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真夜中の子供たち2 [20世紀イギリス文学]

 「真夜中の子供たち (上)」 サルマン・ラシュディ作 寺門泰彦訳 (岩波文庫)


 インド独立の夜中0時に生まれた子供たちを中心に、当時のインドを描いた小説です。
 1981年発表。全3巻。岩波文庫では上下二分冊。2020年に文庫化されたばかりです。


真夜中の子供たち(上) (岩波文庫)

真夜中の子供たち(上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/05/16
  • メディア: 文庫



 「私」ことサリーム・シナイは、9歳のころ、洗濯物入れを隠れ場所にしていました。
 あるとき母が誰かを呼ぶ声がしたので、洗濯物入れのふたの間から覗いてみると・・・

 幼いサリームは、いったい何を見たのか? 母と一緒にいたのは誰だったのか?
 このときサリームは、大人の持つ秘密の世界をかいま見たのでした。

 あるときサリームは、突然頭の中で、さまざまな声が語りかけてくるのを聞きました。
 しかし、そのことを両親に話して怒りを買ったので、自分だけの秘密としました。

 ところがしだいにサリームは、自分自身の能力に目覚めていきました。
 他の人々の思考を覗いたり、自分の思考を送ったり、人々の思考を導いたりしました。

 インド独立の日の0時~1時に生まれた子供には、特殊能力が備わっていたのです。
 サリームはその能力を使い、「真夜中の子供たち会議」を主催するようになって・・・

 いよいよ「真夜中の子供たち」の出番です。彼らの活躍はいかに? 
 一方で、輸血の必要に迫られたサリームは、出生の秘密が・・・

 読み進むうちに、ラムラム・セトの予言の意味が明らかになっていきます。
 ムムターズは妊娠中に、次のような言葉を聞いていました。

 「洗濯物がこの子を隠すでしょう・・・声がこの子を導くでしょう! 友だちが彼を
 不具にするでしょう・・・血が彼を裏切るでしょう!」(P193)

 さて、物語の本筋とは別に、相かわらずおかしなエピソードも語られています。
 傑作は、ナルリカル医師の死のいきさつを語った場面です。

 医師と父は、土地を埋め立てて一儲けしようと、海にテトラポットを置きました。
 乞食女たちがやってきて、その上方に突起した部分を男根像に見立て恭しく拝み・・・

 現在、ようやく上巻を読み終わりました。
 今後下巻を読み始めますが、仕事は忙しく、なかなか読書時間が取れません。

 さいごに。(コメダでは喫煙席へ)

 私はタバコを吸いませんが、コメダコーヒーでは必ず喫煙席を指定します。
 というのも、禁煙席に比べて圧倒的にすいていて、大人ばかりで静かだからです。

 しかも、店内は電子タバコに限られているので、匂いはほとんど気になりません。
 第一、今時タバコを吸う人なんてほとんどいません。読書には喫煙席こそ快適です。

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真夜中の子供たち1 [20世紀イギリス文学]

 「真夜中の子供たち (上)」 サルマン・ラシュディ作 寺門泰彦訳 (岩波文庫)


 インド独立の夜中0時に生まれた子供たちを中心に、当時のインドを描いた小説です。
 1981年発表。マジックリアリズムの手法を駆使した、インド版「百年の孤独」です。


真夜中の子供たち(上) (岩波文庫)

真夜中の子供たち(上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/05/16
  • メディア: 文庫



 主人公は、1947年8月15日深夜0時に生まれた、イスラム教徒のサリーム・シナイ。
 そしてサリームは、パドマという女性のもとで、自分の人生を綴っているようです。

 「私はさまざまな人間の生涯を呑み込んできた。だから私を、私ひとりの生涯を知り
 たければ、同時に多数の人の生涯を呑み込まなければならない。」(P13)

 話はサリームの祖父で、ドイツ帰りの有望な若者アーダム・アジズから始まります。
 トレードマークは大きな鼻。老船頭タイに、「一家を興す鼻だ」と予言されました。

 そして実際、地主ガーニの娘ナシームを診察したことから、彼の運は開け始めます。
 最初ナシームを見ることは許されず、穴あきシーツから患部だけを見せられました。

 診察を重ねるうちに、彼は穴あきシーツの向こうにいるナシームに恋し始めました。
 やがてガーニの信頼を得て、3年後には彼女と結婚し、多くの持参金を得ました。

 ところが、シーツから現れたナシームは恐ろしい女で、修道院長とあだ名され・・・
 アリア、ムムターズ、エメラルドら3人娘は、世間からまばゆい光と呼ばれて・・・

 いつまでたってもサリームは誕生しません。それどころか両親さえも分かりません。
 主人公サリーム・シナイは、祖父アーダム・アジズと、どのようにつながるのか?

