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ロード・ジム1 [19世紀イギリス文学]

 「ロード・ジム」 ジョセフ・コンラッド作 柴田元幸訳 (河出文庫)


 海難事故で自分の弱さを露呈した船員が、英雄的行動を志して悲劇に至る物語です。
 1900年に出ました。コンラッドの代表作です。1965年に映画化されています。

 以前は講談社文芸文庫でしか読めませんでした。しかもひどく古い訳でした。
 現在は、河出文庫から柴田元幸の訳が出ています。格段に分かりやすいです。


ロード・ジム (河出文庫)

ロード・ジム (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: Kindle版



 主人公のジムは、のちに「ロード・ジム」(ジム閣下)と呼ばれるようになる男です。
 牧師の息子ですが、大きな理想を持って船乗りとなり、活躍の場を求めていました。

 「二年間訓練を受けた末に船乗りとなって、己の想像力がすでによく知っている世界
 に入ってみると、そこには奇妙に冒険が欠けていた。」(P19)

 航海中に怪我をしますが、退院後は本国へ帰らずパトナ号の一等航海士となりました。
 パトナ号は化石的に古い蒸気船で、800人もの巡礼者たちを載せていました。

 ある夜、船が異常事態に陥りますが、船長や船員たちは密かにボートで脱出しました。
 ジムは船客と運命を共にしようと思いながら、無意識にボートに飛び降りていました。

 しかしパトナ号は沈まず、フランス軍艦に助けられ、船員の行動は問題となりました。
 船長らが逃げてしまったあと、ジムはひとり裁判にかけられ、屈辱を味わいました。

 ジムに同情したマーロウ船長(語り手)は、ジムに知り合いの工場を紹介しました。
 ジムは居場所を見つけましたが、しばらくのちに、なぜか突然去って行き・・・

 以前、講談社文芸文庫で読んだときには、これを孤高の英雄の物語とみなしました。
 講談社文芸文庫「ロード・ジム」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-21

 しかし、今回新訳で読み直してみて、次のように思い直しました。
 これは、英雄的な冒険に憧れた青年の悲劇なのではないか。しかも、やや滑稽な。

 ジムを追い詰めたのは、自分は英雄的な人物だ、というジム自身の思い込みでは?
 だからジムは、自分自身の犯した卑劣な行動を、決して許せなかったのでしょう。

 「でもぼくは、こいつを乗り越えなくちゃいけない。何ひとつ逃れちゃいけないん
 です、さもないと・・・駄目です、絶対何ひとつ逃れやしません。」(P209)

 トンズラした船長らに比べて、裁判を受けたジムは、確かにとても立派でした。
 だから最初、現実逃避のように遠くへ流れていくジムの姿に、違和感を覚えました。

 ジムは、英雄として行動したかったので、ひとりでも裁判に立ち向かったのでは?
 そして、英雄として存在したかったので、パトナ号事故の噂から逃げ回ったのでは?

 ジムのそのような性向を、スタインは「ロマンチスト」と呼びました。なるほど。
 確かにジムは夢や空想を追っていて、現実離れした面があるように思います。

 さて現在、ちょうど半分ほどを読み終わりました。
 マーロウがスタインにジムを預けるところからです。物語はここからが面白い!

 「自分の命は救われたが、人生はもう終わったとーー足元の地面を失って、目の
 前に見えるものも消えて、耳に聞こえる声もなくなって。すべて滅ぼされたんだ
 とーー」(P157)

 しかし、ここから、ロマンチスト・ジムの人生やり直し大作戦が始まります。
 がんばれ、ジム。彼は、失った名誉を取り戻すことができるのだろうか。

 さいごに。(パラレル・ワールド)

 うちではしょっちゅうパラレルワールドが出現します。
 というのも、今使っていた消しゴムが、忽然として消えてしまっていたり・・・

 そういう時、私と娘は、「パラレル・ワールドに行っちゃった」と言います。
 その証拠に、探すのをやめると、忽然と現れることが多いので。

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