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ブラス・クーバスの死後の回想 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「ブラス・クーバスの死後の回想」
 マシャード・ジ・アシス作 武田千香訳 (古典新訳文庫)


 死んでから作家となったブラス・クーバスが、生涯を振り返って書いた回想録です。
 作者はブラジルで最も有名な作家のひとりです。1881年に出た本書は代表作です。


ブラス・クーバスの死後の回想 (光文社古典新訳文庫)

ブラス・クーバスの死後の回想 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Kindle版



 「わたし」ブラス・クーバスは、1869年8月に自分の屋敷で息を引き取りました。
 死後、どういうわけか作家となり、64年の生涯を160の断章で綴っていきます。

 死んだ日のこと、死の直前の幻想、誕生、家族のこと、子供のころの思い出・・・
 マルセーラ、エウジェニア、そして、自分と結婚するはずだったヴィルジニア・・・

 この作品は「小説の常識を覆す小説」「小説に挑戦した小説」などと紹介されます。
 というのも、各断章はユニークで、とりとめのないつながり方をしているからです。

 「七十一章 本の欠点」では、前章までの話の流れは、どこかにいってしまいます。
 そして「この本のことを後悔している」と話し始めますが、これがなかなか面白い。

 「なぜなら、本書の最大の欠点は、読者よ、あなただからだ。
 あなたは老いを急ぐが、本の歩みはのろのろしている。」

 「百三十九章 いかに国務大臣にならなかったかについて」は、なんと、空白です。
 理由は次章で「物事には沈黙で語ったほうがいいことがある。」と説明されています。

 さて、この作品の命は、死者が生涯を語り出すという奇抜な発想にあります。
 私はとても期待したのですが、しかし、彼の人生自体は、まったく普通でした。

 ちょっとお金がある男が、結婚もせず、成功もせず、ぐだぐだと生きています。
 人生唯一のヤマ場は、ヴィルジニアとの不倫話ですが、劇的な展開はありません。

 自分が死霊となって出現することもなく、他の死者を蘇らせることもありません。
 これでは、死者が作者となった意味が、ほとんどないのではないでしょうか?

 ところで、この作品は細切れなので、読みやすかったです。訳も分かりやすいです。
 章ごとにページが変わるので余白が多くて、分量が多いわりにサクサク進みました。

 なお、マシャード・ジ・アシスの作品は、現在ほとんど出ていないので貴重です。
 古典新訳文庫からは、さらにもう一つの代表作「ドン・カズムッホ」も出ました。


ドン・カズムッホ (光文社古典新訳文庫)

ドン・カズムッホ (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(娘の大会)

 中学2年生の娘の、陸上競技の大会が行われましたが、見に行けませんでした。
 厳重なコロナ対策のため、3年生の保護者以外は、入場禁止となったからです。

 これは、仕方ありません。高校の方は、無観客でやっていましたから。
 ちなみに娘は、走高跳に出て記録なし。最初の1m25が跳べなかったのだそうです。

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