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万延元年のフットボール2 [日本の現代文学]

 「万延元年のフットボール」 大江健三郎 (講談社文芸文庫)


 万延元年に先祖が指揮した一揆の100年後、「僕」と弟が故郷で体験した物語です。
 1967年刊。ノーベル文学賞の受賞時に、大江健三郎の代表作として挙げられました。


万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/04/04
  • メディア: 文庫



 正月の前から雪が降り始めて、窪地の村は外界との交通が閉ざされました。
 元旦の午後、スーパーマーケットから歓声が聞こえました。略奪が始まったのです。

 スーパーマーケットの支配人は、フットボールチームの若者たちに軟禁されました。
 指揮していたのは弟の鷹四ですが、蜜三郎にはすでに鷹四の没落が見えていました。

 鷹四は言います。百年前の先祖たちの一揆を、この村に呼び戻して再現したい、と。
 蜜三郎は思いました。鷹四は、一緒に暮らしていた妹が自殺してから変わった、と。

 略奪が続く中で、鷹四が蜜三郎の妻と関係を持つようになったことが分かりました。
 ところが、鷹四はある事件を起こし、フットボールチームから見捨てられて・・・

 「鷹、おまえは気狂いの人殺しだ」
 「おれははじめて蜜に、正当に理解されたという気がするよ」(P381)

 鷹四が事件を起こしたことを信じない蜜三郎。鷹四は本当にそんなことをしたのか? 
 鷹四は自ら進んで犠牲になるつもりではないのか? 100年前の曽祖父の弟のように。

 鷹四は、曽祖父の弟の生まれ変わりとなり、自分も「御霊」になりたかったのか?
 最後に鷹四が告白した「本当のこと」とは? 鷹四と妹のあいだにどんな秘密が?

 終盤の怒涛の展開! 驚きの連続です。手に持った本が、なかなか置けません。
 失礼ながら今回も言ってしまいます。「大江の作品って、こんなに面白かったか?」

 ところで、舞台となる閉ざされた村で、唯一異質な存在がスーパーマーケットです。 
 この村を支配しているのが、「スーパーマーケットの天皇」と呼ばれる朝鮮人です。

 ほとんど謎の存在だった「天皇」は、暴動が終わった時点で初めて顔を出しました。
 そのとき、根所家の守り神の大女ジンは、やせ細って死にそうになっていました。

 新支配者の登場と、旧支配者の退場が、とても象徴的に描かれていてうまいです。
 また、「天皇」によって図らずも、100年前の謎が解明されるという展開も面白い。

 そして、100年を超えた根所蜜三郎たちの時代は終わり、新しい時代が始まります。
 と同時に、蜜三郎と妻の関係は・・・これは夫婦の再生の物語でもあったのか!

 本書「万延元年のフットボール」は、もっと読まれてもいい作品だと思いました。
 難点はタイトルが分かりにくい点。誰だってサッカーの話だと思いますよね。

 難点の二つ目は、講談社文芸文庫で2000円オーバーという価格。少しお高いです。
 絶版にしないのは有難いのですが、せめて1200円くらいにならないでしょうか。

 大江健三郎は、若いころ一時期ハマりました。手元に本は残っていません。
 常に適正価格を貫く新潮文庫の作品を、何冊か買い直してもう一度読みたいです。

 さいごに。(いまだに続く父の支配?)

 私が小学生の頃、ジャイアンツファンの父が、いつも野球の中継を見ていました。
 だから私は、いやでも野球のルールや観戦の仕方を覚えてしまいました。

 観戦中の妻の横で、差し出がましくならない程度に教えてあげると、喜んでくれます。
 ただし、巨人だけが正義である、という父の価値観からはなかなか脱却できず・・・

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