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サロメ(原田マハ) [日本の現代文学]

 「サロメ」 原田マハ (文春文庫)


 ビアズリーの挿絵で世間を驚かせた、ワイルドの戯曲「サロメ」にまつわる物語です。
 作者一流の絵画小説で、今年5月に文庫化されたばかり。カバーのイラストが美しい。


サロメ (文春文庫)

サロメ (文春文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/05/08
  • メディア: Kindle版



 1981年、18歳のオーブリー・ピアズリーは、画家バーン=ジョーンズを訪ねました。
 そこにたまたま居合わしたのが、今を時めく36歳のオスカー・ワイルドでした。

 ビアズリーの絵を一目見て、ジョーンズもワイルドも驚愕し、言葉も出ませんでした。
 オーブリーがワイルドを見返したとき、ふたりの間には強い磁力が働き合い・・・

 「君は芸術家になる。それも、不世出の。そして、もう決してあとには戻れなくなるだ
 ろう。なぜなら・・・
  ――なぜなら、私が君をより遠いところまで連れていくことになるだろうから。」
 (P98)

 推理小説っぽく始まりますが、それを期待していると、軽い失望を覚えるでしょう。
 名作「楽園のカンヴァス」のような、あっと驚くような展開は無いので。

 そのかわり、十九世紀の世紀末の退廃的な雰囲気に、どっぷり浸かることができます。
 特に、裏の主役であるオスカー・ワイルドの、妖しい雰囲気がたまらない!

 「私は、とっくに覚悟している。罪人になることを。なぜなら、あらゆる芸術は不道
 徳だからだ。
  君がやるべきことは、たったひとつ。
  地獄に落ちることだ。——この私と一緒に。」(P232)

 一方、ビアズリーの挿絵の魅力については、こんなふうに書かれていました。
 ほんと、こういう文章を書かせたら、原田マハは天下一品ですね。

 「仄暗い沼底で妖しく揺らめく得体の知れぬ微光。ほのかな明滅に引き寄せられる迷
 いびとが、ひと目その光を見たならば、またたくまに引き込まれ、沼底へと飲み込ま
 れてしまう、抗いがたい魅力。」(P148)

 なお、「サロメ」の挿絵には、ワイルドをデフォルメして描き込んでいると言います。
 知らなかった。改めて、岩波文庫版「サロメ」の挿絵を、チェックしてしまいました。
 「サロメ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-09-18

 次は、ゴッホを描いた「たゆたえども沈まず」や「ゴッホのあしあと」を読みたい。
 それから、ピカソを描いた「暗幕のゲルニカ」も読まなければ。


たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)

たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: 文庫



ゴッホのあしあと (幻冬舎文庫)

ゴッホのあしあと (幻冬舎文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2020/08/06
  • メディア: 文庫



暗幕のゲルニカ(新潮文庫)

暗幕のゲルニカ(新潮文庫)

  • 作者: 原田マハ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/21
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(声をかけないでって?)

 先日、陸上競技場に行ったら、娘の中学校が練習で来ていました。
 ところが、娘にこういうときは「声をかけないで」と言われています。

 近くで走っていたので、声をかけたり手を振ったりしたかったのですが、我慢しました。
 思春期の女の子には、何かと気を使いますね。

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