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蠅の王 [20世紀イギリス文学]

 「蠅の王」 W・ゴールディング作 黒原敏行訳 (ハヤカワepi文庫)


 無人島に不時着した少年たちの社会が、やがて崩壊し抗争に至る過程を描いた小説です。
 人間社会の在り方を風刺して、世界中に衝撃を与えました。作者はノーベル賞作家です。

 長い間、新潮文庫と集英社文庫の平井訳が定番でしたが、数年前、黒原訳が出ました。
 新訳のハヤカワepi文庫版は、カバーも秀逸で、モノとしての価値を格段に高めました。


蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: 文庫



蠅の王 (新潮文庫)

蠅の王 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1975/03/30
  • メディア: 文庫



 疎開先に向かっていた飛行機が、無人島に不時着し、少年たちだけが残されました。
 ほら貝の音で集まった少年たちは、ラルフをリーダーに選び、ルールを決めました。

 少年たちの社会は最初順調でしたが、しだいにラルフとジャックが対立し・・・
 ジャックが豚を殺し、船が通り過ぎて行った日から、少しずつ何かが変わり・・・

 「豚殺せ。喉を切れ。血を流せ」「豚殺せ。喉を切れ。ぶちのめせ」(第四章)
 ジャックたちのこの歌が、魔物を引き連れてきたような気がしてなりません。

 私は、タイトルの「蠅の王」とは悪魔ベルゼブルのことだ、と聞いていました。
 そのため、ホラー小説のつもりで読み始めました。実際、最初から不気味でした。

 小さい子どもたちは、「獣みたいなもの」「蛇みたいなもの」を見たと言いました。
 そして突然、ひとりの子供が理由もなくいなくなり、その後ずっと戻ってきません。

 この島には何か邪悪なものがいる! おそろしい何かが、子供たちを狙っている!
 しかし、彼らの見たという〈獣〉は、どうやら自分たちの中にいたようなのです。

 「〈獣〉ってぼくたちのことかもしれないってことなんだ」(P153)
 寡黙な少年サイモンが、不意に発したこの言葉は、とてもイミシンです。

 そしてこのサイモンだけが、「蠅の王」の言葉を耳にするのです。
 「おまえは知っていたんだな。わたしがおまえたちの一部であることを。」(P252)

 この物語が、刊行当時世界に衝撃を与えたということが、とてもよく分かります。
 第九章以降は、狂気のような展開でした。ホラー小説以上に恐ろしかったです。

 この小説は、ヴェルヌの「十五少年漂流記」のパロディだとも言われています。
 「蠅の王」と比べたら、ヴェルヌの作品はとても健全でした。改めて読み直したい。

 さいごに。(チコちゃんに叱られ・・・)

 NHKのチコちゃんが、「ぼーっと生きてるんじゃないよ」と言うたびに、
 自分のことを言われているみたいで、腹が立ってしまいます。(あーあ)

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