SSブログ

鹿の王1 [日本の現代文学]

 「鹿の王1~2」 上橋菜穂子 (角川文庫)


 謎の病から生き延びて放浪する男と、謎の病の治療法を求める男を描いた物語です。
 2014年刊行のファンタジー小説です。翌2015年に本屋大賞の第1位となりました。


鹿の王 1 (角川文庫)

鹿の王 1 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫



鹿の王 2 (角川文庫)

鹿の王 2 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫



 ヴァンは、ピュイカ(飛鹿)に乗る軍団独角(どっかく)の頭で、物語の主人公です。
 強大な東乎瑠(つおる)帝国と戦って敗れ、岩塩鉱で奴隷として労働していました。

 あるとき岩塩鉱がオッサム(山犬)に襲われ、全員が咬まれて謎の病で死にました。
 なぜかヴァンは生き延びて、つながれていた鎖を怪力で断ち切り、脱出を試みます。

 岩塩鉱の建物で食べ物を漁っていると、泣き声が聞こえ、女の幼子を見つけました。
 女児を背負って逃亡したヴァンは、自分の感覚が鋭くなっていることに気づきます。

 交易都市カザンに向かう途中、トマという青年に出会い彼の故郷オキを頼りました。
 ピュイカの扱いに慣れたヴァンは、トマの家族に歓迎され、ひと冬を過ごし・・・

 ホッサルは、東乎瑠帝国に仕えるオタワル人の医術師で、もうひとりの主人公です。
 岩塩鉱を全滅させた謎の病を調査するため、マコウカンを従えてやってきました。

 彼は死体を観察して、この病がミッツァル(黒狼熱)ではないかと考えました。
 それは、約250年前に大流行し、古オタワル王国を滅亡に追い込んだ伝説の病です。

 また彼は、ひとつの壊された足枷を見て、生き延びた者がいることを知りました。
 もし生き延びた者がいるのなら、ミッツァルの特効薬作りのヒントになります。

 ホッサルは、「跡追い」の女人サエに、逃亡奴隷ヴァンの行方を探らせました。
 サエはわずかな痕跡をたどりオキに向かいますが、途中多くの山犬に襲われ・・・

 読みだしたら止まりません。さすが、本屋大賞になった作品です。
 物語世界がとても緻密に構築されているため、その中にどっぷりと入り込めます。

 たとえば、舞台となっているアカファ地方は、現在東乎瑠帝国領となっています。
 しかし、以前はアカファ王国の地であり、今もゆるやかな自治が許されています。

 以前アカファ王国は、繫栄していた古オタワル王国の一地方にすぎませんでした。
 オタワル王国でミッツァルが流行したとき、アカファは被害を受けませんでした。

 そこで、オタワル王国最後の王が、アカファの首都に遷都し王権を譲ったのです。
 しかし、オタワル人はオタワル聖領にいて、その後のアカファを支え続けました。

 そして、オタワル人は今も、アカファにおいて大きな影響力を持ち続けて・・・
 という具合です。物語の背景だけ見ていても、とてもわくわくしてきます。

 それだけでなく、アカファや東乎瑠の文化についても実に詳細に描かれています。
 食については、目で見えるようです。作者は文化人類学者だそうで、さすがです。

 私としては特に、ヴァンが獣に咬まれたあとに見た夢が、とても気になります。
 それは、腕の傷口から木の根が生え、枝分かれして全身を満たすというものです。

 ヴァンは、おそらくその時点で生まれ変わりました。理由はまだ分かりません。
 しかし、人間離れした怪力や鋭い直感は、その日を境に発揮され始めたのです。

 そして第2巻では、ヴァンは山犬と同調し、彼らの光る命の糸が見えたりします。
 そのことを、謎の老人谺主(こだまぬし)は「裏返し」と呼びます。それは何か?

 さて、ヴァンはなぜ生き残ったのか? ホッサルはヴァンを見つけ出せるのか?
 ミッツァルはなぜ再び現れたのか? ミッツァルの特効薬はできるのか?

 気にかかる点は多いのですが、私にはオタワル人の生き方が興味深かったです。
 「他者を生かし幸せにすることで、自分も生き幸せになる」という価値観が。

 「食われるのであれば、巧く食われればよい。食われた物が、食った者の身体と
 なるのだから」(1巻P287)

 さいごに。(「クソ野郎」訴訟に思う)https://news.yahoo.co.jp/articles/d5e1a03060af420f78b515f1a2581f65a80e9f4d

 クソ野郎訴訟の大石晃子(れいわ新選組)が、まさか高裁で完全勝利するとは!
 クソには色んな意味があるとはいえ、クソ野郎はとてもひどい侮蔑表現ですよ。

 たとえば「大石晃子のクソ野郎」(良い意味)という表現は、許されるでしょうか?
 私は絶対ダメだと思います。言葉が乱れると国も乱れます。嘆かわしいことです。

 以前、れいわの山本太郎が、国会で首相を「増税クソメガネ」と言い放ちました。
 れいわの「クソ」好きは分かりますが、もっと品のある言葉選びをしてほしいです。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。