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どくとるマンボウ青春記 [日本の現代文学]

 「どくとるマンボウ青春記」 北杜夫 (新潮文庫)


 大戦末期に旧制高校に入学してから、大学医学部時代までを描いた青春エッセイです。
 自身の日記をもとにユーモアを交えて書いた自伝的作品で、多くの人に読まれました。


どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

  • 作者: 北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/09/28
  • メディア: 文庫



 終戦直後に、ようやく旧制松本高校は再開され、著者の寮生活が始まりました。
 個性的で暖かい教員、愉快な仲間たちに出会い、高校生活はいっきにはじけました。

 寮の記念祭、インターハイ出場、試験総サボ事件、火事事件、太陽党の誓い・・・
 パトスという男、ドイツ語のT、モチ先生、トーマス・マンとリルケ、辻邦生・・・

 戦後まもないころの荒涼とした日本で、彼らは青春のエネルギーを爆発させました。
 彼らの行動には、青春特有のバカバカしさと、青春特有のひたむきさがあります。

 多くのエピソードの中で、特に印象に残っているのは、父茂吉との確執です。
 「おまえはバカになった」と父。しかしそうさせたのは父の歌のすばらしさだった!

 父に反対されたため、医学部に入学したものの、文学を捨てきれなくて・・・
 隠れてトーマス・マンを読み、こっそりと詩を書き、ひそかに小説家を志し・・・

 また、辻邦生が登場する場面も印象的でした。辻は松本高校のひとつ先輩でした。
 しかし2度落第したため、北が卒業する時には、辻の方が後輩になっていていた!

 「航海記」では無名のTが、8年後の「青春記」では名を成して本名で登場します。
 「青春記」が出た頃、辻邦生はすでに傑作「背教者ユリアヌス」を出していました。

 それぞれのエピソードも面白いのですが、何気なく書かれた記述も心に残りました。
 特に本と読書に関する記述には、とても愛着を感じました。

 「終戦後の秋、ようやく岩波文庫が粗悪な紙で発行されたが、そのころは岩波文庫と
 いえば内容も知らずになんでも手に入れようという客で行列ができたものである。」
 (P131)

 「それがおもしろかったから読み、素晴らしかったから読み、何が何やらわからない
 から驚嘆して読んだ。空腹だったから雑草まで食べたように、精神的の飢餓が貪婪(
 どんらん)に活字を求めたのである。」(P153)

 トーマス・マンにかぶれていた頃のエピソードには、妙に納得してしまいました。
 道を歩いていて、「トマト・ソース」という看板に、一瞬ギクリとしたと言います。

 また、マンの「トニオ・クレーゲル」から引用された一文は、まさに名言でしょう。
 「文学というものは、決して天職でもなんでもなくて、ひとつの呪いなんですよ」

 ところで「青春記」は全13章から成っています。1章が20~30ページで読みやすい。
 中でも、次の3章は私のお気に入りです。オススメです。

 5つ目の「瘋癲(ふうてん)寮の結末」。高校時代の寮生活の描写が楽しい。
 7つ目の「銅の時代」。将来のことで父と対立するが、結局妥協して医学を志す。

 10個目の「いよいよものを書きだす」。父茂吉に隠れて詩を書き始めます。
 「一度父に見せて下さい。」という手紙を読んで、もう先は長くないと感じ・・・

 さて、北杜夫の作品で、ほかに押さえておきたいのは、処女長編の「幽霊」です。
 私は大学時代、リルケにかぶれていた頃に読んで、とても感銘を受けました。


幽霊―或る幼年と青春の物語 (新潮文庫)

幽霊―或る幼年と青春の物語 (新潮文庫)

  • 作者: 北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1965/10/12
  • メディア: 文庫



 また、辻邦生の「背教者ユリアヌス」も、早く読みたいです。
 全4巻で出た新版を、すでに2巻まで買ってありますが、まだ読んでいません。


背教者ユリアヌス(一) (中公文庫)

背教者ユリアヌス(一) (中公文庫)

  • 作者: 辻 邦生
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/12/22
  • メディア: 文庫



 さいごに。(AUサポートセンター?)

 AUサポートセンターから、「海外から多額の請求あり」というメールが来ました。
 びっくりして、もう少しでクリックしちゃうところでしたよ。

 AUに問い合わせたら、「そんなメールは送っていない」とのこと。やはり詐欺だ。
 こういう悪質な連中を、AUは取り締まれないものなのでしょうか。

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