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あと少し、もう少し [日本の現代文学]

 「あと少し、もう少し」 瀬尾まいこ (新潮文庫)


 寄せ集めの中学生6人が、駅伝で県大会を目指す姿を描いた、青春小説の傑作です。
 2012年刊行の陸上小説。私はこの作品こそが、瀬尾の代表作だと思っています。


あと少し、もう少し (新潮文庫)

あと少し、もう少し (新潮文庫)

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/28
  • メディア: 文庫



 市野中学校は小規模校ながら、毎年中学駅伝で県大会に出場している強豪校です。
 ところが、名顧問の満田先生が転勤して、素人の女子教員上原が顧問となりました。

 陸上部で長距離を走れるのは、桝井と設楽(したら)と俊(しゅん)の3人です。
 中学駅伝は、18キロを3キロずつ6人でタスキをつなぐので、あと3人必要です。

 部長の桝井(ますい)は苦労して人を集め、ようやくメンバー6人を揃えました。
 実に個性的な6人が、それぞれの思いを抱きながら、同じ目標に向かって走ります。

 1区は設楽です。桝井に次ぐ実力を持っていますが、以前はいじめられっ子でした。
 ところが不良の大田から意外なことを聞きます。設楽は大田にどう思われていたか?

 2区は大田です。勉強を放棄し、髪を染めてタバコを吸う、乱暴な不良少年です。
 大田が荒れたのはなぜか? また、今駅伝で心を燃え立たせているのはなぜか?

 3区はジローです。生徒会書記で、バスケ部部長。明るく誰とでも仲良くなれます。
 唯一苦手なのが、4区を走る渡部です。しかし、その渡辺にどう思われていたか?

 4区は渡部です。吹奏楽部で走るのは速いけど、理屈っぽいので敬遠されています。
 渡部が、周囲と距離をおいているのはなぜか? 必死で守ろうとしているのは何か?

 5区は唯一の2年生の俊介です。敬愛する桝井から走りを学んで、今が伸び盛りです。
 しかし、切ない秘密を持っていました。それは何か? それに気づいた人はいるか?

 6区は桝井です。陸上部の部長として、誰よりもチームのために尽くしてきました。
 ところがスランプが続いています。桝井に何があったのか? それに気づいた人は?

 6人は時にぶつかりますが、「走りたい」という気持ちのもとでまとまっていきます。
 その姿がさわやかで美しく、感動的なので、私は何度も涙が出そうになりました。

 さて、走るのは6人ですが、チームにはもうひとりとても大切なメンバーがいます。
 それが監督の上原です。上原の章はありませんが、彼女は陰の主人公だと思います。

 もちろん主人公は桝井でしょう。その桝井を大きく成長させたのが素人の上原です。
 名監督の満田のもとでは学べなかったことを、桝井は上原のもとで学んでいます。

 桝井にとって、何のアドバイスもできない上原は、イライラさせられる存在でした。
 ストップウォッチも扱えず、大会ではおろおろし、威厳のかけらもない監督・・・

 「だけど、大田はこっそりタバコをやめている。今の設楽の走る理由は、きっと義務
 感だけじゃない。あれだけかたくなだった渡部がメンバーになった。ジローはいつだ
 って変わらず楽しそうで、俊介は二年で唯一のメンバーなのに変な気負いはない。そ
 こは上原がいたからだというのもある。」(P322)

 桝井はそのように回想していますが、おそらく自分でも分かっているはずです。
 苦労はしたけど、上原のおかげで一番多く学び成長したのは、自分自身であると。

 「走れなくてもいい。私が、ううん、私たちが望んでいるのはそんなことじゃないか
 ら。でも、6区を走るのは桝井君だよ」(P355)・・・上原だからこそ言えた言葉です。

 陸上や走ることが好きな人はもちろん、すべての中高生に読んでほしい作品です。
 読後、たっぷりと余韻に浸っているうちに、自分も走りたくなってきます。

 ところで、タイトルの「あと少し、もう少し」は、あと少しがんばるという意味のほか、
 あと少しもう少しこのメンバーで走りたい、という意味を持っています。

 さいごに。(豚バラばかり)

 先日、家族で「さとしゃぶ」を食べました。奮発して「国産牛コース」にしました。
 しかし、私は豚バラが好きなので、豚バラばかり食べました、ああ、もったいなかった!

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