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失われた時を求めて9 [20世紀フランス文学]

 「失われた時を求めて5」 マルセル・プルースト作 吉川一義訳 (岩波文庫)


 記憶の中から失われた時を紡ぎ出して、人生の本質を考察する長大な小説です。
 20世紀を代表する作品であり、世界一長い小説としてギネスに登録されています。

 第三篇「ゲルマントのほう」は、1920年から21年にかけて刊行されました。
 今回は、その第一部の前半を紹介します。舞台はパリと兵営ドン・シエールです。


失われた時を求めて(5)――ゲルマントのほうI (岩波文庫)

失われた時を求めて(5)――ゲルマントのほうI (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: 文庫



 パルベックから戻ったあと、語り手の「私」たち一家は、パリへ引っ越しました。
 ゲルマントの館にあるアパルトマンに入り、ゲルマント家との交流が始まりました。

 コンブレ―には二つの散歩道があり、その一方がゲルマントの館に続いていました。
 こうして「私」は思いがけなく、憧れの「ゲルマントのほう」へ歩き始めたのです。

 ラ・ベルマの「フェードル」の切符が手に入って、「私」はオペラ座に行きました。
 以前失望したラ・ベルマの演技に、賞賛の念を抱いたことを、不思議に思いました。

 「私」は考えます。かつてはその才能に期待し、それを見つけようとしていました。
 しかしその才能は役と一体に溶け合っていて、それを分けることはできないのだと。

 「(舞台での身振りは)当初の意図的痕跡をぬぐい去られ、一種の放射状の輝きのな
 かに溶けこんで、フェードルという登場人物のまわりに豊饒で複雑なさまざまな要素
 を脈打たせていたが、それに魅了された観客は、それを役者の成果とは思わず、ひと
 つの生命の発露と受けとるのだ。」(P109)

 遅れて来たゲルマント公爵夫人が、ゲルマント大公妃のベニョワール席に入りました。
 二人は従妹同士ですが、簡素を好む侯爵夫人と、派手な装いの大公妃は対照的でした。

 やがて、侯爵夫人は「私」の姿を見つけ、手を挙げて友情の合図を送ってくれました。
 「私」はゲルマント公爵夫人に感謝するとともに、彼女を慕うようになったのです。

 「私」は、毎朝ゲルマント公爵夫人の散歩コースにわざとらしく現れ、挨拶をし・・・
 「私」は、侯爵夫人に対する自分の気持ちを、サン・ルーから伝えてもらおうと・・・

 この巻では、ゲルマント公爵夫人への憧れが、いっきに高まる場面が読みどころです。
 そして「私」はストーカーまがいの行動をとって、侯爵夫人から迷惑がられるのです。

 このとき「私」は20歳ぐらいでしょう。侯爵夫人への思いは恋に対する恋のようです。
 侯爵夫人自身への思いというより、「ゲルマント」という名前に対する憧れが大きい。

 それは、自分がブルジョア階級であり、伝統ある大貴族ではないからでしょうか。
 「私」は自分の思いを伝えるため、サン・ルーのいるドンシエールを訪問さえし・・・

 サン・ルーに、侯爵夫人の写真をもらえないかと、遠回しに頼むところは面白いです。
 サン・ルーが拒んだのは、おそらく「私」のためにならないと感じたからでしょう。

 さて、第二篇「花咲く乙女たちのかげに」までは、コミック版が出ていました。
 コミック版を並行して読み進めることで、物語の世界がとてもよく頭に入りました。

 第三篇「ゲルマントのほう」からは、コミック版が出ていません。ではどうするか?
 私は、巻末にある「場面索引」を使うことをオススメします。これは実に便利です。

 邪道かもしれませんが、私は本文を読む前に「場面索引」にひととおり目を通します。
 そうすることで、あちこちに飛ぶ物語の筋が、格段にとらえやすくなるからです。

 さいごに。(インフルエンザ)

 先週は暑かったのに、急に寒くなりました。秋がなくて、いっきに冬が来ました。
 インフルエンザが流行り始めました。免疫が無くなっているので、注意したいです。

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