 まるで迷路を歩いているようです。どこにたどり着くのかなかなか見えてきません。
 ようやくアフマド・シナイが登場して、彼とアリアに注目していると・・・

 物語は一転二転し、第1巻の最後には大きなどんでん返しがありました。
 「なんじゃ!」と叫びそうになります。物語をアーダムから始めた意味があるのか?

 さて、この小説は荒唐無稽なことを、まるで見てきたことのように描いています。
 マジックリアリズムの手法です。そこを、面白がる人もいれば、戸惑う人もいます。

 私はラテンアメリカ文学を読んで少しは慣れていたので、抵抗はありませんでした。
 しかし次のような話を、面白いと思うか、アホかと思うかは、微妙なところです。

 イアン・アブドゥラーのハミングは魅力的なので、聞く人は皆勃起するのでした。
 彼が襲われたときハミングの音が高くなったので、暗殺者たちはみな勃起しました。

 その高音は町じゅうの6420匹の犬たちに届き、犬たちはまっしぐらに集まりました。
 暗殺者たちは彼を殺したあと、全員犬たちに食い殺されたのです・・・

 信じがたいことが語られていますが、作者の身に起こったことはさらに信じがたい。
 それは、イスラムを揶揄したとされる、1988年刊の「悪魔の詩」にまつわる話です。

 ラシュディは、当時イラン最高指導者ホメイニーによって死刑宣告を受けたのです。
 1989年、ホメイニーが亡くなったため、死刑宣告は永久に撤回できなくなりました。

 1991年、「悪魔の詩」の日本語訳をした五十嵐一が、筑波大学で暗殺されました。
 明らかにイスラムの殺し方でしたが、犯人は捕まらず、2006年に時効となりました。

 ラシュディ自身も、イスラム教徒によって何度も暗殺されそうになっていました。
 そして刊行から34年後の今年2022年にも襲われ、片目と片手が不自由になりました。

 事実は小説より奇なり、です。現在「悪魔の詩」は読むことさえ危険な状況です。
 ラシュディを読むなら、文庫で出ている本書、「真夜中の子供たち」に限ります。

 現在、全3巻中、第1巻を読み終わったところです。時間はないのに先はまだ長い。
 ところで、ラムラム・セトによる次の予言は、どういう意味を持つのでしょうか。

 「この子は息子を持つことなく息子を持つでしょう! この子は年老いる前に年老い
 るでしょう! そしてこの子は死人となる前に死ぬでしょう・・・」(P193)

 さいごに。(仕事で東寺を訪れる)

 東寺と言ったら、なんといっても講堂の仏像立体曼荼羅。久々に見て感動しました。
 仏像ブーム再来! 見に行く暇はないので、仏像関係の雑誌を見て満足しています。

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京都仏像めぐり (たびカル)

京都仏像めぐり (たびカル)

  • 出版社/メーカー: ジェイティビィパブリッシング
  • 発売日: 2009/07/01
  • メディア: 単行本



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オシリスの眼 [20世紀イギリス文学]

 「オシリスの眼」 R・オースティン・フリーマン作 渕上痩平訳 (ちくま文庫)


 失踪したエジプト学者と、その遺言を巡る相続問題を解決に導く、探偵推理小説です。
 ホームズ最大のライバルと言われた、ソーンダイク博士シリーズです。1911年刊行。


オシリスの眼 (ちくま文庫)

オシリスの眼 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: 文庫



 高名なエジプト学者のベリンガムが、あるとき忽然と姿を消してしまいました。
 ベリンガムはその直前に、いとこで株式仲買人のハーストを訪ねたようなのです。

 また、ベリンガムが常に身につけていたスカラベが、弟の家の庭に落ちていました。
 しかし、そこでベリンガムの姿を見た者は無く、彼の行方も生死も分かりません。

 2年後、ベリンガムが死んだと思われていた頃、バラバラ死体が発見されたのです。
 それは失踪したベリンガムの死体か? だとしたら、誰が彼を殺したのか?

