世界文学の流れをざっくりとつかむ３０

　≪第七章≫　近代小説の誕生


　１　イギリス近代小説の誕生

　イギリスは、1642年に清教徒革命、1688年に名誉革命と、１７世紀に二度の市民革命を経験した結果、市民階級の勢力がいち早く拡大されました。特に名誉革命後にウィリアム３世が即位して、議会政治が確立すると、市民が積極的に政治に参加するようになりました。当時コーヒーハウスが紳士の社交場として流行していて、さまざまな議論を戦わせていましたが、そういう場からジャーナリズムが誕生しました。1694年には出版の自由化が実現し、1702年には最初の日刊新聞が発行され、ジャーナリズムは瞬く間に発展しました。これは、議会政治が実現したイギリス特有の現象で、大陸では専制君主が支配的であったため、言論の自由が認められず新聞は発展しませんでした。

　1700年の初頭には、「タトラー」「スペクテイター」など文学的な内容を持つ新聞が続々と発刊されました。ジャーナリストの中には、これらの新聞に自作の文学作品を載せる者も出てきました。その作品の多くは、市民階級に好まれる現実的な物語でした。近代小説は、このようにジャーナリズムの発展にともなって誕生しました。その先陣を切った作家が、デフォーとスウィフトの２人です。

　ダニエル・デフォーは、有名な政治パンフレット作者でした。ジャーナリズム的な作家で、1704年には週刊誌「レヴュー」を発行しました。政界で重用されたり、政争に巻き込まれて逮捕されたりと、波乱に満ちた生涯を送りながらも作家活動を続けました。デフォーが「ロビンソン漂流記」を出版して大成功を収めたのは、1719年で59歳のときです。これは、無人島に漂着したロビンソンが独力で生き抜いていく物語で、市民階級のたくましさに満ちています。その姿が写実的に描かれているため、この作品は近代小説の始まりと言われています。

　ジョナサン・スウィフトもまた、政治パンフレット作者であり、風刺作家でもありました。1704年に「桶物語」で教会制度を鋭く批判しました。政治活動の末に失望してアイルランドに戻り、「ロビンソン漂流記」の影響を受けて「ガリバー旅行記」を書き始め、1726年に出版しました。小人の国に漂着し、さまざまな事件に巻き込まれるというおなじみの物語です。空想的な内容のため現代では児童文学としても扱われることもありますが、基本的には風刺文学の傑作であり、政治学の入門書とされています。

　さて、デフォーの「ロビンソン漂流記」、スウィフトの「ガリバー旅行記」と、二作の空想的な旅行記が出たあと、人間の心理を克明に描いた近代的小説が始まります。その代表的作家が、リチャードソンとフィールディングの２人です。

　サミュエル・リチャードソンは、ロンドンの印刷業徒弟から大印刷業者になった人物です。恋文の代筆を行った経験から、模範書簡集を出しましたが、これが書簡体小説のアイディアとなりました。1740年に発表された「パミラ、あるいは淑徳の報い」は、主人に誘惑される若くて美しい召使の心理を、手紙と日記で描いた書簡体小説です。1747年には、「パミラ」と同趣向の書簡体小説「クラリッサ」を発表しています。

　ヘンリー・フィールディングは、伯爵家出身の劇作家です。1737年演劇検閲法により、小説家に転身し、のちにイギリス小説の父と呼ばれるまでになりました。1742年に「ジョーゼフ・アンドルーズ道中記」を出版し、広く読まれました。この作品は「パミラ」のパロディで、主人公の純粋で美しいジョセフは、パミラの弟という設定です。1749年には、「トム・ジョウンズ」を出版しました。捨て子で純真な若者トムの、恋と冒険の物語です。18世紀イギリス小説の最高傑作です。

　18世紀イギリス文学には、もうひとり忘れてはいけない作家がいます。ロレンス・スターンです。平凡な田舎牧師で、宗教を批判したパンフレットなどを書いていました。ところが、1760年に「紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見」を自費出版しました。無秩序で型破りな語りによって、物語は脱線に継ぐ脱線ですが、のちに意識の流れを先取りした作品として高く評価されました。

　さいごに。（顎を数針縫う）

　うちは丘の上にあります。昨日の朝、久しぶりに路面が凍りました。
　自転車通学の子たちは、坂を下るところで、みんな申し合わせたように転びました。

　しかし一番ひどかったのはうちの娘。学校から電話が来て、妻が迎えに行きました。
　そのまま外科に行って、顎を数針縫いました。ああ、どんくさい！