SSブログ

密林の語り部 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「密林の語り部」 バルガス=リョサ作 西村英一郎訳 (岩波文庫)


 アマゾンの密林に入り込み、先住民の語り部となった、ユダヤ人青年の物語です。
 1987年に出ました。80年代の作者の代表作です。実験的な手法で描かれています。


密林の語り部 (岩波文庫)

密林の語り部 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/10/15
  • メディア: 文庫



 「私」は、フィレンツェのある画廊で、アマゾンの密林の写真展を見ました。
 マチゲンガ族の輪の中心にいる、ひとりの語り部の姿を見て、戦慄が走りました。

 写っていたのは、大学時代の親友、ユダヤ人のサウル・スラータスではないのか?
 彼は、未開の先住民文化に深く傾倒し、あるとき忽然と姿を消していたが・・・

 さて、この小説も、最初はなかなか手強かったです。
 第1章と第2章は良かったのですが、第3章に入ると訳が分からなくなりました。

 「その後、地上の人々は、太陽が落ちていくほうへまっすぐ歩きはじめた。昔は、
 人々もじっとしていた。天の眼である太陽は動かなかった。眠ることもなく、いつ
 も眼を開けて、私たちを見つめ、世界を眺めていた。」(P53)

 いったい、何の話が始まっちゃったんだ? しかし、もう私は慌てません。
 「訳者あとがき」を、さっさと読んでしまえばいいのです。

 構成は全8章。第1章と第8章に挟まれた6章は、対位法的に配されていると言う。
 そして、3・5・7の奇数章は、語り部が話している神話や伝説なのだそうです。

 なるほど。だから、なんだかよく分からないのか。
 語り部の話はあちこちに飛ぶし、でたらめなカタカナ語がやたら出てくるし・・・

 分からなくていいのだと、割り切ってからは、安心して読み進められました。
 しかし、この語り部の話こそが、この作品の命なのです。できれば、分かりたい。

 「悪戯者のカマガリーニがおちんちんを刺してからというもの、どのように、どうし
 て起こるか分からないが、タスリンチは、突然、思いついたことをせずにはいられな
 い。〈命令が聞こえてくる〉(中略)女をさらってきたのもその命令の一つだったよ
 うだ。」(P151)

 こういうとりとめのない話が、次から次に重ねられていきます。
 これを、「面白い」と思うか、「アホか」と思うかは、非常に微妙なところですね。

 「語り部が話すように話すとは、その文化のもっとも深奥のものを感じ、生きること
 であり、その底部にあるものを捉え、歴史と神話の神髄をきわめて、先祖からのタブ
 ーや言い伝えや、味覚や、恐怖の感覚を自分のものとすることだからだ。」(P333)

 「話す」ということは、その民族の文化の根源に関わることです。
 そういったことを、作者は最も言いたかったのではないでしょうか?

 さて、「密林の語り部」を読んだら、古代マヤの神話を読みたくなってきました。
 中公文庫から「マヤ神話ポポル・ヴフ」が出ています。この機会に読みたいです。


マヤ神話 ポポル・ヴフ (中公文庫)

マヤ神話 ポポル・ヴフ (中公文庫)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/04/21
  • メディア: 文庫



 2003年に出た「楽園への道」は、池澤夏樹の世界文学全集にも入っていました。
 バルガス=リョサの作品では、「楽園への道」がイチオシという人も多いです。


楽園への道 (河出文庫)

楽園への道 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(第二波は?)

 再びコロナの感染者数が、じわじわと増えてきました。
 昨日はとうとう全国で350人。米国の5万人に比べたら全然ましですが・・・

 とにかく、しっかり予防して、これ以上増えないように気を付けたいです。
 それでも「第二波は来る」と言われているので、しっかり備えておかなければ。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。