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自由への道1 [20世紀フランス文学]

 「自由への道(一)」 J・P・サルトル作 海老坂武・澤田直訳 (岩波文庫)


 自由であることにこだわる哲学教師マチウを主人公とした、半自伝的長編小説です。
 第一部「分別ざかり」と第二部「猶予」は、大戦直後の1945年に刊行されました。

 のち、1949年に第三部「魂の中の死」が刊行され、未完のまま放置されました。
 サルトルの死後、第四部の一部「奇妙な友情」が、研究者によって刊行されました。

 本書は結局未完の大作です。岩波文庫では、六冊に分けて収録しています。
 今回はその一冊目です。第一部「分別ざかり」の前半部について紹介します。 


自由への道〈1〉 (岩波文庫)

自由への道〈1〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/06/16
  • メディア: 文庫



 マチウは34歳の高校の哲学教師で、何よりも自由であることに価値を置いています。
 ところがある日、恋人のマルセルから「妊娠した」と告げられて、愕然としました。

 というのもマチウは、子供を持つ気もなければ、結婚する気もないからです。
 そんなことをしたら、自分の自立性が失われてしまい、自由が失われてしまいます。

 手術をしてくれる医者を見つけたものの、中絶するには莫大な費用がかかります。
 金策に奔走しますが、親友のダニエルにも実兄のジャックにも断られてしまい・・・

 実兄のジャックは、マチウが抱えるさまざまな矛盾を、容赦なく指摘しています。
 家族を持ちたくないくせに家族を頼るし、自分のしでかした結果を引き受けないし。

 「おまえは、主義だらけで、たくさん主義を作り上げるが、それを守らない。理論
 の上では、おまえほど独立した存在はない。そりゃあ素晴らしい、あらゆる階層を
 見下ろして生きているんだから。ただし、もしおれがいなければ、どうなってしま
 うのかなと思うね。(中略)おまえは家族に唾を吐きながら、家族のつながりゆえ
 におれに無心する。」(P229)

 「生まれてこようとするこの子どもは、おまえが自主的に選んだ状況の論理的結果
 なのに、おまえは自分の行為の全結果を引き受けたくないからといって、処分する
 と言う。はっきり言おうか。おまえは今この瞬間に自分に嘘をついているわけでは
 ないかもしれないが、おまえの人生全体が嘘の上に成り立っている」(P238)

 「人生全体が嘘の上に成り立っている」(!)
 これはイタイ言葉でしょうが、マチウをよく理解しているからこそ言える言葉です。

 実際、マチウは中絶費用捻出のために奔走しながら、若い恋人と会っているのです。
 「このゲス野郎!」と言ってやりたくなりますよね。

 マチウは「自由」を標榜することで、責任から逃れようとしているように見えます。
 34歳にもなって、大人になりきれていない男です。ちょっと情けない主人公です。

 マチウがこんな人物だったためか、最初この小説の評判は芳しくなかったようです。
 しかし、自由を求めるがゆえに不自由になるという皮肉な展開は、実に面白いです。

 そうなのです。マチウは自由を求めることを義務だと考え、それに縛られています。
 もしかしたら、自由を捨て去ってしまったら、かえって自由になるかもしれません。

 同じことを考えたのが、マチウの親友ダニエルです。彼は、結婚しろと言います。
 「自らが欲するのと逆のことをするというのがおもしろいじゃないか」と。

 この小説は、ほとんどユーモア小説と言ってもいいのではないか、と思いました。
 ところどころに、クスっと笑える箇所があります。

 「ボリスは男色家があまり好きではない、いつでも彼らに追いかけられていたから
 だ、しかしイヴィックは彼らを評価し、こう言っていた。『あの人たちは少なくと
 も、みんなと同じにならないという勇気を持ってるわ』
  姉の意見にたいしては敬意をたっぷり抱いているので、ボリスはおかまを尊敬し
 ようと忠実な努力をした。」(P53)

 ところで、マチウの親友ダニエルは、男色家であることがほのめかされています。
 そしてなぜか、マチウの恋人マルセルと会っていて、この日も会うようなのです。

 ダニエルとマルセルは、どういう関係なのか?
 このあとの展開で、ダニエルが大きく絡んできそうです。とても気になります。

 さいごに。(大雨の日ナゴヤドームへ)

 先日の大雨の土曜日、新幹線は昼からの運行となり、乗り場は大混雑でした。
 妻はなんとか13時前の新幹線に乗れましたが、名古屋までずっと立ちっぱなし。

 ナゴヤドームに着いたのが15時半で、すでに6回に入っていたそうです。
 その後オリックスが得点して、ご満悦でしたが、ぐったりと疲れていました。

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