 奇妙な遺言、相続争い、出てこない遺体、出てきたバラバラ死体・・・
 法医学者ソーンダイクが解明した、事件の真相は?

 100年以上前に出た本書は、「物の隠し方トリック」の古典的名作とされています。
 確かに、あっと驚くような、意外なトリックでした! 私はうなりました。

 このあと、似たようなトリックがいくつも生まれます。
 しかし、本書のトリックの上を行くものがあるでしょうか?

 さて、私は最初、語り手とヒロインの大英博物館での場面を、不要だと思いました。
 しかし、ちゃんと結末につながっているとは! 実によく練られています。

 「オシリスの眼」というタイトルも秀逸です。
 作者フリーマンの代表作とされますが、非常に完成度の高い作品だと思いました。

 探偵役のソーンダイクは法医学者で、鑑識技術を駆使して論理的に結論を導きます。
 犯罪捜査に最新の科学技術を取り入れたところに、本シリーズの特徴があります。

 私はこの作品を、書店でたまたま見つけて興味を持ちました。読んで良かったです。
 オースティン・フリーマンの作品は、同じちくま文庫の「キャッツアイ」があります。


キャッツ・アイ (ちくま文庫)

キャッツ・アイ (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/01/10
  • メディア: 文庫



 さいごに。(娘のがんばり)

 テスト期間なので夜中まで勉強して、風呂に入ると、洗濯物を干し終わるのが1時。
 翌日は5時半に起きて、私と一緒に朝食の準備。娘はヤング・ケアラー状態でした。

 妻が入院中は、本当によくがんばったと思います。
 この2週間ほどで、だいぶ成長したのではないかと思っています。

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パタゴニア2 [20世紀イギリス文学]

 「パタゴニア」 ブルース・チャトウィン作 芹沢真理子訳 (河出文庫)


 最果ての地パタゴニアを旅したチャトウィンが、97章で綴った文学的紀行文です。
 池澤夏樹の世界文学全集(河出書房)に収録されたあと、河出文庫に入りました。


パタゴニア (河出文庫)

パタゴニア (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/09/05
  • メディア: 文庫



 チャトウィンは途中、南米の天才パラシオス神父を、サレジオ会大学に訪ねました。
 この神父は、時々神がかりっぽくなって、天を仰いで「おお主よ」と語り始めます。

 そして伝説の一角獣が、紀元前5000年か6000年にパタゴニアにいたと話すのです。
 「ラゴポサダスに行けば、一角獣の絵がふたつ見られるだろう」と。

 乗せてもらったトラックがパンクして、大変な目に遭いながら目的地に着きました。
 そこで見た一角獣は、チャトウィンにはどうしても雄牛に見えるのでした。(笑)

 ある牧場で会った男は、某教授の発掘した古代文字の碑文について熱心に話します。
 「火星人がペルーに着陸して、インカ族に文明をもたらしたんだ。」(P153)と。

 ある安ホテルで会った季節労働者は、ブルへリアという魔法使いについて話します。
 彼らは「インブンチェ」という化け物を作り上げ・・・それは洞窟の守護者で・・・

 しかし、なんと言っても面白かったのは、16世紀の帆船ディザイア号の冒険です。
 流れ着いた島で、2万羽のペンギンを殴り殺し、塩漬けにして船倉に積みました。

 ところが赤道まで来たとき、ペンギンの体から1インチほどの奇怪な虫が湧き・・・
 虫は増殖し、人も食い殺され、船底も食い破られて・・・ペンギンの復讐なのか?

 マゼランの巨人発見の物語も面白かったです。彼らは海辺で巨人に出会いました。
 巨人たちは空を指さし、「おまえたちは天から降りてきたのか」と聞きました。

 一方マゼランは、彼らの履いているモカシンを見て、「パタゴン!」と言いました。
 「でかい足!」という意味で、「パタゴニア」という地名の由来になったそうです。

 しかし実際には、マゼランが読んでいた騎士物語に出て来る怪物の名前から・・・
 彼は巨人を連れ帰るため、その足首に「装飾」だと偽り、鉄の足かせをはめて・・・

 さて、先月の残業時間は結局102時間に及びました。(もちろんサービス残業です)
 本を読む時間がなかなか取れません。本書はあと100ページ以上残しています。

 「パタゴニア」は1つの章が短いので、隙間時間に読むのに最適です。
 遅々として進みませんが、案外これが本書の正しい読み方ではないかと思っています。 

 この本を読んでいるわずかな時間、私自身もチャトウィンの旅の供をしています。
 わずかな時間に気持ちを集中するので、場面場面がとても印象に残ります。

 追記。10月6日、今日ようやく読み終わりました。
 終盤は、「ブロントサウルス」の皮をもたらしたチャーリーの物語が良かったです。

 また、ラストでとうとうミロドン発見の洞窟に至ります。
 それにしても、ここまで本当に、長かった!

