は嘘をついた、それで罰を受けたんだ・・・
(中略)音楽は謙遜で誠実であることを望む。もしそうでなかったら、音楽とはなん
だろう? 神様にたいする不信だ、冒瀆だ、正直な真実なことをいうために美しい歌
をわれわれに贈ってくだすった神様にたいしてね。」(P154)
音楽は「謙遜と誠実」を望むという言葉に、作者の芸術観も込められているようです。
ところが父と祖父によって、クリストフは宮廷で成功することを目的とされ・・・
幼いクリストフとゴットフリートとの交流は、たいへん印象に残りました。
もうひとつ、印象に残っているのが、クリストフのライン川に対する思いです。
「彼(=ライン川)はどこへ行こうとしているのか? 彼は何を望んでいるのか?
彼は自分の道を信じきっているような様子である。・・・何物も彼を止めることはできな
い。昼も夜もいかなる時でも、雨が降ろうと日が照ろうと、家の中に喜びがあろうと
悲しみがあろうと、彼は流れつづけている。すべて何事も彼にとってはどうでもいい
ことらしい。彼はかつて苦しんだことがなく、常に自分の力を楽しんでいるらしい。
彼のようだったら、どんなに愉快だろう!」(P115)
ここに、クリストフが目指そうとする人生が、現れているようにも思います。
芸術の道に邁進して、苦しみも悲しみも乗り越えていくような人生が・・・
現在、まだ「第一巻」の部分を読み終えただけです。文庫の一冊目の三分の一です。
クリストフはようやくまだ7歳。早く青年時代を読みたいです。
さいごに。(岩盤浴)
久しぶりに土曜日が休みになったので、初めて岩盤浴なるものを体験しました。
中ではさまざまな人が、思い思いの場所でのんびり横になってくつろいでいました。
しかし、貧乏性の私には、だらだら過ごすことがもったいなく感じてしまって・・・
結局、休憩室で本を読んでいる時間の方が、はるかに長かったです。
天才作曲家クリストフの苦悩に満ちた生涯を、壮大なスケールで描いた大河小説です。
1904年から1912年にかけて発表され、ロランはこの作品でノーベル賞を取りました。
原作は全10巻で刊行されましたが、岩波文庫では四分冊で出ています(1986年改版)。
初訳はなんと1921年! 活字が小さくて少し読みにくいものの、味わい深い名訳です。
クリストフの家は父子二代にわたる音楽家で、ライン河畔では名声を得ていました。
彼の祖父は、かつては大公に仕える楽長で、70を過ぎた今でも尊敬されていました。
父のメルキオルは、幼少の頃ヴァイオリンの才能を発揮し、時代の寵児となりました。
ところがのちに酒に溺れ、女中のルイザと結婚してからますます身を持ち崩しました。
だからクリストフが生まれたときには、一家はすでに貧困にあえいでいました。
そのため母のルイザは、料理女としてたびたび働きに出なければなりませんでした。
あるとき幼いクリストフがピアノと戯れているのを、父メルキオルが目撃しました。
そして父は、クリストフを天才音楽家にしようと思い、ピアノの特訓を始めました。
父の卑しい策略を知って失望し、一時は父に反抗しますが・・・
とうとう大公の前で演奏して大成功し、宮廷の音楽員に任命されて・・・
第一巻「曙」には、ジャン・クリストフの誕生から幼少期までが描かれています。
活字が小さくて訳が古いためだと思いますが、最初はとても読みにくかったです。
ところが途中から、まるでスイッチが入ったように楽しく読めるようになりました。
それは、幼いクリストフが初めて世の「不正」を目の当たりにする場面からです。
金持ちの子供たちが先に手を出したのに、なぜ自分が謝らなければならないのか?
この意地悪で軽蔑すべき人々に対して、なぜ自分の母は頭が上がらないのか?
さて、クリストフを守ってくれるのは母、音楽を教えてくれるのは祖父と父です。
しかし、芸術についての大事な点を教えるのは、叔父のゴットフリートなのです。
ゴットフリートは母の兄で、行商を生業としていて、音楽のことなどは知りません。
しかし、飾らない叔父のまごころからの言葉は、クリストフの心に沁み込みます。
「お前は書くために書いたんだ。偉い音楽家になるために、人からほめられたいため
に、書いたんだ。お前は高慢だった、お前は嘘をついた、それで罰を受けたんだ・・・
(中略)音楽は謙遜で誠実であることを望む。もしそうでなかったら、音楽とはなん
だろう? 神様にたいする不信だ、冒瀆だ、正直な真実なことをいうために美しい歌
をわれわれに贈ってくだすった神様にたいしてね。」(P154)
音楽は「謙遜と誠実」を望むという言葉に、作者の芸術観も込められているようです。
ところが父と祖父によって、クリストフは宮廷で成功することを目的とされ・・・
幼いクリストフとゴットフリートとの交流は、たいへん印象に残りました。
もうひとつ、印象に残っているのが、クリストフのライン川に対する思いです。
「彼(=ライン川)はどこへ行こうとしているのか? 彼は何を望んでいるのか?
彼は自分の道を信じきっているような様子である。・・・何物も彼を止めることはできな
い。昼も夜もいかなる時でも、雨が降ろうと日が照ろうと、家の中に喜びがあろうと
悲しみがあろうと、彼は流れつづけている。すべて何事も彼にとってはどうでもいい
ことらしい。彼はかつて苦しんだことがなく、常に自分の力を楽しんでいるらしい。
彼のようだったら、どんなに愉快だろう!」(P115)
ここに、クリストフが目指そうとする人生が、現れているようにも思います。
芸術の道に邁進して、苦しみも悲しみも乗り越えていくような人生が・・・
現在、まだ「第一巻」の部分を読み終えただけです。文庫の一冊目の三分の一です。
クリストフはようやくまだ7歳。早く青年時代を読みたいです。
さいごに。(岩盤浴)
久しぶりに土曜日が休みになったので、初めて岩盤浴なるものを体験しました。
中ではさまざまな人が、思い思いの場所でのんびり横になってくつろいでいました。
しかし、貧乏性の私には、だらだら過ごすことがもったいなく感じてしまって・・・
結局、休憩室で本を読んでいる時間の方が、はるかに長かったです。
コメント 0