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スティル・ライフ [日本の現代文学]

 「スティル・ライフ」 池澤夏樹 (中公文庫)


 染色工場でアルバイトをする「ぼく」と、不思議な雰囲気を持つ佐々井の物語です。
 1988年に芥川賞を受賞しました。小説家池澤夏樹の、出発点となる名作です。


スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1991/12/10
  • メディア: 文庫



 染色工場でアルバイトをしている「ぼく」は、アルバイトの佐々井と知り合いました。
 佐々井は不思議な雰囲気を持つ男で、バーでは宇宙やら微粒子やらの話をしました。

 二日後に佐々井はバイトをやめますが、その1か月後に電話がかかってきて・・・
 佐々井が持ち掛けた仕事は何だったのか? 佐々井にはどんな過去があったのか?

 「世界ときみは、日本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、
 それぞれまっすぐに立っている。」(P9)

 池澤夏樹は詩人です。冒頭の詩的表現が、我々を物語の世界へいっきに引き込みます。
 透明感のある文章と、醒めきった雰囲気は、村上春樹の初期作品に似ていました。

 この作品の大きな魅力は、佐々井という男の不思議な雰囲気でしょう。
 バーで、水の入ったグラスをじっと見ながら、佐々井はこんなことを言います。

 「チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると、
 光が出る。それが見えないかと思って」(P11)

 こういう言葉を吐く男を、クールだと思うか、キザだと思うかは、微妙なところです。
 「ぼく」はというと、佐々井の語る遠い星の爆発で出た粒子の話に引き込まれました。

 このときから、「ぼく」には、佐々井に対する強烈な好奇心が、湧き起こりました。
 だから、佐々井の持ち掛けた奇妙な仕事を、手助けするようになったのだと思います。

 「緊張と興奮が続いた。劇場の中みたいだ。外とはまったく別の世界を約束ごとで作っ
 て、みんながその実在を信じるふりをすることで、ドラマチックな興奮が得られる。で
 も、厭きるんだよ、そういうのって」(P72)

 この言葉は、バブル時代を演出した、当時の時代精神に対する批判となっています。
 この作品が出た1987年というのは、まさにバブル期のピークでした。

 さて、この本には「ヤー・チャイカ」という中編も収録されています。
 娘と二人暮らしをする男と、来日10年目のロシア人との、つながりを描いています。

 二人のやり取りが面白いです。あるときロシア人が、提案してきたことは・・・
 そして、娘はしだいに遠ざかっていきます。まるで、無人探査機のように・・・

 ところで、娘と恐竜の挿話は何なのか? この空想日記に何を象徴したのか?
 タイトルもイマイチだし、「スティル・ライフ」と比べて、完成度はずっと落ちます。

 私は「マシアス・ギリの失脚」の作者の出発点を知りたくて、この本を読みました。
 「マシアス・ギリの失脚」を読む前、私にとって池澤は「世界文学全集」の人でした。
 「世界文学全集」について→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-08-25

 ところが、色々調べてみると、池澤夏樹の受賞歴がスゴイ。
 「花を運ぶ妹」とか「ハワイイ紀行」とか、ほかにも読んでみたい作品は多いです。


花を運ぶ妹 (文春文庫)

花を運ぶ妹 (文春文庫)

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 文庫



ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)

ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)

  • 作者: 夏樹, 池澤
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/07/28
  • メディア: 文庫



 さいごに。(届いた!アベノマスク)

 先日、職場に「アベノマスク」が届きました。公共性が高い仕事なので。
 マスクそのものよりも、その気持ちが嬉しいですね。

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