 さいごに。(町内の運動会に出ました)

 3年ぶりの開催となりました。今回もリレーのアンカーを走りました。
 ビリでもらってビリのままゴール。見せ場は無し。55歳の私にはもうキツイ。

 ということで、引退宣言をしました。来年は「お若い方、お願いします」と。
 終了後、お昼寝をしてしまったので、この日も本が読めませんでした。(笑)

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007 カジノ・ロワイヤル [20世紀イギリス文学]

 「007 カジノ・ロワイヤル」イアン・フレミング作 白石朗訳(創元推理文庫)


 ソ連の大物スパイを、ギャンブルで破滅させる作戦を描いた、人気スパイ小説です。
 007シリーズ第一作です。2006年にダニエル・クレイグ主演で映画化されました。


007/カジノ・ロワイヤル (創元推理文庫)

007/カジノ・ロワイヤル (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/08/22
  • メディア: 文庫



 英国秘密情報部員で、殺しのライセンスを持つ男、ジェームズ・ボンド。
 今回の任務は、ソビエト連邦の大物スパイを、ギャンブルで破滅させることです。

 ボンドは、協力者であるフランス参謀本部局員マティスと、ホテルで合流しました。
 そこでボンドは、すでに何者かが周辺を嗅ぎまわっていることを知らされました。

 いったいどこで情報が漏れたのか? ボンドには思い当るふしがありません。
 今回の相棒である美女ヴェスパーとも一緒になり、いよいよ勝負に乗り込みます。

 ル・シッフルは、高額テーブルの胴元となっています。
 最初は良かったものの、しだいに運が離れ、そして最後の勝負にも負けて・・・

 手に汗を握る展開です。バカラを知らなくても、充分に熱気が伝わってきます。
 タイトルから言っても、作者はこの場面を描きたかったのだな、と思いました。

 「幸運は主人ではなく召使だ。幸運は肩をすくめて受けいれるか、とことん利用する
 ものだ。」(P69)・・・そういうものなのか?

 カジノの次は拷問シーンです。どんな拷問か、原作ではよく分からなかったです。
 動画で出ていた映画版を見ましたが・・・これは絶対、やめてほしい!

 彼はいかにして窮地を脱するのか? しかし、肩透かしを食らいました。
 ここが唯一の残念な場面です。どんな窮境も自分の力で切り開いてほしかったです。

 さて、この小説は、すべて終わったと思ったあと、まだ80ページも続きます。
 そして、この80ページがある意味重要で、物語の種明かしにもなっています。

 ボンドが言った次の言葉は、とても印象に残りました。
 彼はなんと、「007を辞める」と言うのです。

 「ル・シッフルは、わたしがやっているのはしょせん”子供じみた鬼ごっこ”だといっ
 たんだよ。それで・・・突然その言葉のとおりではないかと思えてきたんだ。」(P206)

 しかし、逆にこの物語で彼は、ホンモノのスパイへと成長していくのです。
 ボンドがやめなかったおかげで、007シリーズは映画ともども皆から愛され続けます。

 ちなみに、映画版「カジノ・ロワイヤル」も、とても評判が良いようです。
 時間があったら、見てみたいです。



 さいごに。(妻が入院)

 妻は少し前から、視界が狭まったと感じていたと言います。検査結果は、網膜剥離。
 昨日の朝、急遽入院し、その日のうちに手術をしました。とても心配です。

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パタゴニア [20世紀イギリス文学]

 「パタゴニア」 ブルース・チャトウィン作 芹沢真理子訳 (河出文庫)


 最果ての地パタゴニアを旅したチャトウィンが、97章で綴った文学的紀行文です。
 著者の第一作です。池澤夏樹編集の世界文学全集(河出書房)に収録されました。


パタゴニア (河出文庫)

