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マシアス・ギリの失脚1 [日本の現代文学]

 「マシアス・ギリの失脚」 池澤夏樹 (新潮文庫)


 南洋の小国ナビダード民主共和国大統領、マシアス・ギリが失脚するまでの物語です。
 魔術的リアリズムの手法で描かれた独裁者小説で、1993年に谷崎賞を受賞しました。


マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

  • 作者: 夏樹, 池澤
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 文庫



 舞台は、南洋のどこかにある、ナビダード民主共和国。人口7万人の小さな島国です。
 かつて日本の統治領だったことがあり、そのため日本との深いつながりがある国です。

 主人公は大統領のマシアス・ギリ。日本語堪能で、日本と太いパイプを持っています。
 二代大統領の地位を滑り落ちた後、何か後ろめたい手段を用いて返り咲いたようです。

 ある日、日本から来た慰霊団のバスが失踪し、ケンペー隊の捜査は難航していました。
 一方、日本政府からの密使である鈴木が持ち掛けた提案には、何か裏がありそうです。

 マシアス・ギリは、我が身に変化が起きつつあることを、なんとなく感じ取りました。
 彼は問題に対処するため、霊力を持つ女エメリアナをそばに置きましたが・・・

 読書仲間から「この作品は日本のラテンアメリカ文学だ」と聞き、興味を持ちました。
 600ページ以上に及ぶ大作ですが、現在、半ばの300ページほどまで読みました。

 ガルシア・マルケスに心酔していた池澤は、魔術的リアリズムの手法を用いました。
 巫女的存在のエメリアナ、亡霊のリー・ボー、そして千変万化するバス・・・

 南米的な幻想世界が広がっています。しかし、ただのファンタジーではありません。
 この作品をさらに魅力的にしているのは、随所で述べられる歴史観や日本論です。

 「われわれが住むこの大きな騒乱の世紀を開いた戦争が、その戦場をほぼヨーロッパ
 に限定しながらもなお世界大戦と呼ばれるのは、まさにこの時になって一つの世紀と
 一つの世界が重なるという現象が起こったからである。一つの時間意識と一つの空間
 意識が同時にこの惑星の上のすべての人間を包み込んだ。」(P98)

 「この国を本当に世界に冠たる国にするには、歴史のこの局面で一度は敗北というこ
 とを味わうことが必要なのだ。これによって制度としての天皇制は、先の日の発展を
 読み、最も強い機能を発揮する。」(P115)

 一見物語と関係ないような文章ですが、実は奥深い所で有機的につながっています。
 物語を読み進めながら、異文化問題や独裁制など、多くの問題を考えさせられます。

 ところが、私によく理解できなかったのが、時々挿入される「バスリポート」です。
 「バスが海を泳いでいたよ」とか、「バスが空を飛んで行ったよ」とか・・・

 いったい何が面白いのか。シムラやカトちゃんが、言いそうなことではないか。
 魔術的な雰囲気を出そうとして失敗し、単なる子供だましになってしまったようです。

 一方「バスリポート」を「これぞ池澤ワールド」と評する人もいて、理解に苦しむ。
 この先このバスが、どのように物語に絡むのか。あっと驚く展開を期待したいです。

 さいごに。(我が地域でも緊急事態宣言)

 我が社では、仕事の半分を在宅勤務とし、職場の人を半減するよう求められました。
 それも、明日の月曜日から実施せよとのこと。

 私は、午前をほぼ在宅勤務にし、お客さんが来る午後には出勤する予定です。
 今は、みんなでがんばらなければならないとき。なんとかシフトを組まなくては。

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