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ジャン・クリストフ7 [20世紀フランス文学]

 「ジャン・クリストフ(三)」 ロマン・ロラン作 豊島与志雄訳 (岩波文庫)


 天才作曲家クリストフの苦悩に満ちた生涯を、壮大なスケールで描いた大河小説です。
 1904年から1912年にかけて発表され、ロランはこの作品でノーベル賞を取りました。

 原作は全十巻で刊行。岩波文庫(三)には、第六巻から第八巻が収められています。
 ここから物語の後半に入りました。今回は、第七巻「家の中」を紹介します。


ジャン・クリストフ 3 (岩波文庫 赤 555-3)

ジャン・クリストフ 3 (岩波文庫 赤 555-3)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1986/08/18
  • メディア: 文庫



 アントアネットは生前、クリストフと出会いたいと願いながら、叶いませんでした。
 しかし、代わりに弟のオリヴィエが、ある夜会でクリストフと知り合ったのです。

 「アントアネットがその晩、オリヴィエといっしょにいたに違いない。クリストフは
 彼女の姿を、オリヴィエの眼の中に認めたのだった。その突然現れた彼女の面影に誘
 われて、クリストフは客間を横切って近寄っていった。」(P137)

 夜会の翌朝、クリストフはさっそくオリヴィエを訪ねて、すぐに意気投合しました。
 「君には以前会ったことがある・・・僕はずっと前から君をよく知っていた!」

 ふたりは意気投合し、古い家の六階に3室の住居を借りて、共同生活を始めました。
 とうとうクリストフは、オリヴィエがアントアネットの弟であることを知りました。

 「それ以来、アントアネットの魂が二人を包み込んでしまった。二人いっしょにいる
 ときは、彼女もともにいた。二人は彼女のことを考える必要がなかった。二人いっし
 ょに考えることはみな、彼女のなかで考えていた。」(P164)

 二人の借りた家には、牧師、技師、未亡人、元少佐、ユダヤ人なども住んでいました。
 ふたりの友情は、少しずつ周りに影響を与え、これらの人々を結び付けていきました。

 しかし、あるときクリストフはちょっとした誤解から、決闘騒ぎを起こして・・・
 やがて、母の危篤を知って、官憲に追われる身でありながら故郷に戻って・・・

 第七巻「家の中」は、彼らが住む家の人々との交流が描かれていて、味わい深いです。
 クリストフの個性は、意図することなく、思わぬ人々をつなげ、輪を広げていきます。

 これはまた、亡くなったアントアネットが、どこかで仕組んでいるようでもあります。
 アントアネットは、すでに存在しなくなってから、むしろ存在感が増してきました。

 「彼はときどき、アントアネットのうちにオリヴィエを愛しているのか、オリヴィエの
 うちにアントアネットを愛しているのか、もはや自分でもわからないことがあった。」
 (P165)

 この巻における登場人物で、とても印象深いのが、美術写真家のタデー・モークです。
 彼は40歳ぐらいのユダヤ人で、深い温情の持ち主であり、ふたりを支援してくれます。

 「実に不幸なことだ、あなたがユダヤ人であるのは!」という、失礼な言葉に対して、
 「人間であることはさらに大きな不幸です。」と、しみじみと答えるモーク。

 いったいなぜモークは、見返りをいっさい求めず、これほど人に尽くそうとするのか?
 彼にはどのような過去があるのか? こういう脇役が、物語を味わい深くしています。

 さて、この第七巻はさまざまな場面において、ロマン・ロランの思想が垣間見えます。
 次は、この巻のラストを飾る、クリストフの独白部です。思わず涙が出てきます。

 「私たちは死者も生者も皆一体である。私がどこへ行こうと、あなたたちはいつも私
 といっしょにいる。私を負ってくれたお母さん、私は今あなたを自分のうちに担って
 いる。それからあなたがた、ゴットフリート、シュルツ、ザビーネ、アントアネット、
 あなたがたも皆私のうちにいる。あなたたちは私の富である。私たちはいっしょに歩
 こう。私はもうあなたたちを離れまい。私はあなたたちの声となろう。」(P370)

 さいごに。(さよなら八重洲ブックストア)

 今さら気付きました。八重洲ブックストアが、1か月ほど前に閉店していたことに。
 あの店は、私にとって聖地でした。いや、本好きの人すべてにとっての聖地でした。

 1990年代には、新幹線でそこまで行って本を買う、ということをしていました。
 せめて、現在残っている地元の街の本屋さんを大事にしたい、と思います。
 (アマゾンで本を紹介していますが、できるだけ地元の本屋さんで買ってください)

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