SSブログ

鹿の王2 [日本の現代文学]

 「鹿の王3~4」 上橋菜穂子 (角川文庫)


 謎の病から生き延びて放浪する男と、謎の病の治療法を求める男を描いた物語です。
 2014年刊行のファンタジー小説で本屋大賞。角川文庫全4巻中3~4巻の紹介です。


鹿の王 3 (角川文庫)

鹿の王 3 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫



鹿の王 4 (角川文庫)

鹿の王 4 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫



 何者かにさらわれたユナを探し求めて、ヴァンは火馬の民のもとにやって来ました。
 それを陰ながら助けたのが、谺主の洞窟で知り合った、跡追いの女人サエでした。

 ヴァンは、火馬の民の族長オーファンから、「キンマの犬」について聞きました。
 それは、ミッツァル(黒狼熱)という病、侵略者を滅ぼす力を与えられた獣です。

 東乎瑠(つおる)人の持ち込んだ麦は、現地の麦と混ざったとたん毒を持ちました。
 その毒麦を食べても死ななかった火馬がいて、その火馬の肉を食べた山犬がいます。

 その山犬たちは毒麦でも黒狼熱でも死にませんでした。それが「キンマの犬」です。
 「キンマの犬」に噛まれても現地人は死にませんが、侵略者たちはすぐ死ぬのです。

 火馬の民はミッツァルに、キンマの神の摂理とその意志を見て、こう考えました。
 キンマの犬とミッツァルがあれば、戦わずして故郷を取り戻せるのではないか、と。

 「侵略者の毒に汚されても生き延びよ! さすれば、おまえたちは、以前より強くな
 る! そう、キンマの神は我らに教えてくださったのだ。―—ユタカの大地を侵した
 者だけを殺す毒を犬の牙に与えて」(P60)

 その夜ヴァンの夢の中に、「犬の王」と名のる初老の男が現れました。
 彼は普段は病んだ年寄りですが、我が身を脱いでキンマの犬を操ることができます。

 犬の王はヴァンに、火馬の民の希望を託しますが、ヴァンにはそれができません。
 やがてサエとともにユナを探して旅する中で、ヴァンはホッサルと出会いました。

 ところが、火馬の民の企みの背後には、意外な人物の予想を超える企みがあり・・・
 という具合で、「鹿の王」は後半も読み出したらなかなか本が置けません。

 しかし、もっとも印象的だったのはヴァンの生き様です。特にあの感動的なラスト!
 あのような決断を下せるのは、ヴァンだけでしょう。彼こそ本物の「鹿の王」です。

 「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿が
 現れるのです。長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、危難に逸早く気づき、我が身
 を賭して群れをたすける鹿が。」(第4巻P19)

 さて、本書「鹿の王」は本屋大賞だけでなく、日本医療小説大賞も受賞しています。
 ミッツァルという架空の病を扱いながらも、随所で命や病の本質を考察しています。

 「身体も国も、ひとかたまりの何かであるような気がするが、実はそうではないの
 だろう。雑多な小さな命が寄り集まり、それぞれの命を生きながら、いつしか混然
 一体となって、ひとつの大きな命をつないでいるだけなのだ。そういう大きな――
 多分、この世のはじまりのときに神々がその指で紡ぎ出した――理の中に、我々は
 生まれ、そして、消えていく。」(第4巻P191)

 「〈・・・病は〉この上なく魅力的なのだ。恐ろしいが、たまらなく心惹かれる。
 この世の裏側に隠れている――闇の底に隠れている――生き物の真実が、病という
 現象の中に、鬼火のようにチラチラと光って見えるからだ。」(第4巻P282)

 さいごに。(「鹿の王 ユナと約束の旅」)

 アニメ映画「鹿の王 ユナと約束の旅」は、2022年にアニメ映画になりました。
 この濃密な内容をわずか2時間足らずで表現した点に、巷では賛否両論でした。

 私の読書仲間は口をそろえて、原作を読んでから見た方がいいと言っていました。
 そうしないと理解に苦しむのだそうです。では、私も見てみようか。



nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。