パタゴニア (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/09/05
  • メディア: 文庫



 チャトウィンの祖母の家には、ブロントサウルスの皮の切れ端がありました。
 彼は子供のころ、この恐竜が生息していたというパタゴニアに憧れを抱きました。

 1974年12月、30代半ばで新聞記者を辞めて、いよいよパタゴニアに出発します。
 最果ての地、険しい山々、美しい湖水、切り立つ氷壁、息をのむほどの絶景・・・

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 ところが、風景についての描写よりも、人物についての記述の方が圧倒的に多い。
 インディオ、皇太子、ピアニスト、詩人、牧夫、空想的冒険家、ギャング・・・

 前半でもっとも印象に残ったのは、なんといってもオレリー=アントワーヌです。
 弁護士を辞め、家族の共同預金を引き出し、パタゴニア王となるべく出発した男!

 彼は通訳と2人の大臣を連れて、インディオのアラウカノ族のもとを訪れました。
 すると、族長が死ぬ前に「白い異人がやってくる」と予言していたおかげで・・・

 妄想を実現させてしまう飛びぬけた実行力! ひとつ間違えばただの狂人ですよ。
 事実は小説より奇なり、と言いますが、まさにその通りです。

 また、時々ちょこっと出てくるだけの人物も、なかなか魅力的です。
 私のお気に入りは、トレベリンの中心人物で、61歳のミルトン・エバンズです。

 娘がビールを持ってくると、エバンズは自慢の英語でこう言って飲み干します。
 「はっはー! 馬のしょんべんだ!」

 さて、例の皮の切れ端は恐竜のではなく、ミロドンという巨大なナマケモノでした。
 しかし、パタゴニアの魅力は少しも薄れません。そこに住む素敵な人々のおかげで。

 ところでチャトウィンは、今年7月に岩波ホールが閉館したとき、注目されました。
 最終作品が、「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」であったためです。



 チャトウィンと一緒に旅をしているような、そんな気分になる映画だそうです。
 ややマニアックな作品だと思いますが、予告を見たら映画も見たくなりました。

 さいごに。(土砂崩れ)

 昨日の台風が直撃し、うちに続く道のひとつが、土砂崩れで不通になりました。
 16年住んでいて初めてです。珍しいので、娘と一緒に見に行きました。

 現地では、ほかにも多くの人に会いました。土砂崩れの見学会みたいでした。
 復旧には時間がかかりそうです。幸い二本の道があるので、出勤はできます。

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わたしたちが孤児だったころ [20世紀イギリス文学]

 「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ作 入江真佐子訳(ハヤカワ文庫)


 探偵として成功した「わたし」が、かつて上海の租界で失踪した両親を探す物語です。
 日本生まれのイギリス人で、ノーベル賞作家イシグロの、第5作の長編小説です。


わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/03/01
  • メディア: 文庫



 「わたし」ことクリストファー・バンクスは、子供のころ上海の租界で育ちました。
 しかし、両親が反アヘンの運動に関わったためか、二人とも行方不明となりました。

 伯母を頼ってロンドンに渡ったクリストファーは、探偵としての地位を築きました。
 ロンドンで、いなくなった両親の居場所の目途をつけ、いよいよ上海にわたり・・・

 両親はどこに行ったのか? まだ生きているのか? 誰による犯行だったのか?
 フィリップ叔父さんは、なぜクリストファーを置き去りにしたのか?

 ハードボイルドっぽい雰囲気で、スリリングな展開をするとても魅力的な作品です。
 特に、上海での展開が目まぐるしくて、読み始めたら、本を置くことができません。

 この作品は、上海の租界と幸せだった子供時代に対する、喪失感を描いています。
 昔の上海も子供時代も遠いところに行ってしまい、もう戻らないという喪失感を。

 上海については、子供時代にヒーローだったクン警部の言葉が象徴しています。
 落ちぶれたクン警部の言葉に、作者が最も伝えたかったことがあるように思います。

 「この街に負けました。誰もが友人を裏切ります。誰かを信じても、結局そいつは
 ギャングの手下だったってことがわかるのですよ。政府もギャングと同じです。こ
 んなところで職務を果たす刑事って何なんでしょう?」(P343)

 クン警部のおかげで、両親の幽閉場所の目星がついて、単身つき進むが・・・
 最後にイエロー・スネークが語った真実は、まったく意外で・・・

 父はどうなったのか? 母はどうなったのか? フィリップ叔父さんは?
 そして、クリストファーに与えられた遺産は、誰によるものだったのか?

