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チボー家の人々13 [20世紀フランス文学]

 「チボー家の人々13」 マルタン・デュ・ガール作 山内義雄訳 (白水Uブックス)


 3人の青年たちが成長してい10年を、世界情勢を交じえながら描いた大河小説です。
 今回紹介するのは白水Uブックスの第13巻で、第八部「エピローグⅡ」最終巻です。


チボー家の人々 13 エピローグ (白水Uブックス 50)

チボー家の人々 13 エピローグ (白水Uブックス 50)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1984/01/01
  • メディア: 新書



 アントワーヌは、メーゾン・ラフィット訪問のあと、フィリップ博士を訪ねました。
 帰りがけに、アントワーヌは博士の眼差しから、自分が助からないことを悟ります。

 1918年7月、アントワーヌは残り少ない命を思い、日記に考えをつづり始めました。
 国際連盟への期待、平和への願い、人生の意味、そしてジャン・ポールに残す言葉。

 「チボー家の血! ジャン・ポールの血! かつてのりっぱな自分の血、われら一家
 の血、それはいま、ジャン・ポールの血管の中を、えらいいきおいで駆けめぐってい
 る!」(P67)

 アントワーヌは、ポールの母ジェンニーに対して、どのような提案をしたのか?
 また、ジェンニーはその提案に対して、どのように答えたのか?・・・

 第一次大戦が一段落し、アントワーヌは医師としての最終手段を使って終わります。
 最後、チボー家の人々の血が、ジャン・ポールに受け継がれることが暗示されます。

 ところで、この巻で印象に残るのは、アントワーヌとフィリップ博士の語らいです。
 恩師である博士は、アントワーヌを診察しながら、含蓄ある言葉を投げかけます。

 「ぼくらは、これで人類もいよいよおとなの域に達して、これからは、知恵、節度、
 寛容の支配する時代に進んでいくものと信じていた・・・知識と理性とが、いよいよ
 人類社会の進歩を導くような時代になるものと信じていた・・・そういうぼくらが、
 後世史家の目から見て、人間について、また文明にたいする人間の能力について、甘
 い夢をきずいていたおめでたい人間、何も知らなかった人間としてしか映らないと誰
 に言えよう?」(P33)

 巻末の解説には、博士が「老賢人」の役割を持つと説明されていました。なるほど!
 この場面はエピローグの要だそうです。作者の言いたいことがここにありそうです。

 アントワーヌは、フィリップ博士の言葉に、大きな影響を受けています。
 彼の日記には、たとえば次のようなことも書かれています。

 「四年にわたる戦争。その結果は、殺しあい、山なす廃墟以外に何もなかった。いか
 にたくましい征服熱にとりつかれたものでも、戦争が、人間にとって、またすべての
 国々にとって、償うべからざる災禍である事実をいやでも認めずにはいられまい。」
 (P77)

 そして、未来のないアントワーヌの人生観は、しだいに諦観に傾いていきます。
 それはまた、永遠に続く宇宙の運命に参加している、という気持ちでもあります。

 「何百万何千万という人間がこの地殻の上に生みだされ、それがほんの一瞬蠢動した
 と見るまでに、やがて解体し、姿を消し、ほかの何百万何千万に取ってかわられる。
 しかも、そうやって取ってかわったものも、あすになれば解体する。そうしたつかの
 間の出現、それにはなんの〈意味〉もないのだ。人生には意味がない。」(P192)

 アントワーヌの日記は、死を目前にした者の思索の深まりを味わえる点で貴重です。
 しかし、最後にたどりついた境地がこれでは、あまりにも寂しすぎると思います。

 私としては、こんなふうに言ってほしかったです。
 「おれは死ぬけど滅びない。おれはジャン・ポールの中で永遠に生き続ける。」と。

 さて、これでようやく「チボー家の人々」全13巻が終わりました。
 長かったけど、プルーストに比べたら格段に読みやすかったです。

 さいごに。(失われた時を求めて)

 今年もあと1週間を切りました。「失われた時を求めて」の読破は絶望的です。
 プルーストは、来年2024年に持ち越すことにします。少しずつ読み進めます。

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