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木精(こだま) [日本の近代文学]

 「木精(こだま)―或る青年期と追想の物語―」 北杜夫 (新潮文庫)


 ドイツの研究所で学ぶ30歳の「ぼく」の、過去の追想と将来の希望を描いた物語です。
 初期の傑作「幽霊」の20年後に書かれた続編です。自伝的要素の強い小説です。
 「幽霊」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-01-26-2


木精―或る青年期と追想の物語―(新潮文庫)

木精―或る青年期と追想の物語―(新潮文庫)

  • 作者: 北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/06
  • メディア: Kindle版



 30歳の「ぼく」は、ドイツのチュービンゲンにある、神経研究所で学んでいます。
 実は日本を離れたのは、倫子(のりこ)という人妻と別れるためでもありました。

 それにも関わらず、あれから2年たった今も、倫子のことばかり思い出します。
 4年前の出会い、初めての関係、4歳の子、数々の逢瀬、口喧嘩、そして別れ・・・

 「ぼくらの恋は、背徳の、不倫の恋であることに間違いはなかった。そしてそのゆえ
 に、それはときにはほの暗く、ときには閃光のように燃え、一種ほろ苦い蜜の味を有
 していたのかもしれない。」(P124)

 日本の雑誌に送った作品が評価され、「ぼく」は小説家になる夢を持ち始めました。
 クレッチュマー教授に学び、ドクターまで取りながら、「ぼく」は迷っていました。

 とうとう「ぼく」は、3年間の留学を終えるころ、日本に帰る決心をしました。
 その前にスイスに旅行し、敬愛する作家トーマス・マンの墓のある教会に詣で・・・

 この場面がとても印象に残っています。おそらく北の体験とほぼ同じなのでしょう。
 北自身も、トーマス・マンの作品に、とても大きな影響を受けたのです。

 「静かに! このおびえたような鼓動は一体何なのだろう? 長いこと急坂を登って
 きたための動悸なのだろうか。いや、長年、ぼくの精神を少しずつ育んでくれた旋律
 が、この墓の周囲に漂っているのではなかろうか。
 『ぼくはやってきました、遠い国から』
  と、半ば無意識に、墓石に向かってささやいた。」(P139)

 北は、マンの「トニオ・クレーゲル」から、特に大きな影響を受けたのだそうです。
 そこで、ペンネームを「杜夫」(トニオ = 杜二夫 → 杜夫)にしたとも言います。

 そして、「トニオ・クレーゲル」は、この作品の随所に登場し、時に引用されます。
 人妻倫子との禁断の恋の始まりを思い出し、当時の心情を次のように書いています。

 「ぼくという人間は、トニオ・クレーゲル少年のごとく、ひそかな愛慕をよせたハン
 ス・ハンゼンやインゲボルク・ホルムからは決して好意を持たれることもなく、せい
 ぜい芸術家の女友達リザヴェーダ・イワノヴナなどと冷静な友情を結べるくらいが実
 情なのではあるまいか。」(P92)

 トニオも、ハンゼン少年に好意を寄せるという、ある意味禁断の恋を経験します。
 自分とトニオを重ね合わせ、すでにこの時点で、恋の終わりを予感しているのです。

 さて、この作品は北の青年期とトーマス・マンへの思いが分かる点で興味深いです。
 ただ、別れた女のことをいつまでもうじうじ書いている点は、引いてしまいました。

 たとえば、「ぼく」の書いた手紙を倫子がブラジャーの中へ入れておいたとか・・・
 ああ恥ずかし。いい年してそんなこと書いてるなよ、体がかゆくなってくるよ!

 ついでながら、私には倫子という女性が、あまり魅力的には思えなかったです。
 「ぼく」からの手紙を、夫に読まれてしまうなんて・・・ちょっとバカっぽいです。

 私には倫子がつまらない女に思えたので、主人公「ぼく」に共感できませんでした。
 倫子を追想する「木精」よりも、母を追想した「幽霊」の方が、はるかに良かった。

 ところで、トーマス・マンについては、2013年~14年にひととおり読んでいます。
 もちろん、「トニオ・クレーゲル」もすでに紹介しています。
 「トニオ・クレーガー」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-10-24

 ラストのクライマックスで、「ぼく」は「トニオ・クレーゲル」を手に旅をします。
 この場面が良いです。本当に北杜夫は、「トニオ・クレーゲル」が好きなんですね。

 さいごに。(奈良弾丸ツアー)

 昨年12月、娘が修学旅行で奈良に行きながら寺を見なかったので、私は怒りました。
 そこで、我が家では2月11日(日)に日帰りで、「追」の修学旅行を決行しました。

 午前に法隆寺を、午後に興福寺と東大寺を回りましたが、日程が超ハードでした。
 それでも娘は、教科書に載っている国宝を見ることができて、満足だったようです。

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