 「わたしには子供時代がとても外国の地のようには思えないのですよ。いろんな意
 味で、わたしはずっとそこで生きつづけてきたのです。今になってようやく、わた
 しはそこから旅立とうとしているのです」(P467)

 両親と子供時代を取り戻そうとした彼は、その代償に、残酷な真実を知りました。
 真実をしっかり見据えて、ようやく子供時代の呪縛から解放されたと思います。

 さて、この物語の終盤で、突然アキラが登場した点が、やや不自然だと感じました。
 彼は自分の役割を果たすとあっけなく退場します。ここに御都合主義を感じました。

 とはいえ、「読ませる」作品です。
 これまでに読んだカズオ・イシグロの作品の中で、最も面白かったです。

 さいごに。(すでに過労死ライン)

 10月に大きなイベントを控えています。その責任者が私なので、連日大忙しです。
 ここ10日ほど本を1ページも読めず、ブログもまったく書けませんでした。

 まだ中旬というのに残業時間は50時間超え。今月の残業もおそらく100時間超え。
 こんな状況なので、しばらく更新できていませんでした。

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恐怖 [20世紀イギリス文学]

 「恐怖」 アーサー・マッケン作 平井呈一訳 (創元推理文庫)


 ある田舎町で次々と起こる殺人事件と、住民たちの恐怖について描いた物語です。
 「パンの大神」「白魔」に並ぶ、作者の代表作のひとつです。


恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 文庫



 第一次世界大戦のころ、ある田舎町で、次々と不気味な殺人事件が起こりました。
 岩礁で、石切り場で、沼地で、ボートで、それぞれ様々な死に方をしていました。

 狂人のしわざか? それとも、ドイツ人スパイのしわざか? 
 恐怖に包まれた街に、ドイツ軍がすでに地下に潜んでいるという噂も流れました。

 各所に監視員が置かれました。しかし、奇妙な殺人事件は後を絶たず・・・
 人里離れた一軒家では、多くの死者を出して・・・残された手記には・・・

 「いまわれわれは恐怖時代を生きています」 しかし恐怖は、どこから来るのか?
 何者のしわざなのか、まったくわからないまま、話はじわじわと進んで行きます。

 しかも、残された手記を読んでみても、犯人が誰なのかさっぱり分からないのです。
 読んでいて私は、最後まで解決されないのではないかと、心配になりました。

 「しかしね、人間、どうにも解決できんことにぶつかったら、それはそのまま未解決
 のままでおいておけばいいのさ。謎がどうしても解けんと、人間は、なあに謎なんか
 どこにもないんだというふりをする。」(P567)

 そして、ルイス医師が最後に達した結論は・・・
 やや突飛でオカルト的な解答に、戸惑う読者もいるかと思います。

 さて、「生活の欠片」は、新婚夫婦に、オカルト的世界が忍び寄るさまを描きます。
 オカルト的世界がよく分からず、もやもやしたまま進行するところが不気味でした。

 新婚のエドワードとメアリのもとに、メアリの叔母から小切手が送られてきました。
 ふたりはその使い道をあれこれと考え、いろいろ話しながら幸せな時間を過ごします。

 ところがその叔母がメアリに、「65歳の夫が浮気をしている」と相談しに来たのです。
 叔母は、「叔父と散歩をしていると、夫を呼ぶ口笛が何度か聞こえた」と言うのです。

 口笛が聞こえた後、叔母がこっそり見てみると、叔父は少年と何か話していて・・・
 叔父が言うには、自分はフリーメーソンの幹部で、少年はその密使であり・・・

 自分の夫が浮気をしていると言う叔母、その叔母を狂っていると考えている夫婦。
 突然訪れた叔父もまた、叔母が狂っていると言いますが、どこかちぐはぐな感じです。

 結局、叔母が正しかったのか、叔父が正しかったのか、分からないまま終わります。
 このあと、この夫婦がどうなっていくのか、とても気になりました。

 ところで、この物語中のエドワードがひとりで遠出をする話は、私のお気に入りです。
 彼が語るのは、まさに「男のロマン」。妻はそれを、楽しそうに聞いてくれています!

