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ジェルミナール1 [19世紀フランス文学]

 「ジェルミナール(上)」 エミール・ゾラ作 安士正夫訳 (岩波文庫)


 炭鉱労働者の悲惨な生活と、彼らのストライキをリアルに描き出した長編小説です。
 1885年刊行。主人公エティエンヌは、「居酒屋」の主人公ジェルヴェーズの子です。

 岩波文庫から三分冊で出ていました。ゾラの大傑作ですが、現在上と中は絶版です。
 私は2016年の復刊で買いましたが、活字が小さく、漢字は旧字体で読みにくいです。


ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)

ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/02/28
  • メディア: ペーパーバック



 ある町に一文無しの青年が流れてきました。名前はエティエンヌ・ランティエです。
 勤めていた鉄道会社で上司を殴って追い出され、仕事がないかと炭抗を見ています。

 「窪みの底に押しこめられているこの炭坑は、彼に、人間どもを喰らうためにそこに
 うずくまっている貪欲な動物の邪悪な姿をしているように思われた。」(P11)

 たまたまひとりの運搬婦が亡くなったので、エティエンヌは運よく雇われました。
 しかし、仕事はきつく、賃金は安く、労働環境は悲惨で、上役の態度は理不尽です。

 それでもエティエンヌはまじめに働き、やがて周囲に認められるようになりました。
 彼は、炭坑夫のために予備基金を新設して、組合を作り、その書記となりました。

 何年か経てばお金がたまって、ストライキをしても、生活に困らなくなるはずです。
 しかし、エティエンヌの社会主義的思想は、会社から警戒されるようになりました。

 恐慌で痛手を受けた会社は、費用を切り詰めるために、ある企みを持っていました。
 それは、予備基金が少ない今のうちに、あえてストライキをさせるというものです。

 会社は、炭坑夫の賃金を減らすため支払いの方法を変え、容赦なく罰金をとり・・・
 彼らを追い詰めストライキをさせて、屈服させたあと賃金を減らしてやろうと・・・

 搾取される炭坑夫をこれでもかと描くことで、資本家の汚さや卑劣さが際立ちます。
 その象徴が炭坑です。それは700人の人間昆虫を飲み込んでしまう巨大な腸です。

 まさに、炭坑が人間を食い物にしているということを、強烈にイメージさせます。
 上記P11の引用も非常に秀逸だと思います。ゾラの文章をじっくり味わえる箇所です。

 さて、エティエンヌ・ランティエは、「居酒屋」の主人公ジェルヴェーズの子です。
 彼女が、最初の夫ランティエのもとで産んだ、2人の息子のうちのひとりなのです。

 「彼女(=ジェルヴェーズ)は彼(=エティエンヌ)の父親(=ランティエ)から捨
 てられ、他の男と一緒になった後に又も彼の父親につかまり、自分を食い物にしてい
 る二人の男に挟まれて暮し、彼等と共に泥溝の中、酒の中、汚物の中を転げまわって
 いたのである。」(P60)

 懐かしい! 「居酒屋」を読んだのは、今から14年も前のことでした。
 それにしても、あのひどい環境にいたエティエンヌが、まっとうに育っているとは!
 「居酒屋」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-02-03

 ところで、私はタイトル「ジェルミナール」を、登場人物の名だと思っていました。
 途中、いつになったら「ジェルミナール」が登場するのかと、やきもきしました。

 ところが、「ジェルミナール」はフランス革命月の「芽月」を指すのだそうですね。
 そして、彼らの活動が、社会変革の「芽」となる、という意味を含むのだそうです。

 さて、現在上巻が終わったばかりです。このあとが気になります。
 エティエンヌらはストライキを強行しそうですが、いったいどうなるのでしょうか。

 さいごに。(安本丹)

 岩波文庫の「ジェルミナール」は読みにくいので、読む速度は時速40ページです。
 特に旧字体が難しい。対を「對」、体を「體」、図を「圖」、台を「臺」・・・

 しかし、もっとも首をひねったのが、「安本丹」です。いったいなんと読むのか?
 答えは、おそらく「あんぽんたん」です。最近使わなくなった言葉ですね。

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