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トレインスポッティング1 [20世紀イギリス文学]

 「トレインスポッティング」アーヴィン・ウェルシュ作 池田真紀子訳 (角川文庫)


 ヘロイン中毒の青年たちの、絶望的で退廃的な生活を描いた、半自伝的な作品です。
 90年代に出て話題となり、ユアン・マクレガー主演で映画化され、ヒットしました。


トレインスポッティング〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

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  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: 文庫



トレインスポッティング [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

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 レントンは、スコットランドのエディンバラに住む、ヘロイン中毒の青年です。
 失業保険詐欺をしていますが、本当はまともな生活をしたいと考えているようです。

 シック・ボーイはヤク中で女たらし、ベグビーはレントンの幼馴染でアル中で狂暴。
 スパッドもヤク中だが心優しい青年、トミーは女と別れてからヤク中になりました。

 レントンはヘロイン中毒から脱しようと努力しますが、仲間から離れられず・・・
 あるとき知り合ったダイアナは、まだ14歳の少女で・・・

 主にレントン、時にシック・ボーイ、ベグビー、スパッドらの視点で描いています。
 登場人物が多く、語りの主体も変わるため、時々誰の話なのか分からなくなります。

 トレインスポッティングは、直訳すると「鉄道マニア」という意味です。
 鉄道操車場にヤク中が集まったことから、「ヘロイン中毒」を指すのだそうです。

 この小説には、レントンたちを中心に、ヤク中やアル中の連中ばかりが登場します。
 そしてこのクズ野郎どものハチャメチャな行動が、ひとつの読みどころです。

 レントンがようやく手に入れたアヘンの座薬を、出してしまう場面はサイコーです。
 急にもよおして大便を出しましたが、その便所は詰まっていて、クソの山でした。

 一緒に出てしまった座薬を探すため、そのクソの山に手を突っ込んで・・・
 やっとのことで見つけ出した座薬を、きれいに洗って、もう一度尻の穴へ・・・

 チンピラ同士に喧嘩をさせる場面では、ベグビーのクレイジーぶりが際立ちました。
 自分でビール・ジョッキをちんぴらにぶつけておいて、犯人捜しを仕切り始め・・・

 そういえばベグビーは、レントンの飲んでいるビールに、小便を混ぜたりしました。
 レントンは、知らずにそれを飲んでしまって・・・

 ヤク打った、女とやった、喧嘩した、ゲロ吐いた、ウンコもれた、という話ばかり。
 ですから、この小説に対して、嫌悪感を覚える人も多いと思います。

 この小説の品を、ギリギリのところで救っているのが、スパッドかもしれません。 
 気弱な彼ですが、リスに石をぶつけようとするレントンを、押さえつけました。

 「リスはすごくかわいい生き物だ。自分のことだけを考えて生きてる。自由な生きも
 のなんだ。きっとだからレンツはリスが嫌いなんだ。リスは自由に生きているから。」
 (P233)

 さて、この小説には、一貫した作者の思いが感じられます。
 それは、作者の故郷スコットランドに対する思いです。

 「俺はイギリス人を憎んではいない。あんなやつら、ただのあほうじゃないか。いい
 かい、俺たちはそのあほうの集団に植民地にされたんだぜ。(中略)それがどういう
 意味か、わかるかい? 俺たちは最低中の最低、世界のクズだってことさ。この世に
 創られたあらゆるものの中で、一番みじめで、卑しくて、情けなくて、とるに足りな
 いクズなんだ。俺はイギリス人を憎んでなんかいない。やつらはやつらで、勝手にや
 らせておけばいい。俺が憎んでるのは、スコットランド人さ。」(P117)

 作者が一番言いたかったのは、こういうことだったのではないかと思います。
 だからこそ、作品全体から、どことなく悲哀や寂しさを感じるのでしょう。

 多くの登場人物を通して描きたかったのは、エディンバラなのかもしれません。
 スコットランドの首都エディンバラの、退廃的な様子を・・・

 そういう意味で、ジョイスの「ユリシーズ」と似ているのかもしれません。
 ジョイスが描いたのは、アイルランドの首都ダブリンの、退廃的な様子で・・・

 さいごに。(映画トレインスポッティング)

 1990年代といえば、私が社会人になったばかり、まだ20代でした。
 当時とても流行っていましたが、私は見ませんでした。見てみたいです。



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