 「ところがその朝は、そういうどこにでもあるものが、まるで自分がお伽ばなしの魔
 法の眼鏡をかけて、お伽ばなしのなかの人物にでもなったように、なにか新しい光の
 なかで、ぼくの目にあざやかに浮き出して見えてね、ぼくはその新しい光のなかをテ
 クテク歩いて行ったわけだ。」(P363)

 本筋とはあまり関係のない部分ですが、読んでいてとても楽しかったです。
 うちのおくさまに同じことを言ったら、「だから、なに?」と言われそうなので。

 さいごに。(信じられるのは生稲議員だけ)

 旧統一教会関連団体への祝電や訪問について、「知らなかった」と言う議員が多い。
 しかし、私には信じられません。そんなに「アホ」な人たちだとは思えないので。

 唯一信じられるのは、「関連団体とは知らずに訪れた」と言っている生稲議員のみ。
 そうでしょうとも、そうでしょうとも。それはありそうな話です。私は疑いませんよ。

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パンの大神 [20世紀イギリス文学]

 「パンの大神」 アーサー・マッケン作 平井呈一訳 (創元推理文庫)


 パンの神を見た女性から生まれた美しい娘が、数々の男を破滅させる物語です。
 中編怪奇小説で、作者の代表作とされます。クトゥルフ神話に影響を与えました。


恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 文庫



 「この森羅万象、これはきみ、みんな一場の夢にすぎないんだぜ。影にすぎないんだ
 ぜ。ーーつまりだな、われわれの目から真実の世界をおおい隠している、一抹の影に
 すぎんのだよ」(P18)

 脳外科医のレイモンドは、少女メリーの脳髄に手術を施し、精神を目覚めさせました。
 すると彼女は、「パンの大神」なるものを見て、ショックで痴呆状態となりました。

 月日が経ち、ちまたでは数々の上流階級の男たちが、謎の自殺を遂げていました。
 彼らはいずれも、何かとても恐ろしいものを見たショックで、死んだようなのです。

 彼らを自殺に追い込んだのは何か? 彼らはいったい何を見たのか?
 ある青年がいろいろと探っているうちに、謎の女に行きあたって・・・

 「人間は遠いむかし、ものの核心にある恐ろしい秘密の力の知識を、うまくヴェールで
 隠していたんだね。その秘密の力の前に出ると、人間の霊魂はちょうど電流に触れると
 からだじゅうまっ黒焦げになるように、まっ黒にひからびて死んだものなんだ。」(P87)

 人間には、見てはいけない世界があるのですね。
 ちなみにパンは、ギリシア神話に出て来る牧神パンのことで、女好きで有名な神です。

 「内奥の光」は、作者の分身ダイスンが登場し、探偵小説的な味付けがされています。
 医師ブラックの妻が不可解な死に方をしたので、死体検証をしてみると・・・

 「悪魔の脳髄ですよ。あれは悪魔の脳髄です。」
 いったい夫人に何があったのか? そのことにブラック医師はどう関わっているのか?

 「輝く金字塔」にもダイスンが登場し、ちょっとした推理めいたことをします。
 ただし、読み終わったあともよく分からない部分があって、私はもやもやしました。

 穴居人たちはどこから湧き出したのか? 時空を超えてやってきたのか?
 穴居人たちはそこで何の儀式をしていたのか? そしてどこへ去ったのか?

 「赤い手」もまた、ダイスン登場作品で、推理小説っぽい物語です。
 ダイスンとフィリップスが、ある夜一人の男の死体に遭遇するところから始まります。

 男は一万年前の石斧で殺されていて、近くの塀には赤い手の絵が描かれていました。
 しかもそのとき男が持っていた手紙は、暗号のような意味不明の文面で・・・

 この作品も、読み終わったあと、もやもやが残りました。
 「持主」というのは誰か? 埋葬された原始人か? それとも今を生きる穴居人か?

 「白魔(びゃくま)」は、アーサー・マッケンの怪奇短編小説を代表する作品です。
 この作品には、幼い少女と「白い人」という魔物との交流が描かれています。

 「『悪』というものは、本来は孤立したものなんだ。『悪』とは孤独の欲情であり、
 個人的な熱情だ」と、「悪」についての独特の見解が示されていて面白いです。

 「白い人」とは何だったのか? それを知っていた乳母は、いったい何者なのか?
 女精アランナとは何者なのか? 少女の身に何があったのか?

