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ジェルミナール3 [19世紀フランス文学]

 「ジェルミナール(下)」 エミール・ゾラ作 安士正夫訳 (岩波文庫)


 炭坑労働者の悲惨な生活と、彼らのストライキをリアルに描き出した長編小説です。
 1885年刊行です。岩波文庫から三分冊で出ています。今回はその下巻を紹介します。


ジェルミナール 下 (岩波文庫 赤 544-9)

ジェルミナール 下 (岩波文庫 赤 544-9)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/03/19
  • メディア: 文庫



 恐るべき事件の後、町は不気味に静まり、エティエンヌは炭坑の地下に潜みました。
 ストライキは続き、人々は飢えによる苦しみにあえぎ、餓死する者も出てきました。

 そのような状況の中、ル・ヴォルー坑ではベルギー人たちを雇って入坑させました。
 怒る坑夫たちは400人の暴徒となって、炭坑を守る兵隊たちと激しく衝突しました。

 兵隊は一斉に射撃し、多くの犠牲者が出ました。マユは心臓を撃たれて死にました。
 暴徒たちの行動は鎮圧され、坑夫を率いたエティエンヌは一転してなじられました。

 会社は再開され、エティエンヌは誓いを破り、カトリーヌとともに入坑しました。
 ところがその前日、ルヴァクが裏切り者を制裁するため、炭坑に細工をしたのです。

 激震があり、炭坑が崩れ落ちて、20人ほどの人々がその中に閉じ込められました。
 その中には、エティエンヌとカトリーヌと、彼女の情夫のシャヴァルがいました。

 岩を打って助けを求めると、カトリーヌの兄が音を聞きつけ、助けに向かい・・・
 閉じ込められた因縁の3人。彼らに何が起こるか? 彼らは無事に救助されるか?

 終盤にきて恐ろしい展開がありますが、この部分こそゾラの描写の白眉だそうです。
 本書は、炭坑での労働の悲惨さを容赦なく描いているため、高く評価されています。

 さて、意外だったのは結末部です。エティエンヌはひとりパリへ旅立ちます。
 私はこの小説を、救いのない物語だと思いましたが、最後に希望を持たせています。

 「鉱山の底の辛い体験によって自分が成熟し、力強くなったことを感じた。彼の教育
 は完了した。そして彼が見たままに欠陥を見出したままに、社会に対して戦いを宣し
 て、革命の兵士たる理論家としていよいよ出陣したのである。」(P208)

 「人々は芽生えていた。真黒な、復讐に燃えた軍団は畔の中でおもむろに萌え、来る
 べき世紀の収穫となるために成長していて、その発芽は間もなく大地をはじけさせよ
 うとしていた。」(P212)

 ここでようやくタイトル「ジェルミナール」(芽月)の意味が分かりました。
 しかし彼には、パリになんか行かずに、カトリーヌと幸せになってほしかったです。

 正直に言って、このあとエティエンヌが、パリで幸せになるようには思われません。
 炭坑に閉じ込められたとき彼は、恋敵であるシャヴァルを〇〇しています。

 ここに、エティエンヌの隠れた本性が垣間見えているような気がしてなりません。
 この先彼は、孤独で冷酷で利己的な革命家に、育っていくのではないでしょうか。

 余談ですが、「ジェルミナール」はフランス文学史上に残る大傑作として有名です。
 それなのに、岩波文庫版は活字は小さく漢字は旧字体です。しかも、現在絶版です。

 「居酒屋」と「ナナ」は、新潮文庫からオシャレなカバーで出ているというのに・・・
 新潮文庫で新訳を出してくれるといいのですが。もっと読まれてもいい作品ですよ。

 そういえば、エティエンヌにはクロードという名の兄がいて、画家になっています。
 クロードを主人公にした作品が1886年刊の「制作」で、岩波文庫から出ていました。

 印象派の画家たちを描いた小説で、私は印象派が好きなので注目していました。
 最近まで書店で見かけていましたが、現在は絶版です。復刊されたら読みたいです。


制作 (上) (岩波文庫)

制作 (上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/09/16
  • メディア: 文庫



制作 (下) (岩波文庫)

制作 (下) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/09/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(来年度の人事)

 3年間のプロジェクトが終了し、某課長のおかげで、ある程度の成果を出せました。
 そのため、プロジェクトの主任だった私が、某課長のポジションを引き継ぐことに!

 これで、4月からはさらに忙しくなります。やれやれ。
 しかし、56歳の老いぼれに仕事を与えてくれたことは、ありがたいことなのかも。

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