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アレフ [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「アレフ」 J・L・ボルヘス作 鼓直訳 (岩波文庫)


 1949年に出た幻想的で象徴的な短編集で、「伝奇集」と並ぶボルヘスの代表作です。
 私は岩波文庫版の鼓直訳で読みました。平凡社ライブラリーの木村榮一訳もあります。


アレフ (岩波文庫)

アレフ (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: 文庫



エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2005/09/09
  • メディア: 文庫



 冒頭の「不死の人」は、「この世界に不死が存在するか」を問いかけた作品です。
 「ラテンアメリカ十大小説」(以下「十大小説」)にも、紹介されていた名作です。

 ローマの軍団の司令官ルーフスが、不死の川と不死の都を探して出発しました。
 不死の都にたどり着き、黒く濁った水を飲んだとき、彼は不死の人となりました。

 その後ルーフスは、さまざまな場所において、さまざまな人間として生きました。
 そして1921年、あの懐かしい場所で、澄んだ水を飲んだとき、再び変化が・・・

 この作品を、さらに印象的にしているのは、随所に現れるイミシンな言葉です。
 次のような文章を、深遠と思うか、人を煙に巻くと思うかは、微妙なところです。

 「何者も何者かではなく、一個の不死の人間はすべての人間である。」

 「わたしはホメーロスであった。間もなく、オデュッセウスのように〈何者でもな
 いもの〉になるだろう。間もなく、すべての者になるだろう。すなわち、死者とな
 るだろう。」

 「十大小説」ではこれを、輪廻思想として読み解いています。
 無限の時間を、様々な人間に生まれ変わるなら、その人はすべての人間となるのだ!

 「タデオ・イシドロ・クルスの生涯」は、人の宿命を考えさせられる物語です。
 自分が何者であるかは、わずかな一瞬の中で、永遠に知ることになるという・・・

 「神の書跡」もまた、ボルヘス・ファンからの評価が高い作品です。
 「私」は地下牢に幽閉された神官で、「神の書跡」を読み取ろうと考えています。

 それは悪を祓う呪文の文字で、どこにどのように書かれているのか分かりません。
 ところが不意に、隣の檻の中のジャガーの模様に、文字を見出したように思い・・・

 「神の言語では、すべての単語があの事実の無限の連鎖を表すはずだ」
 「神というものは、ただ一語を発し、その一語のうちに一切を言い尽くすのだ」

 そして、私が見たものは・・・
 相変わらずボルヘスは、途方もないことを考えています。

 タイトル作であり、ラストを飾る「アレフ」は、この短編集を代表する傑作です。
 アレフとは、点のすべてを含む空間の一点という、不思議な球体のことです。

 「私」の知り合いの詩人が、屋敷を取り壊すことになって、嘆き悲しんでいました。
 なぜなら、地下室の片隅に、アレフが存在するのだから、と。アレフとは、何か?

 「あらゆる角度から見た、地球のあらゆる場所が、混じり合うことなく、存在してい
 る場所だよ。」(・・・はあ?)

 「私」は、彼が狂人であることを確信しつつも、彼の屋敷の地下室へに入りました。
 そして、「私」がそこで見た、光り輝く小さな球体は・・・

 この短編は「十大小説」でも紹介されていて、象徴的意味が少し解説されています。
 アレフとは、中世の「薔薇物語」に出て来る、泉の中の水晶のことなのでしょうか?

 ほか、「エンマ・ツンツ」「ドイツ鎮魂曲」「二人の王と二つの迷宮」「アベンハカ
 ン・エル・ボハリー、おのが迷宮に死す。・・・」なども、面白かったです。

 短編集「アレフ」の17編の中には、「神学者たち」のような難解な作品もあります。
 ボルヘスの他の作品では、「幻獣事典」や「怪奇譚集」などは読みやすいようです。


幻獣辞典 (河出文庫)

幻獣辞典 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 文庫



ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 文庫



 さいごに。(毎日出勤)

 世間では休業要請が出ていますが、我が社は店を閉めた上で、全員が働いています。
 コロナに振り回されて、仕事が煩雑になって、やることはいくらでもあるためです。

 といっても、毎日の残業時間は1時間程度と、以前に比べて半減しました。
 また、土日のサービス残業がゼロになったのは、コロナによる皮肉な成果でした。

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