 さて、アーサー・マッケンの代表作を、長編の「夢の丘」だという人は多いです。
 しかし私は、怪奇小説であるこちらの短編集のほうを、絶対にオススメします。

 さいごに。(選挙をやり直してほしい)

 7月10日の参院選では、比例で自民党に入れてしまいました。支持政党なので。
 あの時は、自民と旧統一教会との関りが、これほど深いとは思っていませんでした。

 知っていれば、自民には入れなかった! だまされた感がハンパ無いです。 
 それなのに、しばらくは選挙がないという。ああ・・・

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ハリー・ポッターと賢者の石2 [20世紀イギリス文学]

 「ハリー・ポッターと賢者の石」J・K・ローリング作 松岡佑子訳(静山社文庫)


 魔法学校に通うハリーと仲間たちの冒険を描いた、ファンタジー小説の傑作です。
 無名作家が1997年に発表して大ヒット。映画もすばらしい。文庫版は二分冊です。


ハリー・ポッターと賢者の石1-2 <新装版> (ハリー・ポッター文庫)

ハリー・ポッターと賢者の石1-2 <新装版> (ハリー・ポッター文庫)

  • 出版社/メーカー: 静山社
  • 発売日: 2022/03/17
  • メディア: 文庫



 「賢者の石」とは、飲めば不老不死となる「命の水」の源となっていると言います。
 4階の廊下の巨大な三頭犬は、どうやら「賢者の石」を守っているらしいのです。

 またハリーは、スネイプがクィレルを脅している場面に遭遇し、疑いを持ちました。
 スネイプがそれを狙っているのではないか? ヴォルデモートに与えるため?
 
 夜間外出の罰として、ハリーたちは夜の森で、ハグリッドの手伝いをしました。
 そこでハリーはユニコーンの血をすする何者かを目撃し、襲われそうになりました。

 ユニコーンの血は命を長らえさせると言います。あれはヴォルデモートだったのか?
 それ以来、ハリーの額の傷がズキズキと痛み始めました。これは、警告なのか?

 しかし、校長のダンブルドアがいる限り、ヴォルデモートは何もできないはずです。
 ところがダンブルドアが、緊急呼び出しによって、魔法省に行ってしまいました。

 ヴォルデモートが狙うのは今夜。ハリーたちは決心して・・・
 ハリーが見たのは、スネイプでもなく、ヴォルデモートでもなく・・・

 後半は進めば進むほど、物語の世界にのめり込みます。
 特に最後の四分の一ほどは、手に汗を握る展開。本を離せません。

 この作品は、ファンタジー小説として、たいへんよくできています。超一流です。
 と同時に、青春小説・教養小説としても、非常に秀逸だと思います。

 ハリーはホグワーツで初めて心から信頼できる友を得て、仲間の大切さを知ります。
 彼らはまた、先生や森番などさまざまな人間と関わりながら成長していきます。

 たとえば、マルフォイに「付き合う友達は選ぶべきだ」と言われたときのハリー。
 「友達なら自分で選べる」と、きっぱりと言って、マルフォイの握手を断りました。

 トロールが現れた時には、規則を破って、ハーマイオニーを救出に向かいました。
 一方、模範生のハーマイオニーが、ハリーとロンをかばって、嘘をつきました。

 ラスト近く(1-2 P210)、ハーマイオニーがハリーに言った言葉は、印象的でした。
 「頭がいいなんてなによ! もっと大切なものがあるのよ・・・友情とか勇気とか」

 そして、校長のダンブルドアはしばしば、とても核心的なことを言います。 
 たとえば終盤の次の言葉は、作者が一番伝えたかったメッセージではないか。

 「それほどまでに深く愛を注いだということが、たとえ愛したその人がいなくなって
 も、永久に愛されたものを守る力になるのじゃ。」(1-2 P231)

 さて、映画版を久々に見ました。嬉しいことに原作をほとんど変えていません。
 上記のような細かなエピソードも、ちゃんと盛り込まれていました。

 続く「ハリー・ポッターと秘密の部屋」も読みたくなりました。
 しかし、全7巻を制覇するのは、少ししんどいです。映画で見ようか・・・

 さいごに。(USJに行きたい)

 USJなぞ、これまで全く興味がありませんでした。
 しかし、ハリー・ポッター・エリアがあると聞いて、急に興味を持ちました。

 特に「百味ビーンズ」(1800円)が気になっています。おみやげに買いたい!
 「ゲロ味」や「耳くそ味」が、本当に入っているのでしょうか?

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