SSブログ

マクティーグ [19世紀アメリカ文学]

 「死の谷(マクティーグ)」 ノリス作 石田英二・井上宗次訳 (岩波文庫) 


 巨漢で鈍重な歯科医マクティーグの、結婚生活とその後の悲劇を描いた物語です。
 岩波文庫版は2020年2月に復刊されたばかり。初訳は1957年ですが分かりやすい。


死の谷 上 (岩波文庫 赤 316-1)

死の谷 上 (岩波文庫 赤 316-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/06
  • メディア: 文庫



死の谷 下―マクティーグ (岩波文庫 赤 316-2)

死の谷 下―マクティーグ (岩波文庫 赤 316-2)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/06
  • メディア: 文庫



 愚鈍で従順で巨体で怪力のマクティーグは、無免許で歯科医を営んでいました。
 彼には、たった一人だけ友だちがいました。同じアパートに住むマーカスです。

 あるときマクティーグのところへ、マーカスが恋人のトリナを連れて来ました。
 マクティーグは、治療を通じてトリナに惹かれ、友情と恋の板挟みになりました。

 マクティーグの悩みを知ったマーカスは、男気を起こしてトリナを譲りました。
 男同士の友情は、最高潮に達しました。しかし、トリナが富くじに当たると・・・

 さて。幸運に見えることが、あとから振り返ると、不幸の始まりだったりします。
 宝くじの当選によって、人生の歯車が狂い出すことは、世間でもよくあります。

 最高の友だちが最大の敵になったり、最愛の妻が憎たらしい相手になったり・・・
 そういう人間関係の変化が面白くて、前半からぐいぐい引き込まれました。

 下巻に入ってからは、物語の展開がさらに面白くなり、まったく目が離せません。
 訳は1957年と古いのに読みやすくて、私は物語にのめり込んでしまいました。

 そして、「死の谷」での衝撃のラスト。二人の友は、いかにして破滅したか?
 まったく、この二人ときたら! 悲しいと言うより、滑稽でした。

 ところで、マクティーグの不幸の原因は、体に流れる血の中にもあったようです。
 悲劇はすでに宿命として刻印されていたもので、彼の罪ではないのかもしれません。

 「彼の内部におけるあらゆる善きものの美しい生地の下に、代々伝わる悪の忌まわ
 しい流れが下水のように走っていたのだ。」(上巻P41)

 そういえば、マクティーグが変になったのは、ウィスキーを飲んでからでした。
 ならば、物語の最初に、彼の父について次のように書かれていることは重要です。

 「二週間に一度の日曜日ごとに、彼は酒で気が狂ったようになり、無責任な動物、
 獣、畜生になった。」(P11)

 この物語には、ほかにも魅力的なわき役たちがいて、味わいを深くしています。
 中でも、マリアとザーコフの「金の皿」をめぐる悲劇は、とても印象的でした。

 さいごに。(コロナが懐かしかったりして)

 予想はしていましたが、6月の残業時間は、余裕で過労死レベルでした。
 コロナの頃が懐かしい、在宅勤務が懐かしい、と言ったら、怒られるでしょうけど。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。