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失われた時を求めて3 [20世紀フランス文学]

 「失われた時を求めて2」 マルセル・プルースト作 吉川一義訳 (岩波文庫)


 記憶の中から失われた時を紡ぎ出して、人生の本質を考察する長大な小説です。
 20世紀を代表する作品であり、世界一長い小説としてギネスに登録されています。

 岩波文庫版の訳者は吉川(よしかわ)一義です。格調が高く読みやすい新訳です。
 今回は第一篇「スワン家のほうへ」から、第二部「スワンの恋」を紹介します。


失われた時を求めて(2)――スワン家のほうへII (岩波文庫)

失われた時を求めて(2)――スワン家のほうへII (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/05/18
  • メディア: 文庫



 「私」が生まれる前のこと、パリで暮らしていたスワンはオデットと出会いました。
 しかし当初は、オデットを美しく思いながらも、それほど魅力を感じませんでした。

 ところがある午後、オデットの部屋にお茶に誘われたとき、突然はっとしたのです。
 彼女が、システィーナ礼拝堂のフレスコ画のチッポラに、そっくりだったからです。

 ボッティチェリの描いた娘と重ねられ、オデットに対する見方が全く変わりました。
 オデットの美的価値は、美学による根拠によって、揺るぎないものとなったのです。

 ヴェルデュラン夫人のサロンに出たあと、スワンが彼女を送るようになりました。
 ところが、スワンがサロンに遅れて行ったある日、彼女はすでに帰ったあとでした。

 スワンは急に胸に痛みを感じ、はじめてオデットのありがたみが分かりました。
 そして、彼女が自分の部屋にいないのが分かると、スワンは動揺し始めたのです。

 「もはや自分が同じ人間ではないこと、自分がひとりではなく、新たな存在が自分
 とともにあり、自分に密着し、自分と一体化しているのを認めざるをえなかった。」
 (P109)

 スワンはまるで変ってしまい、夜の街を狂ったように、オデットを探し回りました。
 たまたま彼女に会うことができ、彼女をものにしてからは、もう夢中になりました。

 「十五世紀にまでさかのぼってシスティーナ礼拝堂の壁面に女のすがたをテンペラで
 描き終えてもなお、その女がピアノの前で接吻され抱かれるのを待っているのだと考
 えると、画の女が生身の生を備えているという想念にきわめて強い力で陶酔に誘われ
 る。」(P128) 

 スワンがオデットに夢中になればなるほど、オデットの態度はつれなくなりました。
 多くの男性と付き合ってきたオデットは、男を操るすべをよく知っていたのです。

 やがて、ふたりの関係は逆転し、オデットはスワンを手玉に取るようになりました。
 彼女に振り回されるスワンは、嫉妬によって悶々と過ごすことが多くなりました。

 オデットの御機嫌を取るために、多くのお金を貢いだり、高価な贈り物をしたり・・・
 それなのに、オデットにはなかなか会ってもらえず・・・

 恋した男がいかに愚かか。愛する女のためにいかに滑稽な振る舞いに出るか。
 恋した方が負け。「スワンの恋」がそれを教えてくれます。非常に興味深い章です。

 スワンは皇太子や大統領のお友達で、社交界で最も洗練された人士のひとりです。
 もちろん初心(うぶ)ではありません。むしろ、女好きで女たらしです。

 そのスワンが、くだらない女におろおろしている姿は、無様というよりもかわいい。
 一方、相手の弱みに付け込むオデットは、あまりにもずる賢すぎて、あっぱれです。

 それにしても、チッポラそっくりと思った瞬間、好きになってしまった点が面白い。
 オデットの頭の悪さも教養の無さも品の無さも、チッポラの前で雲散霧消してしまう。

 ちなみにレ・ローム大公夫人は、頭のいいスワンがあんなバカ女のために苦しむのは
 おかしいと言っていますが、その言に対するコメントがなかなかセンスありました。

 「コンマ菌のような微生物のせいでどうしてコレラにかかるのかと驚くようなもので
 ある。」(P344)とのこと。言い得て妙!

 ついでながら、オデットはコミック版の絵では、50歳ぐらいのおばさんに見えます。
 だから、彼女に夢中になる気持ちが全く理解できません。(本当は30歳ぐらいか)

 さて、着目したいのは、シャルリュス男爵がスワンの友達として登場することです。
 男爵は「コンブレ―」において、スワンの恋敵(こいがたき)として登場しました。

 しかし、コンブレ―での噂とは違い、男爵はオデットの浮気相手ではないのです。
 本当のところ男爵は、女に興味がないゆえ、オデットのお目付け役となっています。

 そして、シャルリュス男爵は、スワンのために一生懸命に尽くしています。
 本当にそれは友情だけからか? シャルリュス男爵への興味が急に高まりました。

 ところで、「スワンの恋」は、「私」が生まれる前の物語です。
 それなのに、どうして「私」はこれほど詳しく、まるで見てきたように語れるのか。

 それは、「私」の魂が体から抜け出て、時空をさまよっているからなのでしょう。
 「魂」が過去に戻り、「スワンの恋」を追体験しているのだと、改めて思いました。

 さいごに。(久々の花火大会)

 我が地元で有名な花火大会が、今年は6年ぶりに行われます。しかも、大々的に。
 東京ディズニーリゾートとコラボ(?)するため、県外からも人が押し寄せます。

 市内の高校生はほとんど出かけるようです。うちの娘も17時に出かけました。
 人出はどのくらいか? 花火はちゃんと見られるのか? いろいろ心配です。

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